皿の上はめざし一匹——
委託費の内訳に隠された構造
2025年12月、自民・公明・維新の3党合意により、2026年度から国主導での給食費無償化が始まることが決まった。基準額は児童1人あたり月額約5,200円、国が交付金で食材費相当分を自治体に補助する仕組みだ。
だが、「無償化」とは保護者の支払い負担をゼロにするということであって、給食の質が向上するわけでも、食材費の予算が増えるわけでもない。ここに、この政策の本質的な問題が潜んでいる。
学校給食法では、設備費・調理員人件費=自治体負担、食材費=保護者負担という原則がある。「無償化」は保護者が払う食材費分を税金で肩代わりするだけ。施設・運営コストの構造は何も変わらない。
全国PTA連絡協議会の調査によれば、1食あたりの給食食材費の全国平均は約293円。月約19食として計算すると、月額5,567円が上限となる。国の無償化基準額の5,200円はこれより低く、すでに地域によっては食材費の全額補填にもならない水準だ。
| 項目 | 金額(概算) | 負担者 |
| 食材費(食べ物そのもの) | 約293円 | 保護者→無償化後は税金 |
| 調理員人件費 | 数百〜千円規模 | 自治体(税金) |
| 施設・設備費 | 別途計上 | 自治体(税金) |
| 民間委託の場合:委託料・管理費 | 別途(自治体払い) | 自治体(税金) |
給食の調理業務は今や多くの自治体で民間に委託されている。大阪市では令和7年4月現在、小学校178校・中学校21校で民間委託を実施。「効率化」の名のもとに進んできた民営化だが、その裏側には深刻な矛盾が生まれていた。
民間委託の最大のコスト削減源は人件費だ。自治体が直接雇う調理員より低賃金で委託業者が調理員を雇い、差額を利益とする構造。問題は、その入札方式にある——自治体の多くは最安値入札(最低価格落札)を採用しており、業者間の「価格競争」が常態化している。
「値上げの申請に行くと『わかった値上げしよう』という学校や役所はゼロ」
「広島の落札金額は他の府県と比べると半分以下。全国で一番安い。運営できない金額で平然と落札される」
「食材費や人件費は高騰しているが、業界は非常に安い。ビジネスモデルは崩壊している」
2023年9月、ホーユー(広島)が突然事業を停止。13府県・約150か所の給食が一斉にストップした。帝国データバンクの調査では、同年10月までに給食事業者の倒産は17件に上り、2年連続増加・過去5年で最多ペースとなった。
日本給食経営管理学会理事の石田裕美氏は「ホーユーの場合、かなり低価格を提示された時点で、行政側が本当にこの価格で給食を提供できるのかを計算すべきだった」と指摘する。
最安値入札採用
で低価格落札
極限まで圧縮
業界関係者によれば「ホーユーは他の給食事業者の10分の1近い価格水準で入札し、落札していたケースもあった」という。7人で調理すると説明していた現場で実際には3〜4人しかいなかったという証言も出ている。
東京都文京区の現役管理栄養士・松丸奨氏は「一食の給食にかけられる費用は全国平均で260円ほど」と語り、2022年以降の物価高騰を「多くの食材が1.2倍から2倍の額にまで上がった。ニンジンは一時期7倍にまで値上がりしたことも」と証言している。
| 区分 | 月額(概算) | 備考 |
| 最高:福島県 | 5,314円 | — |
| 最低:滋賀県 | 3,933円 | 最高との差:約1,400円 |
| 10年前(2013年度)比・小学校 | +13%(+523円) | 物価高騰が直撃 |
| 国の無償化基準額(月額) | 約5,200円 | 福島県には足りない |
給食委託費の内訳は、情報公開請求によって市民でも入手できる。大阪府吹田市は2022年度の直営・委託比較表を公表しており、全13小学校の委託料総額が約2億9,192万円(平均2,246万円/校)であることが確認できる。
② 入札結果公告(応札業者名・入札価格の一覧)
③ 給食費収支決算書(食材費・委託費の内訳)
④ 給食センター運営経費明細(光熱費・消耗品費等)
⑤ 業者選定基準・審査結果報告書
愛知県東浦町の公開資料によれば、現在の給食費は小学校1食280円。物価高騰で主食(ご飯)が特に値上がりし、「副菜に充てられる金額が減っている」と明記されている。つまり「めざし一匹」の現実は数字で証明されている。
給食無償化は「保護者の財布から税金の財布に支払い先が変わる」だけだ。民間委託の低価格入札が続く限り、食材費は圧縮され続け、皿の上の貧しさは変わらない。
本当に子どものための政策なら、必要なのは次の3点だ。
① 最安値入札の廃止と「総合評価落札方式」への移行
② 食材費の最低基準を法定化し、実態に即した引き上げ
③ 直営給食の質・委託給食の質の第三者モニタリング義務化
「無償化」というポジティブな言葉の陰で、子どもたちの食卓の現実は変わらないかもしれない。自治体の給食委託費の内訳を情報公開請求で引き出し、地域ごとの実態を市民が検証していくことが、今こそ求められている。

情報源:全国PTA連絡協議会・帝国データバンク・日経ビジネス・文部科学省・各自治体公開資料