🟢 ドイツで戦後の政治秩序を揺るがす事態が進行している。複数の世論調査で、右派・国家主義政党「ドイツのための選択肢(AfD)」が全国支持率で 第1党 に立ち、中道与党を明確に上回った。集計サイトの加重平均(9月5日時点)ではAfDが27.9%で首位、与党のキリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)は20.9%にとどまる。
🟢 さらに9月6日には東部ザクセン=アンハルト州で州議会選が投開票を迎える。事前の世論調査でAfDは40%超を記録し、実現すれば 第2次大戦後初めて「極右」と分類される政党が州政府を主導する 歴史的な事態となりうる。本稿では、独・EU・アルジャジーラなど国際報道をもとに、いま何が起きているのかを整理する。
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AfDとはどんな政党?わかりやすく解説
🟢 AfD(ドイツのための選択肢)は2013年、ユーロ危機を背景に「反ユーロ・反EU」を掲げる政党として誕生した。当初は経済学者らが中心の懐疑派政党だったが、2015年にメルケル政権が約100万人の難民(多くはシリア出身)を受け入れたことを機に急伸し、その後は反移民・国家主義色を一段と強めていった。
🟢 現在の党首はアリス・ヴァイデル氏とティノ・クルパラ氏の共同代表制。とくに旧東ドイツ地域では国家主義的な強硬派が主導権を握り、厳格な移民規制、ロシアへの制裁反対、公共放送や再生可能エネルギー政策への敵対などを主張の柱としている。
🟡 ドイツの国内情報機関(連邦憲法擁護庁)は同党を「右翼過激主義」に分類しており、州レベルでも複数の州支部が「確認された右翼過激組織」と認定されている。AfD側はこの認定を不当だとして司法で争っている。🔵 「極右」「国家主義」という呼称自体が争点化しており、支持者は「まっとうな保守」と自認する一方、批判者は「憲法秩序への脅威」とみなす、という深い断絶がこの党をめぐる論争の核心にある。
ドイツ社会・経済の状況と「闇」
🟢 AfD台頭の土台には、欧州最大の経済大国ドイツの長期停滞がある。ドイツ経済は2023年・2024年と2年連続のマイナス成長に沈み、2025年もわずか+0.2%、2026年の政府・欧州委員会の予測も+0.5〜0.6%程度にとどまる。実質的に「4年続きの停滞」であり、戦後のドイツでは前例のない事態だ。
🟢 雇用の悪化も鮮明だ。2026年7月には失業者数が約300万人(3.007百万人)を超え、失業率は6.4%と約12年ぶりの高水準に達した。看板産業の自動車・機械でも人員削減が相次いでいる。
| 指標 | 内容 |
| 経済成長率 | 2023・2024年はマイナス、2025年は+0.2%、2026年予測も+0.5〜0.6%と低迷 |
| 失業 | 2026年7月に失業者300万人超、失業率6.4%(約12年ぶりの高水準) |
| 人員削減 | フォルクスワーゲン 約3.5万人/ボッシュ 約2.2万人/ティッセンクルップ 約1.1万人 の削減計画 |
| 鉱工業生産 | 2017年のピーク比で約15%減。産業の空洞化懸念が強まる |
| 財政 | 「債務ブレーキ」を緩和し、国防・インフラ向けに約5000億ユーロの特別基金を創設 |
🟢🔵 停滞の主因として指摘されるのは、①ロシア産ガス途絶後のエネルギー価格高騰(さらにホルムズ海峡をめぐる中東情勢の緊張で再上昇)、②中国製電気自動車(EV)との競争激化、③米トランプ政権によるEU製自動車への関税引き上げ(15%→25%)だ。輸出主導・製造業依存というドイツ経済モデルそのものが構造的に揺らいでいる。
🔵 生活実感の悪化と「将来不安」は、既成政党への不信となって噴出しやすい。とりわけ旧東ドイツ地域では、雇用の乏しさ、医師不足、公共交通の縮小、村落の過疎化が重なり、「ベルリンの遠いエリートに統治されている」という感覚が根強い——これがAfDの受け皿となっている、との見方が有力だ。
最新の選挙情報・支持率
🟢 まず全国レベル。連邦議会選の支持率を各社平均でみると、9月5日時点でAfD27.9%、CDU・CSU20.9%、緑の党14.5%、SPD12.3%、左派党11.6%。1年前には与党が30%超・AfDは18%前後だったが、この1年で完全に逆転した。
| 政党 | 全国支持率(9月5日時点) | 昨年の連邦選挙(2025) |
| AfD | 27.9%(第1党) | 20.8%(第2党) |
| CDU・CSU(与党) | 20.9% | 第1党・首相輩出 |
| 緑の党 | 14.5% | — |
| SPD(与党) | 12.3% | — |
| 左派党 | 11.6% | — |
🟢 焦点の州選挙は、9月6日のザクセン=アンハルト州。公共放送ZDF系の直前調査ではAfD約41%、CDU約23%と大差がついた。ドイツの比例制では得票率と議席がほぼ連動するため、AfDが州議会(83議席)で第1党となるのは確実視され、集計では約39議席との予測も出ている。
| 政党 | 州世論調査(投開票直前) | 2021年州選挙 |
| AfD | 約41〜42%(第1党の勢い) | 20.8% |
| CDU | 約23% | 37.1% |
| 左派党 | 約11〜12% | 11.0% |
| SPD | 約8% | 8.4% |
| 緑の党 | 約5〜6% | 5.9% |
🟡 続く9月20日には北東部メクレンブルク=フォアポンメルン州(AfD約37%)と首都ベルリン州(CDU21%、左派党19%、AfD18%)でも州選が予定される。東部を中心に、AfDの上げ潮が続くかが試される「選挙の秋」となる。
ドイツの移民問題
🟢 AfDの綱領(今回「わが国を第一に」を掲げる)は、移民政策で極めて強硬だ。アルジャジーラの報道によれば、同党は 亡命権(庇護権)の廃止、亡命申請者の現金・資産の没収、大量送還 を主張。さらに「アンティファ(反ファシズム運動)」の禁止、公共放送の廃止、再エネ転換の撤回、「ドイツの歴史的・文化的一体性」を侮辱した者への刑罰まで盛り込む。
🔵 AfDは、亡命申請者やルーツを持つ人物による事件を繰り返し政治利用してきた。2026年7月にベルリンのプライドパレードで起きた車突入事件では、同党は「過去数年の破滅的な移民政策」を非難したが、実際の容疑者はドイツ生まれだった。事件の強調が過剰だとの批判もあるが、こうした事案が起きるたびに移民問題が前面に押し出される構図がある。
🟡 一方、メルツ政権(CDU)自身も移民に厳しく舵を切り、シリア難民の庇護受け入れ停止や送還強化に踏み込んだと報じられる。移民をめぐる世論の右傾化が、既成政党とAfDの双方を「強硬」方向へ引っ張っているといえる。
AfDが支持される理由
🟡 ザールラント大学のマルティン・シュレーダー教授らの研究(2014〜2024年のデータ分析)は、「移民への懸念は、実際の・あるいは体感される経済的不利よりも、およそ10倍もAfD支持を説明する」と指摘する。移民問題が最大のドライバーだという分析だ。
🟡 フランクフルト・ゲーテ大学のトーマス・ビーブリッヒャー教授は、支持拡大の主因を「政治状況・連邦政府・経済全般への広範な不満」とし、加えて「有能な筆頭候補を擁立できたこと」を挙げる。また支持層は労働者だけでなく、「規制緩和・減税を望む資本家層の一部」にも広がっているという。
🔵 整理すると、AfD支持は(1)移民・治安への不安、(2)長期不況と生活不安、(3)旧東部の構造的な取り残され感、(4)「既成政党=遠いエリート」への反発、が折り重なった現象だ。これらは相互に補強し合い、既成政党が「防火壁(ブランドマウアー)」で締め出すほど、AfDは「エリートに封じ込められる被害者」という物語を強められる——という皮肉な循環も生んでいる。
現政権とAfD、政権交代の可能性
🟢 現在の連邦政府は、メルツ首相のCDU・CSUとSPDの大連立(2025年発足)。だが全国トレンドでは、この与党連合の議席は過半数に届かない水準まで低下している。首相のメルツ氏はAfDとも左派党とも協力しないと明言しており、当面AfDが連邦政府入りする道は「防火壁」で塞がれている。
🔵 したがって、少なくとも次期連邦選挙(2029年予定)までは、全国レベルでの直接的な「政権交代」は起きにくい。焦点はむしろ、①州レベルで防火壁が保つのか、②AfDが州政府を主導する前例が生まれるのか、にある。ザクセン=アンハルトでも、5%条項を越える小政党が増えれば、AfDは第1党でも単独過半数に届かず、他党連合が「AfD抜き」で政権を組む余地は残る。
🟢🟡 もう一つの大きな論点が「政党禁止」だ。連邦議会では、超党派の議員がAfD禁止の判断を憲法裁判所に求める動議を提出(賛同者は100人超)。推進派は「憲法に敵対する政党が政権に手を伸ばしている」と警告する。一方、CDUのフライ氏やCSUのドブリント氏らは慎重で、「AfDは禁止できない、統治で退けるしかない」「禁止に失敗すれば同党に“殉教者”の物語を与える」と反対する。禁止論そのものが諸刃の剣となっている。
EU諸国・英国に与える影響
🟢🔵 AfDの台頭は、欧州全体に広がる右派・国家主義のうねりの一部だ。イタリアではメローニ政権が戦後最長級の安定政権となり、スウェーデンやフランスでも右派が伸長している。欧州最大国ドイツで「極右」が第1党・州政権へと近づく事実は、各国の同種勢力を強く勇気づける象徴的な意味を持つ。
🟡 EUとの関係では、ヴァイデル党首がEU改革(欧州委員会の権限縮小など)を求め、改革が不可能なら英国の離脱(ブレグジット)に倣った国民投票も辞さない構えを示してきた(「デグジット」=独のEU離脱)。AfDは欧州議会で従来の会派を外れ、新たな右派連携の道を探っている。
🔵 英国や米国とのつながりも見逃せない。AfDはトランプ流の「米国第一」路線や、実業家イーロン・マスク氏、英国の新興右派勢力などと親和的で、相互に影響し合う関係にある。加えてAfDはロシアへの制裁に反対しており、仮に影響力を増せば、ドイツの対ウクライナ支援やEUの結束、対ロシア政策にも波紋が及びかねない。欧州の安全保障という観点からも、ドイツの政治変動は域外から注視されている。
まとめ
🔵 AfDの「第1党」浮上は、単発の異変ではなく、長期不況・移民不安・東西格差・既成政党不信という複合的な地殻変動の表出だ。9月の州選挙群と政党禁止をめぐる攻防は、「防火壁」で封じ込める従来路線が持続可能かどうかの試金石となる。ドイツ一国の話にとどまらず、EUの結束や欧州の対ロシア戦略にも直結するテーマとして、今後も速報でフォローしていく。
出典:Al Jazeera、Reuters、欧州委員会(経済見通し)、ドイツ連邦銀行、Forschungsgruppe Wahlen ほか各世論調査機関の公表データ(2026年1〜9月)。