「雇用が陰り、インフレはくすぶり続ける」
Forbesは米国で景気悲観が広がっていると報じました。実際、公式統計と市場データを重ねると、消費の粘り強さの裏で求人の停滞・コアサービス物価の粘着・家計/不動産のストレス増大が同時進行している構図が見えてきます。
以下、雇用→物価→家計/金融→企業/不動産の順に“黄信号”の実体を点検し、日本への波及と今後のシナリオをまとめます。 フォーブス
目次
雇用:失速は“足元では緩やか”、ただし求人の鈍化がじわり
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失業率は8月に4.3%。コロナ後ボトムからは反発し、“完全雇用ギリ上”のレンジに滞在。雇用者数の増勢も鈍化気味です。
Bureau of Labor Statistics -
求人(JOLTS)は7月に720万件で横ばい〜わずかに鈍化傾向。ポストコロナの過熱は明確に冷め、レイオフはまだ小さいが“採用慎重化”が定着
Bureau of Labor Statistics
物価:総合は落ちても“粘り”が残る
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CPI(8月)は前年同月比+2.9〜3.6% (総合/季節調整の違い)。足元の上昇寄与は自動車保険や家財、医療などのコアサービス。エネルギー鈍化の“下押し貢献”が薄れると戻り圧力も
Bureau of Labor Statistics+1 -
FRB見通しでもインフレの2%復帰は時間がかかるとの認識。直近の政策当局者発言も「金融環境は当面タイト」を示唆。利下げ期待のスピード調整が続く公算です。
連邦準備制度理事会+1
家計・信用:延滞と金利負担が“じわり悪化”
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家計債務はQ2に18.39兆ドルへ増加、延滞率は4.4%に上昇。とくに自動車ローン・クレジットカードで延滞が目立つ——高金利の長期化が効いています。
ニューヨーク連邦準備銀行+1 -
**商業不動産(CMBS)の延滞率は7.29%(8月)**まで上昇し、6か月連続の悪化。地域銀行の資産健全性や与信姿勢に重し
Trepp+1
企業/景況:“急ブレーキではないが、足踏み”
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ISM製造業は依然ボーダー周辺での行き来(9月分は10/1公表)。拡大・縮小の境目50前後でのもみ合いが続き、積極投資には踏み切りにくい局面
ISMワールド+1 -
対外環境では中国景気のもたつきが続き、先行きの外需には不確実性
Reuters+1
総括:Forbes「悲観拡大」は妥当か
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妥当:求人の鈍化、コアサービスの粘着、家計/CREの延滞上昇という“3点セットの黄信号”は実データで裏づけられる。
Trepp+3フォーブス+3Bureau of Labor Statistics+3 -
留保:雇用の崩れはまだ限定的で、失業率4%台前半・レイオフ小幅という“底堅さ”も共存。急転直下のリセッション確定とは言えない。
Bureau of Labor Statistics
日本への影響:円・金利・企業収益の“三角関係”
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円相場
米利下げ観測が強まればドル安/円高に振れやすい。日本の実質輸出には逆風も、エネルギー・食料輸入価格には追い風 -
金利
米長期金利低下→日本の金利上昇圧力は相対的に和らぐが、日銀の正常化シナリオ次第でイールド差の読みは難易度高 -
企業収益
米需要の鈍化は自動車・半導体・コンサル/ITサービスに波及リスク。もっとも在庫の軽さ/日本企業のコスト改革で耐性は過去より向上
先行きを読む:3つのシナリオ(確率は筆者推定)
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ソフトランディング(最有力)
賃金・物価がゆっくり減速、失業率は4.5〜4.8%で天井打ち。FRBは高止まり→小刻み利下げへ(24–40%)。連邦準備制度理事会 -
スタグ気味の長期戦
コアサービスが粘り、2%目標復帰が遠のく。高めの金利が長引き、家計・CREの延滞がさらに悪化(30–35%)。Reuters+1 -
急速悪化(リスクシナリオ)
雇用の崩れ(採用凍結→解雇)、与信収縮が重なり景気後退入り(20–25%)。JOLTSの急減と延滞加速が点灯サイン。Bureau of Labor Statistics+1
企業・投資家のアクションチェックリスト
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米需要の感応度(売上の地理構成)を棚卸しし、悲観シナリオの感応度試算を更新
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ドル円の両方向に備え、受発注/原材料の為替前提レンジを広めに設定
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与信ポリシーを見直し(米取引先の延滞先行指標をモニタ)
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在庫回転/運転資金の管理を強化(高金利長期化シナリオに備える)
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設備投資は“省人・省エネ・AI省力化”の回収短い案件を優先
参考・出典
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米国の景況感:Forbes “米国経済への悲観が拡大” 記事。フォーブス
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労働市場:BLS 雇用統計(8月失業率4.3%)、JOLTS(求人720万件)。Bureau of Labor Statistics+1
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物価:BLS CPI(8月、コアサービスの粘り)。Bureau of Labor Statistics+1
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金融政策:FRB SEP(9/17)/当局者発言。連邦準備制度理事会+1
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家計・信用:NY連銀 家計負債信用レポート(Q2/2025)、延滞率4.4%。ニューヨーク連邦準備銀行+1
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不動産:Trepp CMBS延滞率 7.29%(8月)。Trepp
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景況:ISM PMI(公表スケジュール)。ISMワールド
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外需環境:中国PMIの鈍化。Reuters+1