夏の風物詩「ガリガリ君」が、ついに1本90円へ。子どもの小遣いで買えた“庶民の味方”の値上げは、止まらない物価高をもっとも分かりやすく映し出す指標になりました。来月7月だけで2,269品目、2026年通年では5年連続で1万品目超えが確実視されています。なぜここまで上がるのか、企業や政府は何をしているのか、そしてこの先も上がり続けるのか――データで読み解きます。
埼玉の中小小売店からも悲鳴が上がっています。仕入れ値が上がるたびに値札を貼り替え、それでも客足は遠のく。背景にあるのは、原材料高だけではありません。中東のホルムズ海峡(Strait of Hormuz)混乱に端を発したナフサ不足、中国による対日輸出規制、そして10年ぶりとも言われるスーパーエルニーニョ。複数の要因が同時に家計を押し下げています。
来月7月だけで2,269品目 ― いま値上がりする身近な食品
帝国データバンクの調査によると、7月に値上げを予定する飲食料品は2,269品目。前月6月(1,078品目)から倍増し、4月以来3カ月ぶりに単月で2,000品目を超えます。1回あたりの平均値上げ率は14%前後。身近な食卓を直撃するラインアップが並びます。
| 商品・メーカー | 値上げ率/価格 | 時期 |
| ガリガリ君(赤城乳業) | 80円→90円(+12.5%) | 3月~ |
| 菓子パン・食パンなど306品(山崎製パン) | 値上げ | 7月~ |
| ハム・ソーセージ(伊藤ハム米久HD) | 約5~30% | 7月~ |
| おかめ納豆 全商品(タカノフーズ) | 約15% | 6月~ |
| 金のつぶ シリーズ(ミツカン) | 最大20% | 6月~ |
| 即席麺・調味料(ふりかけ・香辛料ほか) | 広範囲で改定 | 6~7月~ |
※価格・値上げ率は各社発表に基づく最大値。ガリガリ君は希望小売価格(税別)。内容量を減らす「実質値上げ(ステルス値上げ)」も増えています。
スーパーの棚から「色」が消える ― 企業の苦肉のコスト努力
2026年5月下旬から、見慣れた商品のパッケージから「色」が消え始めました。これは石油由来資材(ナフサ)の不足に対する、メーカーの目に見えるコスト努力です。カラフルな印刷は通常シアン・マゼンタ・イエロー・黒という4色のインク(ink)に金・銀などを重ねますが、モノクロ(白黒)にすればインクの石油由来資材を大きく減らせます。値上げを少しでも抑えるための、現場の選択です。
| 企業 | コスト努力の中身 |
| カルビー | ポテトチップスの包装を白黒(モノクロ)印刷に順次切り替え |
| カゴメ | ケチャップのパッケージ印刷を減らし、一部を透明化 |
| 日清製粉ウェルナ | パスタ乾麺を束ねるテープを、印刷ありから無地へ変更 |
| ドン・キホーテ | 包装を白黒印刷化した低価格PB(プライベートブランド)商品を投入(水500ml=40円など) |
| オタフクソース | 一部の業務用商品の販売を一時休止し、安定供給を優先 |
| 食品各社(共通) | トレーやフィルムの統一・簡素化、内容量を減らす「実質値上げ」 |
棚の「白黒のお菓子」は、中東の出来事が日本の食品売り場まで届いた“目に見える印”です。値上げを受け入れるのではなく、簡素化で耐えしのぐ――それすら限界に近づいています。
なぜ止まらない? ― ホルムズ・ナフサ・中国・エルニーニョ
帝国データバンクが集計した値上げ要因では、依然として原材料高が97.7%と最多ですが、注目すべきは「包装・資材」が73.7%と、調査開始以来はじめて7割台に達したことです。トレーや容器の原料であるナフサ高騰が、いよいよ本格的に価格へ乗り始めました。
| 値上げ要因 | 割合 |
| 原材料高 | 97.7% |
| 物流費 | 74.1% |
| 包装・資材(ナフサ) | 73.7% |
| 人件費 | 54.7% |
| 中東情勢 | 22.7% |
① ホルムズ海峡 → ナフサ不足
2026年2月末、中東のホルムズ海峡が事実上の封鎖状態に陥り、米国・イスラエルによるイランへの攻撃で地政学リスク(geopolitical risk)が一気に高まりました。日本が依存するナフサの供給が混乱し、食品トレー・ラップ・フィルム・ペットボトルなど、暮らしの素材の半分以上に影響が波及。政府は「局所的な目詰まり」と説明しますが、現場では“高すぎて買えない”需要破壊が起き始めています。
② 中国による対日輸出規制
2026年1月6日、中国はデュアルユース(軍民両用)品目の対日輸出規制を強化。レアアース(rare earth・希土類)関連も対象とされ、高市早苗首相の台湾有事を巡る国会答弁を念頭に経済的圧力を強めました。シンクタンクの試算では、レアアース輸入が3カ月停止すれば経済損失は約6,600億円、1年なら約2.6兆円に達するとされ、製造業のコスト増を通じて間接的に物価を押し上げます。
③ スーパーエルニーニョの不安
NOAA(米海洋大気局)は、10年ぶりとなる「スーパーエルニーニョ」が2026年後半に発生する確率を37%と発表しました。気象庁も夏にエルニーニョが発生する確率を約70%としています。発生すれば豪雨や干ばつ、猛暑で世界の穀物の生育不良が懸念され、輸入に頼る日本の食料価格をさらに揺らす“第4の火種”になりかねません。
政府の物価高対策は効いているのか
高市内閣は「一律ばらまき」から「重点給付+成長投資+選択的減税」へと路線を転換しました。主な対策は次の通りですが、いずれも一時的な“対症療法”の色が濃く、値上げの根本要因であるナフサ供給や地政学リスクには直接効きません。
| 対策 | 内容 |
| ガソリン補助 | 単価33.3円/Lの支援。暫定税率廃止で年間約1.2万円軽減(実施済み) |
| 電気・ガス補助 | 7~9月分を昨夏より安く抑える支援を指示。標準世帯で計7,000円程度 |
| 重点給付 | 住民税非課税世帯に3万円+子ども1人2万円加算など |
| 子育て応援手当 | 子ども1人あたり2万円を支給 |
| 手取り改善 | 「年収の壁」見直しなど税制改正で可処分所得を底上げ |
補助金や給付は家計の“痛み止め”にはなりますが、財源は税金であり、エネルギー補助は需要を支えて価格高止まりを長引かせる側面もあります。供給網の自律性確保(国産レアアース開発、調達の多角化)こそが本丸ですが、その効果が出るには時間がかかります。
日本の物価はこれからも上がり続けるのか
短期的に見れば、答えは残念ながら「上がり続ける可能性が高い」です。ナフサ由来の値上げは年内約9,000品目のうち2割を超え、今後さらに高まる見込み。物流費・人件費という“粘着的”な圧力も消えません。中東情勢が長引けば、年後半に値上げラッシュが再燃する恐れも指摘されています。
ただし、視点を変えれば希望もあります。中国の輸出規制は、皮肉にも国産レアアース開発(南鳥島沖の海底資源など)や調達多角化という構造改革を加速させる“外圧の触媒”になり得ます。賃上げが物価上昇に追いつけば、家計の体感は変わります。問われているのは、私たちが値上げを「仕方ない」と受け流すのか、その裏にある世界の構造を見据えて選挙や消費行動で意思表示するのか――です。
ガリガリ君1本の値上げは、世界とつながっています。
棚から消えた“色”の向こうに何があるのか。苦しくなる暮らしの中で、その「なぜ」を問い続けることが、流されないための第一歩になるはずです。
出典:帝国データバンク「食品主要195社 価格改定動向調査(2026年6月)」、日本経済新聞、NOAA、気象庁、ジェトロ、各社発表ほか。数値は2026年6月時点。