② 総投入予算の全貌:第1期4,300億+NEXT GIGA 2,661億円
③ 利権の構造:特定メーカー・ポータル業者が独占
④ 藤沢市の事例:「同意」のみの同意書という強制
⑤ 欧州の警告:スウェーデンが1億ユーロかけて「紙に戻す」理由
⑥ 子どもの学力より優先されたもの
「Global and Innovation Gateway for All」——すべての子どもに創造性を育む個別最適化されたICT環境を。2019年12月、文部科学省がこの壮大な名称とともに打ち出したのがGIGAスクール構想だ。目標は全国の小中学生に1人1台の端末を配布し、高速ネットワーク環境を整備すること。当初は2023年度までの達成を見込んでいたが、新型コロナウイルスによる休校対応を名目に計画は大幅前倒しされ、2020〜2021年度にかけて全国一斉に整備が進んだ。
建前は「個別最適化された学び」だ。しかし現場の実態は「タブレットがある学校」を作ることに終始した。教育効果を検証する前に端末が配られ、教師は使い方の研修に追われ、保護者は一方的な「同意書」を渡されるだけという状況が全国で繰り返された。
GIGAスクール構想の第1期に投じられた予算規模は以下の通りだ。
| 費目 | 金額 | 備考 |
| 1人1台端末整備 | 約2,800億円 | 約930万台 |
| 校内通信ネットワーク整備 | 約1,400億円 | 全国公立小中学校 |
| GIGAスクールサポーター等 | 約100億円以上 | 人員配置等 |
| 第1期 合計 | 約4,300億円 | 2019〜2021年度 |
| NEXT GIGA(端末更新) | 2,661億円 | 2023年度補正予算 |
第1期GIGAスクール構想で調達された約750万台の端末のメーカー別シェアを見ると、Apple(iPad)が28.1%で首位を占め、Windows・ChromeOSではLenovoが28.1%でトップだった。巨大な公的市場が一部の外資系IT企業に集中した構図だ。
さらに深刻なのが「学習eポータル」と呼ばれる学習管理サービスの独占構造だ。日本経済新聞の報道によれば、ほぼすべての自治体が活用しているこのeポータルで、NTT系など大手2社のシェアが7割に達し、デジタル教材を提供する他の事業者が参入困難な状況が生まれている。公正取引委員会もこの寡占構造に懸念を示す見解を表明した。
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各自治体の教育委員会が調達
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特定メーカー(外資中心)にタブレット発注
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「学習eポータル」も大手2社が独占
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5年後、再び全台数更新=再度の巨額公費投入
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このサイクルが永続する
東京新聞(2025年4月)の報道が明らかにした神奈川県藤沢市の事例は、GIGAスクール構想が現場レベルでいかに保護者の意思を無視した形で進められているかを象徴している。
藤沢市は2025年4月から運用を改めたとしているが、このような事例が全国で何件あるのかは検証されていない。子どもの教育に関わる重大な決定が、実質的に「強制」として行われていた構造は、GIGAスクール構想の推進姿勢そのものを象徴している。
日本がGIGAスクール構想を推進する一方で、IT先進国として知られるスウェーデンは2023年、衝撃的な政策転換を発表した。約1億ユーロ(約160億円)を投じて「紙の教科書への回帰」を決定したのだ。
2016〜2021年にかけて小学4年生の読解力(PIRLS)が毎年低下。デジタル化の進んだ世代で数学・読解力の低下が顕著。▶ カロリンスカ研究所の声明
「デジタル情報源ではなく、印刷された教科書と教師の専門知識を通じて知識を得ることに重点を戻すべきだ」と公式に声明を発表。▶ 集中力・手書き能力の低下
タブレット使用により、低学年での長文読解力の弱体化、集中力低下、手書き能力の衰えが確認された。▶ 認知負荷研究
スクリーン読書は紙より認知負荷が高いとの研究結果が公表された。
スウェーデンは保育園へのタブレット導入まで行った「超デジタル化」の結果がこれだった。同様の懸念は他の欧州諸国でも広がっており、フィンランドなどでも「早期のデジタル過多」への見直し論が高まっている。
GIGAスクール構想の本質的な問題は「タブレットを配ること自体が目的化した」点にある。SEとして教育ICTシステムに関わった経験のある関係者からは、以下のような指摘が相次いでいる。
GIGAスクール構想は「子どもの未来のため」という建前のもとで進められた。しかし7,000億円超の公費を投じながら、教育効果の事前検証はなく、保護者の同意も形式的なものに過ぎず、特定の外資IT企業と大手通信系ポータル業者が市場を独占する構造が生まれた。
IT先進国スウェーデンは10年間の実験の失敗から学び、巨費を投じて「紙に戻す」決断をした。日本はいま、その失敗事例が出そろった時期に、追加で2,661億円の更新予算を組んでいる。
問われるべきは「タブレットがあるか否か」ではない。「子どもの学力と教育の質が本当に向上しているか」という一点だ。その検証なしに、5年ごとに繰り返される公費投入は、教育予算の構造的な利権化と呼ばれても反論できないだろう。