主要企業111社を対象にした共同通信のアンケートで、2027年度新卒採用を「減らす」と回答した企業が23%(25社)となり、「増やす」16%を5年ぶりに上回った。表向きの理由は「省人化・AI活用」だが、その裏には日本企業が長年抱える構造的な問題が透けて見える。
| 回答区分 | 割合 | 社数 |
| 🔴 減らす(5年ぶり最多) | 23% | 25社 |
| 🟡 前年度並み | 35% | 39社 |
| 🟢 増やす | 16% | 18社 |
| ⬜ 未定・無回答 | 27% | 29社 |
採用を減らすと答えた企業が挙げた理由のトップは「デジタル対応を通じた省人化」(16%)だ。村田製作所は「生成AIの活用をはじめとした業務効率化」、積水ハウスは「即戦力のキャリア採用を強化する」と回答している。
一見すると「合理的な経営判断」に見えるが、これは本当に正しい方向性なのだろうか。AIや省人化は確かに実務の一部を代替し始めているが、現在のAIが得意とするのは定型業務・情報処理・コンテンツ生成の領域であり、複雑な折衝・現場判断・長期的な関係構築といった領域での人間代替はまだ限定的だ。
注目点:「AI化が進んでいるから採用を絞る」という論理は、実際にはAI導入が済んでいない段階から語られることが多い。今回のアンケートでも「生成AIの活用をはじめとした業務効率化」と表現しており、まだ進行中・計画段階の企業が将来見込みで採用を削っている可能性が高い。
日本企業は長年「人手が足りない」と訴えてきた。厚生労働省の統計でも有効求人倍率は1倍を超え続けており、中小企業を中心に深刻な人材難が叫ばれてきた。にもかかわらず、大企業は今、新卒採用を絞る方向に動いている。これは矛盾ではないのか?
と言い続ける
「減らす」方向へ
採用できていない
この矛盾の背景にあるのは「数合わせ採用から即戦力採用へのシフト」だ。「即戦力のキャリア採用を強化する」という積水ハウスの回答が象徴するように、大企業は育てる採用より、すぐに使える中途・専門人材を好む傾向を強めている。
新卒採用削減という現象の裏には、日本企業が抱える複数の構造的欠陥が絡み合っている。
日本の大企業では、新卒を採用して育てるには3〜5年のコストと時間がかかる。しかし短期的な利益を重視する株主・経営陣プレッシャーが強まる中、育成投資は「無駄なコスト」として削減対象になりやすい。本来、人材育成は長期的な競争力の源泉であるにもかかわらず、だ。
日本型雇用の根幹は「新卒一括採用→長期育成→終身雇用」というメンバーシップ型だった。これが崩れた今、「ジョブ型」への移行を叫びながらも、実際の評価・賃金・昇進制度は旧来のまま温存されているケースが多い。その結果、新卒も中途も「どちらにも当てはまらない中途半端な採用」が横行し、人材の配置が機能不全に陥る。
円安の長期化と燃料・資材コストの高騰により、製造業・建設業・流通業は利益率の圧迫が続いている。原材料費が上がっても売価に転嫁しきれない日本企業の価格交渉力の弱さが、固定費削減→採用抑制という流れを加速させている。特に中堅・下請け企業では深刻だ。
生成AIが業務を効率化するのは事実だが、AIを活用できる人材を育てるのもまた人間だ。AI活用の恩恵を受けるためには、AIを適切に使いこなし、課題設定・検証・改善を担う「デジタル人材」が不可欠だ。そのデジタル人材の裾野を広げるのが、まさに新卒採用・育成である。AIを理由に採用を絞ることは、中長期的にAI活用能力の空洞化を招く逆説を生む。
日本の生産年齢人口(15〜64歳)は2040年には2020年比で約15%減少すると推計されている。今新卒採用を絞れば、10〜15年後の中堅人材が枯渇する。短期の採用コスト削減が長期的な事業継続リスクになるという構造を、多くの経営層は直視できていない。
| 観点 | 「増やす」企業の視点 | 「減らす」企業の視点 |
| 人材育成 | 長期投資として継続 | コストとして圧縮 |
| AI活用 | 人材×AIで相乗効果 | AI=人の代替として削減 |
| 時間軸 | 10〜20年の長期視点 | 1〜3年の短期最適化 |
| 採用モデル | 新卒育成+中途活用の両輪 | 中途即戦力一本化 |
| 少子化対応 | 今から人材確保・囲い込み | 問題を先送り |
1990年代のバブル崩壊後、企業は競って新卒採用を絞った。その結果が「就職氷河期世代」の問題だ。当時採用されなかった世代は今も非正規・低賃金の状態が続いており、政府は今になってその「支援プログラム」を立ち上げている始末だ。30年前と同じ失敗を、今また繰り返そうとしていないか?
歴史は繰り返す:1990年代後半〜2000年代前半、企業は「リストラ・採用削減」で短期的に財務を改善した。だが同時に組織の年齢構成が歪み、技術・ノウハウの断絶が起きた。20〜30年後の今、その「ツケ」を社会全体で支払い続けている。
今回のアンケートが示すのは、採用数の増減という表面的な数字だけでなく、日本企業の経営戦略の設計思想そのものが問われているということだ。
真に競争力ある企業は、AIが進化するからこそ、AIを使いこなす人材・AIでは代替できない高度な判断力を持つ人材を積極的に採用・育成する。一方で今回「減らす」と答えた企業の多くは、AIを「人を減らす道具」として捉えており、その思想のまま経営を進めれば、数年後には「AIも使えない、人材も育っていない」という最悪のシナリオに陥るリスクがある。
新卒採用「減らす」が5年ぶりに「増やす」を上回った背景には、AI化・省人化・円安・コスト圧力といった表向きの理由がある。しかしその裏には、短期思考・育成軽視・雇用モデルの迷走・少子化への無策という日本企業の根本的な構造問題がある。
就職氷河期の悲劇を繰り返さないためにも、今こそ経営層は「採用を絞れば短期的にコストが下がる」という近視眼的な発想を捨て、10〜20年後の組織の姿を描きながら人材投資を継続する覚悟が必要だ。