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教皇レオ14世がAIに警告——現代版「バベルの塔」が崩壊する前に私たちにできること

2026年5月25日、ローマ教皇レオ14世は自身初となる回勅(かいちょく)『マニフィカ・フマニタス』を発表した。AIの急速な進化が「現代版バベルの塔」を建設しつつあると警告し、テクノロジーと人間の尊厳をめぐる問いを世界に投げかけた。宗教の最高権威がなぜ今、AIについて語るのか。その内容を読み解く。

「回勅(かいちょく)」とは何か

「回勅(エンサイクリカル)」とは、ローマ教皇が全世界のカトリック司教に向けて発する最も権威ある公式文書のことだ。単なる声明ではなく、カトリック教会の公式な教えを示す重要な指針とされる。過去には労働者の権利を定めた1891年の『レールム・ノヴァールム』など、社会の大きな転換点ごとに発布されてきた歴史がある。

今回の回勅が特に注目される理由は、その発表の場にある。AI安全性研究の第一人者であるAnthropicの共同創業者クリストファー・オラー氏が登壇し、教皇とともに内容を解説したのだ。カトリック教会と主要AI企業が同じ壇上に立つのは前例のない出来事であり、この回勅が宗教の枠を超えた社会的メッセージであることを示している。

「バベルの塔」とは何か——旧約聖書の警告

旧約聖書に登場するバベルの塔の物語を、まず押さえておこう。

📖 バベルの塔(創世記11章)あらすじ

かつて人類はひとつの言語を話し、協力して「天まで届く塔」を建てようとした。しかし神は人間の傲慢さと野心を戒め、言葉をバラバラにして意思疎通を不可能にした。団結を失った人間たちは世界中に散らばった——という物語。「人間の力が天(神の領域)に届こうとするとき、必ず崩壊が訪れる」という警告として語り継がれている。

教皇レオ14世はこの物語を現代のAI開発に重ね合わせた。人類は長期にわたって人間の管理下に置くことが不可能なシステムを構築しつつあり、最終的には貧困層とエリート層の格差を広げ、人々の共感を損なうと指摘している。

回勅『マニフィカ・フマニタス』の全体像

『マニフィカ・フマニタス』とは「壮大なる(または輝かしき)人類」を意味するラテン語だ。4万2300語・83ページ、5章構成からなるこの文書の副題は「人工知能(AI)の時代における人間の保護」。発表は、レオ13世の回勅『レールム・ノヴァールム(労働者の権利を定めた歴史的文書)』公布から135周年にあたる日に合わせて行われた。

回勅は冒頭でその核心をこう要約している。

「神が創造された素晴らしき人類は、今日、決定的な岐路に立たされている。それは新たなバベルの塔を積み上げるか、あるいは、神と人類が共に暮らす国を築くかという選択である」

—— 回勅『マニフィカ・フマニタス』冒頭より

5つの社会原則——回勅が示す指針

回勅は5章構成で、教会の社会教説(しゃかいきょうせつ)の原則として5つの柱を示している。難しい言葉だが「人が人らしく生きるための社会のルール」を指すと考えればわかりやすい。

原則①
共通善
社会全体の利益を最優先に。国家を滅ぼしたり支配下に置こうとするあらゆる試みは「極めて非道徳的」と断言している。
原則②
知識の普遍性
テクノロジーが一部の人々の手に集中してはならない。デジタル革命の恩恵を受けた人と取り残された人の格差拡大を強く警戒している。
原則③
労働の尊厳
AIによる自動化が雇用を奪い、労働者が単なるコスト削減の対象になりかねないと警告。雇用の保護と労働の尊重を求めている。
原則④
社会正義
AI経済が奴隷制社会に類似した「2級の人間」を生み出す危険があると指摘。権力の集中と貧困層・エリート層の分断を強く批判している。
原則⑤
平和と責任
AIの軍事利用を強く非難。アルゴリズムによる判断が暴力のハードルを下げるとして、命の選別を自動化システムに委ねてはならないと強調している。

「AIを武装解除せよ」——その意味とは

回勅で特に話題となっているのが「AIを武装解除(ぶそうかいじょ)せよ」という呼びかけだ。これは単に戦争への使用を禁じるという話ではない。

教皇が言う「武装解除」とは、「技術の力を持つ者が当然のように世の中を支配してよい」という思い込みを解体することを意味している。テック企業がすでに政府よりも強大な権力を持ちつつある現状を踏まえ、対話と多国間主義(複数の国が協力して問題に対処する仕組み)を通じた規制の枠組みを早急に作るよう訴えている。

⚠️ 回勅が示すAIへの3つの具体的な指針

① AIは中立的なものではない——設計者の選択や優先順位を反映しており、一部の権力者の都合のよいものとして機能しうる
② AIは人間を代替するためではなく、人間のための補助的な道具として使われなければならない
③ AIに致命的または不可逆な決定を委ねることは禁じられ、常に適切な認識と責任を持つ人間の管理下に置かれなければならない

テクノロジーと宗教——なぜ教会がAIを語るのか

「宗教がテクノロジーに口を出すのはおかしい」と感じる人もいるだろう。しかしこの回勅は、技術論ではなく「人間とは何か」という根源的な問いを起点にしている。

教皇レオ14世は米国出身で数学の学位を持つ70歳。技術への理解がある人物だ。彼が強調するのは、AIはそれ自体が悪ではないという点だ。回勅は「テクノロジーは人間に敵対する力ではなく、それ自体は悪ではない。しかし中立的なものでもない」と述べる。問われているのは、それを使う人間の「性質と目的」なのだ。

また教皇はこう述べている——「真の説教とは信仰を分かち合うことです。AIは決して信仰を分かち合うことはできません」。司祭たちにAIを使った説教を書くことを禁じたこの言葉は、AI時代における「人間にしかできないこと」への問いを象徴している。

私たちへの問い——誰がボタンを押すのか

回勅が伝えようとしている本質はシンプルだ。テクノロジーはどこまでも進化するかもしれない。しかし最後にボタンを押す手は、死ぬことができ、苦しむことができ、そして責任を負うことができる人間の手でなければならない——。

「AIが人間に取って代わる」議論が過熱する今、宗教的権威からこのメッセージが発信されたことの意味は大きい。規制の枠組みが国際的に定まらないまま技術開発が加速する現状に、ひとつの対抗軸を示したといえる。

バベルの塔は崩壊した。現代の「バベルの塔」はどうなるのか。それは私たちひとりひとりの選択にかかっている、と教皇は語りかけている。

まとめ:回勅『マニフィカ・フマニタス』ポイント一覧

発表日 2026年5月25日(教皇署名は5月15日)
文書名 マニフィカ・フマニタス(壮大なる人類)
副題 AI(人工知能)の時代における人間の保護
分量 83ページ・4万2300語・5章構成
中心メッセージ AIは人間の尊厳を守るための道具でなければならない。権力の集中・格差拡大・軍事利用に強く反対
特記事項 発表にAnthropicの共同創業者が同席。教会とAI企業の前例のない協力体制
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はぼぞう

旅と砂漠と写真と女性を愛する60歳ちょっと過ぎたの現役エンジニアで元金融システム屋です。 シンガー 森口博子とアーティスト 中村中が大好きです。

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