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日本のニュースに出てこないニュース

止まらない円安、米国はどう見ているか──ブルッキングス「日本は債務の罠」の衝撃

1ドル=163円台。円は40年ぶりの安値圏に沈み、政府は「決然たる対応」を口にしながら、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)やニーサ(少額投資非課税制度)へと"最後の買い手"を探し始めた──。国内では「悪い円安」論が飛び交うが、ではアメリカの経済学者・投資家・シンクタンクは、この円安をどう見ているのか。日本の報道ではほとんど紹介されない米側の一次情報を、忖度なしで整理する。

■ いま何が起きているか(2026年7月時点)
項目 数値・状況
ドル円相場 約163.8円。直近で163.99円と1986年以来の安値を更新
日銀の政策金利 1.0%(6月に引き上げ、約31年ぶり水準)
政府債務残高 対GDP比 約250〜260%(総債務ベース)
高市内閣支持率 10ポイント下落し41%(毎日新聞・7月中旬)
米側の基本姿勢 共同介入は否定。「日銀の利上げで対応すべき」(ベッセント財務長官)

米財務省の"宣告"──「大幅な円の過小評価」

最も重い一次情報は、米財務省が7月23日に公表した半期為替報告書だ。同省は、円が2011年末から2026年4月末までに実質実効ベースで51%下落したと指摘し、これを「大幅な円の過小評価(substantial yen undervaluation)」と明記した。

🟢 報告書は、為替の過度な変動は望ましくないとしたうえで、日銀に対しさらなる利上げを明示的に要求。「金融政策の正常化はインフレ期待をアンカー(固定)し、過度な為替変動を減らすのに役立つ」と述べ、日本を2026年の為替「監視リスト」に据え置いた。

🔵 注目すべきはタイミングだ。この報告書は、高市首相がトランプ大統領との会談のためワシントンへ向かう直前に投下された。「円安は日本の金融政策の問題だ」という圧力を、外交日程にぶつけてきた格好である。

ベッセント財務長官の一貫した姿勢──「日銀は後手に回っている」

🟢 スコット・ベッセント(Scott Bessent)財務長官の立場は、この1年で驚くほどブレていない。彼は円買いのための日米共同介入を明確に否定し(「絶対にやらない」と明言)、代わりに一貫して「日銀の利上げこそが円安の正しい処方箋だ」と繰り返してきた。

🟢 ベッセント氏はブルームバーグとのインタビューで、日本経済はインフレ対応で「後手に回っている(behind the curve)」と述べ、「彼ら(日銀)は利上げをする必要があり、インフレ問題を制御下に置く必要がある」と語った。

🔵 編集部の読み解き:トランプ政権は表向き「日本や中国は通貨を安く誘導している」と批判している。にもかかわらず共同介入を拒むのは、「円安の責任は日銀の緩和的すぎる政策にある。日本が自分で利上げして直せ」という論理だ。介入は"痛み止め"にすぎず、根本原因は日本側にある、という突き放した見方が米政府の底流にある。

ブルッキングス研究所ブルックス──「日本は債務の罠に落ちている」

米シンクタンクの中で最も辛辣な警告を発しているのが、ブルッキングス研究所のロビン・ブルックス(Robin Brooks)氏だ。元ゴールドマン・サックス首席為替ストラテジスト、元国際金融協会チーフエコノミストという経歴を持つ、為替の"読み手"として知られる人物である。

🟡 ブルックス氏の診断はこうだ。日本の根本問題は、長期国債の利回りが日銀の大量買い入れによって人為的に低く抑えられていること。総債務は対GDP比240%とドイツの約4倍なのに、30年国債利回りはドイツとほぼ同水準──これは本来あるべき「財政リスクプレミアム」が隠されている証拠であり、その歪みが円安圧力として噴き出している、と主張する。

🔵 彼の表現を借りれば、「日銀がいなければ債券市場の危機だったものが、日銀の介入によって通貨危機に姿を変えた」。金利で表面化するはずだった歪みが、円安という別の出口から漏れ出している、という構図である。

🟡 そしてブルックス氏は、高市政権が「過度な緊縮の終わり」を掲げていることを「極めて無責任だ(highly irresponsible)」と断じ、東京は「世界的な債務危機の初期段階にいるかもしれない」と警告する。「各国の長期金利は急上昇している。市場は、公的債務を減らせない・減らそうとしない政府に我慢の限界を迎えつつある。日本の巨額債務を問題ではないふりをしている場合ではない。否認は戦略ではない」

米専門家の"内輪もめ"──セッツァー vs ガニョン vs ブルックス

ただし、米国の専門家が一枚岩なわけではない。ブルックス氏は自身のニュースレターで、旧知の2人──米外交問題評議会(CFR)のブラッド・セッツァー(Brad Setser)氏と、ピーターソン国際経済研究所のジョー・ガニョン(Joe Gagnon)氏──との見解の違いを、あえて対比している。日本を論じるうえで示唆に富むので、3者の立場を整理する。

論者 中心的な主張
ブルックス
(ブルッキングス)
総債務が問題。政府は保有金融資産を売って総債務を圧縮し、民営化や国内資産売却で「債務に向き合う姿勢」を示すべき。為替介入は問題の先送りであり「否認」のシグナル。市場はそれを見透かして円を売り続ける。
セッツァー
(CFR)
日本は巨額の金融資産を持つため純債務は約130%にとどまる。深刻な債務問題とは言い切れず、外貨準備での為替介入は合理的。しかも円高時に買ったドルを売るので、日本は"利益を出しながら"介入している。
ガニョン
(ピーターソン)
日本が外貨準備(米国債)を売って介入すること自体が、ブルックスの言う「資産売却による債務圧縮」に他ならない。つまり日本はすでに正しい方向に動いている。

🔵 これに対するブルックス氏の反論が鋭い。「日本はヘッジファンドではない。目的は介入で儲けることではなく、円を持続的に安定させることだ」。純債務が低いと言っても、政府がその資産を実際に債務削減へ動員する気がなければ意味はない。むしろ介入を繰り返すたびに市場へ送られるのは「日本はまだ債務を問題として受け入れていない」というシグナルであり、それが円安圧力を強める──というのが彼の見立てだ。介入で1ドル=160円に蓋はできても「介入の効き目(半減期)は急速に落ちている」と彼は釘を刺す。

構造分析──なぜ「過去最大の黒字」でも円は上がらないのか

アトランティック・カウンシルのフン・トラン(Hung Tran)上級研究員(元IMF副局長、元国際金融協会エグゼクティブ・マネージング・ディレクター)は、より構造的な視点を提示する。彼の問いはシンプルだ。「経常黒字は過去最大、日銀は利上げ、ドルへの信認も揺らいでいる。教科書どおりなら円は上がるはず。なのに、なぜ上がらないのか」

🟢 答えは"数字の中身"にある。2025年度(2026年3月まで)の経常黒字は34.4兆円(約2190億ドル)と過去最大だが、その中身は第一次所得収支(海外投資からの利子・配当)が中心で約42.3兆円。日本企業や機関投資家はこの稼ぎの多くを円に戻さず海外に置いたままにしている。だから黒字が円買いにつながらない。年末時点の対外純資産は561兆円(約3.5兆ドル)と、これも過去最高を記録している。

🟡 さらにトラン氏は、改革されたニーサ(少額投資非課税制度)が家計の資金を海外証券へ向かわせ、構造的な資本流出を強めていると指摘する。非課税枠の拡大で、日本の家計は預金から海外株などへ資金をシフトしている。皮肉なことに、「貯蓄から投資へ」の号令が、円を売って外貨建て資産を買う流れを太くしているのだ。

円キャリー取引という時限爆弾──最大11.3兆ドル

🟢 米側が繰り返し警戒するのが「円キャリー取引」だ。日本の低金利を利用して円を借り(あるいは空売りし)、高金利通貨で運用するこの取引は巨大に膨らんでいる。国際決済銀行(BIS)の推計では、その規模は直接的な国境を越えた銀行借入で2610億ドル、デリバティブや先物を含めると約1兆ドル、広義の投機的ショートまで含めると最大11.3兆ドルに達する。

🔵 平時にはこの取引が円安圧力になる。だが日銀の引き締めが市場予想を上回ると、ポジションの巻き戻し(円の買い戻し)が一気に起き、円が急騰する。実際、2024年8月には巻き戻しで3週間のうちに円が12%以上急伸した。トラン氏は「投資家は日銀の介入と同じくらい、キャリー取引の巻き戻しの兆候に注意を払うべきだ」と述べる。円安はゆっくり進むが、反転するときは暴力的──これが米側の共通認識である。

「追い詰められた」財政──GPIF・ニーサという"囚われの買い手"

ここで、日本国内で話題の財政ムーブが、米側の文脈で意味を持ってくる。高市首相は7月17日の国会で、家計とGPIFに対し、日本の金融資産(国内株・国内債券)への投資をさらに促す施策を追求すると表明した。GPIFの運用資産は293.6兆円(約1.81兆ドル)、うち海外資産は約9310億ドル(米国債232億ドルを含む)にのぼる世界最大の年金基金だ。

🟢 資産運用会社系メディア(アジア・アセット・マネジメント)は、この動きを「囚われの資金源(captive sources)」への回帰と表現する。日銀が国債買い入れを段階的に縮小し、低い利回りゆえに外国人投資家も日本国債を敬遠するなか、高市政権は膨らむ歳出の代替財源を探さざるを得なくなった。そこで白羽の矢が立ったのが、巨大なGPIFと家計マネー(ニーサ)だ──という読み解きだ。同メディアはこれを、市場自由化の流れに逆行する「統制的な国家財政(dirigiste state financing)への逆戻り」とすら評している。

🔵 点と点をつなぐと:ブルックス氏の「日銀が国債を買い支えて"真の金利"を隠している」という診断と、この「GPIF・ニーサを国債の受け皿にする」という動きは、同じコインの裏表だ。市場が値付けする本来の金利で国債を売れないから、日銀・年金・家計という"逃げない買い手"に頼る。米側から見れば、これは債務問題への「向き合い」ではなく、ブルックス氏の言う「否認(denial)」の延長線上にある。だからこそ市場は円売りで応じ続ける、という理屈になる。

🟡 なお、高市首相の発言(GPIFの国内回帰期待)を受けて、7月17日には円が一時162.13円まで買い戻された。ただしロイターの取材筋は「年金の目標資産配分を直ちに変更する予定はなく、許容レンジ内で国内へ振り向ける程度」と伝えており、期待先行の側面が強い。実際、アジア・タイムズは、政府が一度示唆したGPIFの海外資産の大規模な国内回帰をその後トーンダウンさせたと報じている。(※「国債をニーサ対象に加える」といった個別法案の詳細は、本稿で参照した国際メディアの一次情報では確認しきれておらず、上記の「囚われの資金源」という大きな潮流の一部として位置づけている。)

「リズ・トラス・モーメント」への警戒

🔵 米・欧の市場関係者の間で囁かれるのが、東京版「リズ・トラス・モーメント」だ。2022年、英国のトラス政権は財源の裏付けのない減税を債券市場に押し通そうとして金利急騰と通貨急落を招き、わずか49日で退陣に追い込まれた。対GDP比260%の債務と急速な人口減少を抱える日本が、減税や積極財政を"財源なし"で進めれば、同じ罠が待つ──という警告である。

🟡 ドイツ銀行のストラテジスト、マリカ・サチデバ(Mallika Sachdeva)氏は、財政の持続可能性が最大の政策課題になれば、「通貨管理」は次第に「利回り管理」に取って代わられると指摘する。そのうえで、日銀が国債買い入れを再開すれば、それが「中央銀行が債券市場の下支えに動員された」と映る場合、非常にネガティブになりうると警告している。

🟡 ムーディーズ・アナリティクスのエコノミスト、サラ・タン(Sarah Tan)氏は、日本のインフレ見通しは中東情勢と商品価格に大きく左右されるとし、名目賃金が物価に追いつかなければ実質所得と個人消費が痛み、さらなる円安は輸入インフレを一段と加速させるとみる。2月28日に勃発したイラン戦争による原油高が、この構図に重くのしかかっている。

まとめ──米国が日本に突きつける"三つの現実"

米国のエコノミスト・投資家・シンクタンクの見解を貫くのは、次の三点である。

論点 米側の突きつける現実
① 原因 円安は循環要因(ドル高)に加え、日本の巨額債務と、それを隠す日銀の国債買いという構造問題の"出口"。介入では治らない。
② 処方箋 米財務省・ベッセント長官は「日銀の利上げ」、ブルックス氏は「資産売却による債務削減」を要求。GPIF・ニーサ頼みは逆に「否認」と映る。
③ 警告 最大11.3兆ドルのキャリー取引の巻き戻しと、「リズ・トラス・モーメント」という二つの急変リスク。円安はある日突然、暴力的に反転しうる。

🔵 国内政治は「悪い円安への対応」という物語を語りたがる。しかし米側の目線はもっと突き放している──問題は円安そのものではなく、円安を生んでいる債務構造にどこまで本気で向き合うのか。介入や"囚われの買い手"探しは、その本質的な問いから目を逸らす行為に見える、というわけだ。ブルックス氏の言葉を借りれば、日本はまだ「受容(acceptance)」に至っていない。円が本当に危険なのは、介入がもう効かなくなった、その先である。

🟢=複数ソースで確認された事実/🟡=単一ソースまたは当局の主張/🔵=編集部の分析。主な一次情報:米財務省半期為替報告書、ロビン・ブルックス氏(ブルッキングス研究所)、ブラッド・セッツァー氏(外交問題評議会)、ジョー・ガニョン氏(ピーターソン国際経済研究所)、フン・トラン氏(アトランティック・カウンシル)、国際決済銀行(BIS)、ドイツ銀行、ムーディーズ・アナリティクス、ロイター、ブルームバーグ、アジア・タイムズ、アジア・アセット・マネジメント。相場・支持率等は2026年7月時点。投資判断は自己責任で。

  • この記事を書いた人

はぼぞう

旅と砂漠と写真と女性を愛する60歳ちょっと過ぎたの「元金融系システム屋」です。 現在は、社内SEのアルバイト件システム構築やってます。 シンガー 森口博子とアーティスト 中村中の大ファン

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