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世間で起きているあれやこれや

内閣支持率はどう作られるのか|電話調査の限界と欧米が出した答えを徹底検証

同じ月の「内閣支持率」が、ある社では55.8%、別の社では68%。差は12ポイント。どちらも「無作為抽出(ランダム・サンプリング)による科学的な調査」を名乗っている。──この数字は、いったい何を測っているのか。

新聞・テレビが毎月発表する内閣支持率と政党支持率。私たちはそれを「民意の体温計」として受け取っている。しかしその体温計の中身、つまり どうやって調べているのか を説明できる人は多くない。本稿では、日本の支持率調査の実装(インプリメンテーション)を分解し、電話方式が抱える構造的なバイアス(偏り)を検証したうえで、米英独がすでに移行を終えつつある手法と比較する。結論から言えば、日本の調査は「間違っている」のではなく、設計思想が20年前のまま止まっている

■ 信頼度ラベルについて

🟢 複数ソースで確認された事実 / 🟡 単一ソース・調査主体の自己申告 / 🔵 筆者による分析・評価

1. 同じ月、同じ内閣。なのに支持率が12ポイント違う

2026年6月から7月にかけて発表された高市内閣の支持率を並べてみる。

調査主体 内閣支持率 調査時期・方式
共同通信 55.8% 6月20〜21日/電話(RDD)
NHK 60% 6月上旬/電話(RDD)
JNN(TBS系) 65.9% 7月上旬/電話
日経・テレビ東京 68% 6月26〜28日/電話(RDD)・回答率41.3%

🟢 いずれも各社が公表した数字である。調査日が数週間ずれているため単純比較はできないが、それにしても幅が大きい。日経調査の「誤差の目安はおよそ3ポイント以内」という自社説明を前提にすれば、共同と日経の差12ポイントは統計的な偶然では説明しきれない。

🔵 この差の正体を業界用語で ハウス・エフェクト(調査会社ごとの系統的な癖) という。同じ「無作為抽出」を掲げながら、質問文の作り方、選択肢の数、重ね聞きの有無、ウェイト(重み付け)補正の設計、実施曜日と時間帯──そのすべてが各社バラバラだからだ。つまり支持率とは、有権者の意識だけでなく 調査設計そのものを測っている数字 でもある。

2. 日本の支持率調査は、こうやって作られている

🟢 現在、大手報道各社の定例世論調査は RDD方式(ランダム・デジット・ダイヤリング=無作為番号ダイヤル法) が主流だ。処理の流れをエンジニア風に書けば、こうなる。

▼ RDD方式の処理フロー

① 番号生成:総務省が割り当てた番号帯をもとに、コンピューターが乱数で電話番号を作る。固定電話は下4桁、携帯電話は下5桁を乱数化。電話帳非掲載の番号にも当たるのがミソ。

② 架電:オペレーター(調査員)が実際に電話をかける。自動音声ではなく人間が話す。

③ 世帯内抽出:固定電話では、出た人にそのまま聞かない。世帯の有権者人数を尋ね、乱数で「年齢が上から○番目の人」を対象者に指名する。在宅率の高い高齢者・主婦への偏りを防ぐためだ。

④ 追跡(コールバック):指名した人が不在でも対象者は変更せず、時間を変えて何度もかけ直す。一度断られても再依頼する社もある。

⑤ ウェイト集計:固定と携帯の両方を持つ人の抽出確率の違い、回線数、世帯人数、地域・性別・年代の構成比を国勢調査に合わせて補正する。

🟢 かつては固定電話だけが対象だった。2016年4月に読売新聞と日経新聞、同年7月に朝日新聞、2017年4月にNHKと共同通信、同年9月に毎日新聞が、固定+携帯の デュアルフレーム方式(二重抽出枠) へ移行している。若年層の「携帯しか持たない層」が抜け落ちるカバレッジ・エラー(被覆誤差)を埋めるためだ。

🟡 日経の説明によれば、現在の回答に占める固定電話の割合は2割程度にとどまり、年代別の回収割合は人口構成とほぼ一致するという。設計としては、想像以上に丁寧だ。ここは正当に評価すべきである。

3. では、電話方式の何が問題なのか

問題は「誰に電話するか」ではなく、「誰が電話に出て、答えてくれるか」 にある。

(1) 回答率の長期低落

🟢 朝日新聞の2018年10月調査では、固定47%・携帯48%の回答率が公表されていた。ところが2023年9月調査では携帯が39%まで低下。日経の2023年9月調査も回答率39.2%だった。2026年6月の日経調査は41.3%で踏みとどまっているが、訪問面接が主流だった時代の80%前後という水準からは遠い

🔵 原因は明白だ。特殊詐欺と迷惑営業電話の蔓延により、「知らない番号には出ない」が国民的な防衛行動として定着した。世論調査は、詐欺電話と同じフィルターに引っかかっている。

(2) ノンレスポンス・バイアス(無回答による偏り)

🔵 回答率が下がること自体は、実は致命傷ではない。致命的なのは 「答えない人」と「答える人」が体系的に違う人種である 場合だ。メディア史学者の佐藤卓己氏は、RDDの本質的問題として「私生活の空間に突然侵入する電話に快く回答してくれる人が、民意の平均像から逸脱していること」を挙げている。

🔵 見知らぬ番号に出て、数分間の政治的質問に付き合ってくれる人は、政治関心が高い層・時間に余裕がある層・他者への警戒心が低い層に偏る。年齢と性別のウェイト補正では、この 「政治関心」という観測されない変数の偏り は補正できない。ここが電話方式の急所である。

(3) 性別の偏り

🟢 携帯RDDでは、無作為に依頼しても回答者の6割超が男性になることが知られている。知らない番号への警戒感が女性のほうが強いためとみられる。逆に固定電話では女性が多くなる。デュアルフレーム化は、この二つの偏りを打ち消し合う効果も持っている。

(4) 質問文と選択肢という「アルゴリズム」の違い

🔵 支持率が各社でずれる最大の理由は、実は抽出方法ではなく 質問設計 だと考えられる。「支持する/支持しない」の二択で迫る社と、「どちらとも言えない」を許す社では、支持率が10ポイント近く動く。さらに「どちらとも言えない」と答えた人に「強いて言えば?」と重ね聞きするかどうかでも変わる。同じ入力データに対し、各社が別々の関数を適用しているのだから、出力が違うのは当然だ。

4. なぜ、いまどき電話なのか

「時代遅れだから電話をやめろ」と言うのは簡単だが、日本が電話に固執する理由には それなりの合理性と、それ以上の惰性 がある。

理由 中身
① 名簿が使えない 🟢 2006年の住民基本台帳法改正で閲覧が厳格化され、報道機関が名簿から対象者を抽出するのが困難になった。訪問面接から電話へ雪崩を打った直接の引き金である。
② 速さ 🔵 週末2日で1000件集めて月曜朝刊に載せる。この即時性は郵送調査(2〜3週間)では絶対に出せない。「速報性」が報道の商品価値そのものになっている。
③ 時系列の断絶を恐れる 🔵 手法を変えると過去の数字とつながらなくなる。「前月比マイナス4ポイント」という報道の基本フォーマットが成立しなくなるため、各社は移行を極端に嫌う。レガシー・システムの移行問題そのものだ。
④ 確率標本という建前 🟢 RDDは「全国民が等しい確率で選ばれる」確率標本(プロバビリティ・サンプル)を名乗れる。ネット調査会社の登録モニターでは、この建前が使えない。
⑤ 業界の同調圧力 🔵 自社だけ手法を変えて数字が他社とずれれば「あの社の調査はおかしい」と叩かれる。横並びが最も安全という、日本的な均衡が働いている。

🟢 なお、日本でも実験は進んでいる。毎日新聞は2020年4月から2024年9月まで、携帯へのSMS(ショート・メッセージ・サービス)と固定へのオートコール(自動音声応答)を組み合わせた「ノン・スポークン方式」を採用し、2024年10月から別方式に移行した。朝日新聞はネット調査会社の登録モニターを使うウェブ調査を、選挙情勢調査などで導入している。

🟡 ただし日経リサーチは、オートコール調査について明確に一線を引いている。番号抽出こそRDDでも、世帯内での無作為抽出も対象者の追跡も行わないため回答は「電話に出やすい人・協力的な人」に偏り、回答率は10%前後にとどまる。ゆえに代表性が認められず、世論調査ではなく「世論観測」としてしか使えない──という整理だ。安いオートコール調査の数字がSNSで一人歩きする現状を考えると、この線引きは重要である。

5. 欧米はどうしているか

アメリカ:電話を捨て、「確率パネル」へ移行した

🟢 米ピュー・リサーチ・センターの電話調査回答率は、1997年の36%から2018年には 6% まで落ちた。ロボコール(自動営業電話)が月間34億件に達し、見知らぬ番号は反射的に拒否される。同センターは2019年以降、米国内調査の大半を アメリカン・トレンズ・パネル(ATP) に移した。

🟢 ATPの設計は示唆に富む。2018年以降、募集は ABS(アドレス・ベースト・サンプリング=住所ベース抽出) だ。米郵便公社の配達順序ファイル(人口の90〜98%をカバー)から無作為に世帯を選び、紙の手紙と謝礼を郵送 して招待する。世帯内では「次に誕生日が来る成人」を選ぶ。こうしてリクルートした確率標本を、以後はオンラインで繰り返し調査する。

🔵 ポイントは 「入口は郵送で確率的に、本調査はネットで安く速く」 という二段構えである。パネル内の回答率は87%と高い一方、募集段階の脱落を含む累積回答率は3%にすぎない。それでも「誰が選ばれる確率も既知である」という統計学的な正統性は維持される。ここが登録モニター型ネット調査との決定的な違いだ。

🟢 ただし万能ではない。2020年米大統領選では全国世論調査の93%が民主党候補の支持を過大評価し、2016年も88%が同様に外した。手法を変えても、「調査に協力しない層の政治的偏り」という根本問題は残っている

イギリス:非確率のネットパネル+統計モデルで勝負する

🟢 英国は割り切りが早かった。ユーガブ等のオンライン・パネル(登録モニター)が主流で、電話調査は少数派だ。代表性の欠如は MRP(マルチレベル回帰・ポスト層化) という統計モデルで補う。数万人規模の全国サンプルから「属性ごとの投票傾向モデル」を作り、国勢調査の地域別人口構成に当てはめて、選挙区単位の議席予測まで叩き出す。

🟢 精度も検証されている。2024年総選挙でユーガブの最終MRP(サンプル4万7751人)は労働党を実際より4.3ポイント過大評価した。議席予測では最も正確だったが、得票率では誤差が残った。2015年・2017年の大失敗を受けて、パネル構成(政治関心の低い層、低学歴の若年層、前回棄権者を積極的に補充)を作り替えた経緯がある。

🟢 制度面が最も参考になる。英国には 英国世論調査協議会(BPC) があり、2024年時点で34社が加盟。加盟社は 依頼主・質問文の全文・サンプル数・調査地域の公開を義務づけられる。法的規制ではないが、非加盟社の調査は「信用できないもの」として市場から扱われる。選挙後には各社が失敗の自己検証レポートを公表し、BPCがそれを一箇所に集約して公開する。

ドイツ:電話を捨てず、ミックスモードで補強する

🟢 独公共放送ARDの「ドイツトレンド」は、約1500人への電話調査を基礎に据えたまま、2013年から固定60%・携帯40%のデュアルフレーム化を実施。さらに2021年からはオンライン調査を追加した ミックスモード設計 に移行した。ZDFの「政治バロメーター」も1977年以来、電話中心の定点観測を続けている。

🔵 つまり欧米も一枚岩ではない。「電話を捨てた米国」「ネットに賭けた英国」「電話を残しつつ足す独国」──共通しているのは 手法を検証し、公開し、修正し続けている という一点だけである。

6. 日本と欧米の比較

項目 日本 米国 英国 ドイツ
主流の手法 電話RDD(固定+携帯) 郵送募集の確率オンラインパネル 非確率オンラインパネル 電話+オンラインの混合
抽出枠 乱数生成した電話番号 郵便の住所ファイル(ABS) パネル登録者+割当 電話番号(二重枠)
回答率の実態 約39〜48%(各社公表値) 電話は6%/パネル累積3% 概念上、算出困難 非公表が多い
補正技術 性・年代・地域のウェイト 多変量ウェイト+検証 MRP(モデル推定) ウェイト+モード補正
業界の開示ルール 義務なし(各社の裁量) AAPORの自主基準 BPCが全文開示を義務化 学術機関との連携が強い
失敗後の検証 社内限りが基本 公開レポートあり 各社が反省文を公開 学会誌で公表

🔵 この表で日本が突出して劣っているのは、実は 調査手法ではなく「開示」と「検証」の欄 だ。日本の各社は回答率も有効回答数も公表しており、その点はむしろ誠実である。だが 質問文の全文、選択肢の順序、重ね聞きの有無、ウェイトの計算式 まで踏み込んで公開している社はほとんどない。数字だけが独り歩きし、その数字を生んだコードは非公開──ブラックボックスのAPIを叩いて出た値を、国民が政治判断の根拠にしている状態である。

7. 日本はどうすべきか──5つの提案

① 「入口は郵送、本体はウェブ」の確率パネルを共同構築する
米ATP型である。日本には住民基本台帳という世界屈指の名簿がある。統計法に基づく公的調査であれば行政記録の利用が可能であり、報道各社が単独で持てないなら 共同出資の中立機関 を作ればよい。初期コストは高いが、パネルを一度作れば以後の1回あたり調査費は電話より安い。

② 移行期は必ずミックスモードで「橋を架ける」
手法を切り替える際、旧方式と新方式を1年以上並走させ、両者の差(モード効果)を測定して公表する。これをやらずに切り替えると、支持率の変動が「民意の変化」なのか「手法の変化」なのか永久に判別できなくなる。システム移行時の並行稼働と同じ話だ。

③ 英国BPC型の開示ルールを業界標準にする
質問文の全文、選択肢、提示順、回答率、ウェイト変数、委託先、依頼主。これらの公開を業界共通の入場料とし、公開しない調査の数値は報道に載せない。法規制ではなく、業界の自主ルールでやるべきだ。

④ 単独社の数字ではなく「平均と幅」で報じる
「支持率68%」ではなく「各社平均62%、幅は55〜68%、誤差は±3ポイント」と報じる。前月比1〜2ポイントの変動は統計的ノイズであり、ニュースではない。この報道作法を変えるだけで、世論調査の害の半分は消える。

⑤ 選挙のたびに事後検証を公開する
予測が外れたとき、なぜ外れたかを各社が公表する文化を作る。英国は2015年の大失敗を公開検証したからこそ、2024年に議席予測を当てた。失敗を隠す業界は精度が上がらない。これはエンジニアリングの鉄則でもある。

8. 読者として、数字とどう付き合うか

🔵 世論調査を「マスコミの捏造」と切り捨てるのは、しかし雑な態度である。日本のRDD調査は、世帯内無作為抽出も追跡架電もウェイト補正も、地道に実装されている。問題は悪意ではなく、老朽化と不透明さだ

実務的な読み方を3つだけ挙げておく。

絶対値より「差分」を見る 同じ社の、同じ手法での前月比なら意味がある。他社との水準比較にはほぼ意味がない。
複数社を並べて中央値を取る 1社の数字に反応するのは、単一のセンサー値でシステムを判断するのと同じ。冗長化して読む。
調査方法の注記を必ず読む 記事末尾の小さな文字に、有効回答数・回答率・方式が書いてある。オートコール調査なら数値の重みは大きく下がる。

🔵 民主主義は、民意を測る計測器の精度に依存している。その計測器が20年前の設計のまま、しかも校正記録が非公開だとしたら──それは政治の問題である前に、エンジニアリングの怠慢 だ。手法を変えろ、とまでは言わない。まず、どう作っているのかを全部見せてほしい。話はそこからである。

【本記事の主な参照元】
日経リサーチ「日経電話世論調査について」/日本経済新聞・共同通信・NHK・JNN各社の2026年6〜7月調査発表/朝日新聞社RDD回答率に関する日本世論調査協会研究論文/マス・コミュニケーション研究 第94号(併用式RDDの導入経緯)/Pew Research Center(電話回答率の推移、American Trends Panel 方法論)/British Polling Council(2024年総選挙の検証)/Infratest dimap(ARD-DeutschlandTREND 調査設計)/株式会社社会調査研究センター

  • この記事を書いた人

はぼぞう

旅と砂漠と写真と女性を愛する60歳ちょっと過ぎたの「元金融系システム屋」です。 現在は、社内SEのアルバイト件システム構築やってます。 シンガー 森口博子とアーティスト 中村中の大ファン

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