
目次
1. 空気漏れ問題の経緯と最新動向
ISSは全長109m、質量約450トンの巨大な宇宙実験施設であり、1998年の建設開始以来、多国間で運用が続けられています。特にズヴェズダモジュールは2000年に打ち上げられた16モジュール中3番目に古い部位で、老朽化が指摘されていました。
NASA監察総監室(OIG)の2024年報告では、ズヴェズダの移送室「PrK」から1日あたり1.68kgもの空気が漏れているとされ、許容値(0.27kg)の6倍に達していました。今回、新たなリークポイントが見つかったことで、既存のシーリング処置が不十分であった可能性が高まりました。
ズヴェズダモジュール室内
2. 空気漏れがもたらすリスクとは?
- 生命維持装置への影響(酸素供給・温度制御)
- 通信・航法誘導システムの制限
- 補給機とのドッキング中止による運用支障
- 緊急時に隔離できない構造的脆弱性
こうしたリスクはNASAのISS諮問委員会(ISSAC)でも議題に上がっており、「壊滅的な構造故障の可能性」まで言及されています。
3. 「PrK」とは何か?漏洩セクションの正体
ズヴェズダは以下の3つの与圧室で構成されています:
- 球形の移送室(PKhO)
- 主作業室(RO:RO1 + RO2)
- 円筒状の移送室(PrK)
今回の漏洩源とされる「PrK」は、補給機「プログレス」がドッキングする後端ポートと主作業室をつなぐ通路です。亀裂の特定は困難で、赤外線カメラや顕微鏡を使っても場所が見つからないとのことです。
4. 民間ミッションへの影響:AX-4が延期に
本問題により、民間宇宙企業Axiom Spaceが計画していた「AX-4」ミッションは延期。安全上の理由から、クルー搭乗を見合わせる対応が取られました。さらにNASAは「追加の重要エリア」も封鎖しており、ズヴェズダ内の主作業室や生活エリア(トイレ、冷蔵庫、寝室など)も使用制限がかかる可能性があります。
5. スペースXが開発中のISS廃棄プラン「USDV」とは?
Elon Musk氏はXで「2年以内にISSを軌道離脱させるべき」と投稿。実際、スペースXではISSを安全に大気圏に落とすための新型宇宙船「USDV(Deorbit Vehicle)」を開発中です。
- NASAとの契約額:最大8億4,300万ドル
- 推力:通常の4倍、46基のスラスター搭載
- 接続予定:2028年11月
- 離脱実行:2031年3月、南太平洋への制御落下
6. 廃棄が早まる可能性と今後の論点
今回のインシデントは、老朽化した構造物がもたらすリスクの実例でもあります。これらをふまえ、以下の点が今後の論点となるでしょう:
- 2030年までの安全運用の可能性
- 次世代宇宙ステーションの建設加速
- 技術的課題への民間企業の参入強化
- 国家安全保障やインフラ運用上の宇宙依存リスク
7. まとめ:ズヴェズダ問題は「宇宙版インフラ崩壊」か
今回の空気漏れ事案は、単なる物理的な損傷ではなく、インフラの老朽化と信頼性低下を象徴する重要なシグナルです。ISSに限らず、航空・交通・電力などの分野でも「運用延命」と「更新投資」のバランスは問われています。
宇宙空間という極限環境での維持管理は、今後のスマートインフラ設計や自律運用、AI監視システム開発の方向性にも大きな示唆を与えるでしょう。