「日本は移民を受け入れていない」。政府はそう言い続けてきた。しかし2025年末、在留外国人は初めて400万人を超え、国際機関の定義ではそのほとんどが「移民」にあたる。数字で実像を検証する。
「移民ではない」という建前と、国際機関の現実
2018年の入管法改正を審議した国会で、当時の首相は「政府としては、いわゆる移民政策をとることは考えていない」「即戦力になる外国人材を期限付きで受け入れるもの」と繰り返した。この立場は今も政府の基本姿勢だ。
一方で、国連や経済協力開発機構(オーイーシーディー)は、その国に1年以上暮らす人を「移民(マイグラント)」と定義する。これに照らすと、日本が受け入れている労働者・技能実習生・留学生・その家族の多くは、国際的には明確に「移民」にあたる。争点は「移民がいるか」ではなく「それを移民と呼ぶか」に移っている。
[確認できた事実] オーイーシーディーの国際移民アウトルック2025は、2024年に日本が長期・永住ベースで約17万7千人の新規移民を受け入れたと記載。内訳は労働移民63%、家族(帯同を含む)34%、人道1%で、日本の受け入れを「移民」として集計・分析している。
数字で見る現実 ― 在留外国人412万人、労働者257万人
出入国在留管理庁によると、2025年末の在留外国人数は412万5,395人。前年末から35万6,418人(9.5%増)増え、初めて400万人を超えて過去最高を更新した。在留資格別では永住者が94万7千人で最多で、特定技能が39万人と前年から10万人以上増えて伸びが際立つ。
働く外国人に絞ると、厚生労働省の集計で2025年10月末の外国人労働者は257万1,037人(前年比11.7%増)と、これも過去最多。就業者のおよそ26人に1人が外国籍という水準で、もはや「一部の職場の話」ではない。
分類別に見る「移民」 ― 用語の対応表
政府が「移民ではない」と呼ぶ人々は、国際機関の枠組みではどの区分にあたるのか。在留資格ごとに、国連やオーイーシーディーが使う英語区分と人数を並べる。
| 日本の呼び方 | 国際機関の区分 | 人数の目安 |
| 在留外国人(全体) | migrant, immigrant | 412万5,395人 |
| 外国人労働者 | labour migrant | 257万1,037人 |
| 特定技能 | labour migration | 390,296人 |
| 技能実習 | temporary labour migration | 456,618人 |
| 育成就労(2027年開始) | labour migration | 上限42万人(見込) |
| 家族帯同 | family migration | 新規流入の34% |
| 永住者 | permanent immigrant | 947,125人 |
| 外国人の定住 | settlement, immigration | 永住者に接続 |
在留外国人は2025年末、労働者は2025年10月末、家族割合はオーイーシーディー2024年の内訳。
国籍別の構成 ― 特定技能はベトナムが4割
国籍別では中国が最多、次いでベトナム、韓国。近年の伸びが激しいのはネパールとインドネシアで、上位国の顔ぶれと勢いが急速に入れ替わっている。
| 国籍・地域 | 在留者数(前年末比) |
| 中国 | 930,428(+57,142) |
| ベトナム | 681,100(+46,739) |
| 韓国 | 407,341(-1,897) |
| ネパール | 300,992(+67,949) |
| インドネシア | 266,069(+66,245) |
上位5か国。出典:出入国在留管理庁(2025年末)。
特定技能では偏りがさらに鮮明で、2025年6月末の総数33万人あまりのうちベトナムが14万8千人(44.2%)と4割超を占める。一部の送り出し国への強い依存は、供給の安定性というリスクでもある。
特定技能から家族帯同、永住、帰化まで ― 制度の経路
「一時的な労働力」という建前とは裏腹に、制度は長期定住へ接続する設計だ。段階を追うと次のようになる。
段階1 育成就労(原則3年)/2027年4月に技能実習を置き換えて始まる。一定要件で同一分野内の転籍も可能に。
段階2 特定技能1号(通算5年)/家族帯同は不可。この期間は永住の10年要件にカウントされない。
段階3 特定技能2号(在留上限なし)/配偶者と子の帯同が可能。更新回数に制限がなく、事実上の長期定住が開ける。
段階4 永住者/10年以上の在留(うち就労5年以上)、素行、独立生計(年収300万円程度)、公的義務の納付などを満たせば申請できる。
段階5 帰化(日本国籍)/原則5年以上の在留などが要件。ここまで来て初めて「日本人」になる。
[論点・分析] 出口は「定住」に開かれている一方、現実の通過者はまだ細い。鍵となる特定技能2号は2025年6月末で3,073人(前年の3.7倍だが総数は少ない)。帰化許可も年8千〜9千人台で、むしろ20年前より減っている。「大量の移民が一気に国籍を得る」という像は、現時点のデータとは一致しない。
政府が設定した"上限" ― 2028年度末までに123万人
では次年度以降はどれだけ増える見込みか。2026年1月23日、政府は特定技能と育成就労の分野別運用方針を閣議決定。2028年度末(2029年3月末)までの受け入れ見込数を、事実上の上限として次のように定めた。
| 制度 | 受け入れ上限 |
| 特定技能1号(19分野) | 80万5,700人 |
| 育成就労(17分野) | 42万6,200人 |
| 合計 | 123万1,900人 |
出典:2026年1月23日閣議決定。物流倉庫・リネンサプライ・資源循環の3分野も新たに追加。
特定技能だけでも、2025年6月の33万人から2029年3月には80万人規模へ、およそ倍増する計算だ。前回の上限の約2.4倍にあたる水準で、政府は「移民政策ではない」と言いつつ、5年ごとに枠を大きく広げ続けている。
人手不足は本当か、それとも安い労働力か
「移民が増えるのは人手不足だから」という説明はどこまで事実か。二つの見方を突き合わせる。
[人手不足は構造的で本物だ、とする根拠]
生産年齢人口は1995年の8,726万人をピークに、2025年には約7,300万人へ減少。民間研究機関の試算では2040年に1,100万人規模の労働供給不足が見込まれる。省力化投資を進めても、なお埋まらない分が残るという推計が主流だ。
[安い労働力・補助金目当てという批判の根拠]
内閣府の分析では、日本人と外国人の賃金には単純比較で約28%の差がある。うち4分の3は業種・企業規模・年齢・学歴などで説明できるが、残る約7%は属性で説明のつかない格差として残る。かつての技能実習では、失踪した実習生の失踪動機の67%が「低賃金」だったという法務省調査もあり、受け入れ企業向けの助成金が用意された分野もある。
[論点・分析] 両者は排他的ではない。構造的な人手不足は実在し、同時に「安く柔軟に使える労働力」として使われてきた側面も否定できない。障害の切り分けと同じで、原因を一つに決めつけると対策を誤る。「不足」か「安さ」かを分野ごとに切り分けてこそ、実効的な議論になる。
徹底討論 ― いま整理すべき論点
2025年は外国人政策が政治の主要争点として一気に可視化された年だった。7月の参院選では「日本人ファースト」を掲げる政党が伸び、10月発足の高市内閣は「外国人との秩序ある共生社会担当大臣」を新設。方針は「量の拡大」から「質の管理」へ軸足を移し、永住要件に日本語能力や収入基準を加える厳格化も進む。感情論に流れやすいテーマだからこそ論点を分けたい。
① 呼び名の問題 「移民ではない」という建前は、実態の議論を遠ざけてきた。統計整備や長期の共生設計を先送りする口実になっていないか。
② 依存の偏り 特定技能はベトナム一国に4割超を依存。送り出し国の経済成長や円安が進めば供給は細りうる。「来てもらえる前提」は盤石ではない。
③ 定住の受け皿 制度は永住へ開かれつつあるのに、日本語教育や住宅、子どもの就学といった生活基盤の整備が追いつかない。増やす議論と支える議論の速度が合っていない。
④ 数字の見え方 絶対数では過去最多でも、人口1,000人あたりの新規永住移民は1.4人とオーイーシーディーの中では最下位クラス。「多い」も「まだ少ない」も同じ統計から言える。前提を明示せず語ると議論はすれ違う。
[確認できた事実の要点] 在留外国人412万5,395人、外国人労働者257万1,037人はいずれも公的統計の確定値。2028年度末までの受け入れ上限123万1,900人は閣議決定済み。国際機関はこれらを「移民」として集計している。事実は共通の土台であり、その先の評価は立場によって分かれてよい。
まとめ ― 「呼ばない」ことの代償
日本はすでに、国際的な定義では紛れもなく移民を受け入れている国だ。数は過去最速のペースで増え、制度は定住・永住へと接続し、政府は上限を5年ごとに拡張している。問題は「移民がいるか」ではない。それを移民と呼ばず、正面から政策として設計してこなかったツケが、統計の遅れや共生基盤の不足として表面化している点にある。
賛成でも反対でも、まず必要なのは同じ数字を見て話すことだ。「移民ではない」という言葉が、その最初の一歩を妨げているのだとすれば、代償は決して小さくない。