2026年3月24日、参議院法務委員会において日本保守党の北村晴男議員が、外国人への生活保護支給問題を正面から取り上げた。「生活保護法は日本国民のみを対象と明記しているにもかかわらず、旧厚生省の通知一本で70年以上にわたり外国人への支給が続けられている」——弁護士出身の議員らしい法的切り口の質疑は、在日外国人の急増という現状と絡み合い、制度の正統性を根底から問い直す内容となった。政府側は従来の答弁を繰り返すにとどまり、法的根拠の明確化については明確な回答を避けた。本記事では、この質疑の内容を詳しく解説し、関連する判例・法的論点・賛否双方の論拠を整理する。
① 質疑の内容と政府の応答をわかりやすく解説
北村晴男議員の主な主張
北村晴男議員(日本保守党・全国比例)は参議院法務委員会の場で、外国人への生活保護支給を三つの柱から問題提起した。
【主張①】法的根拠が存在しない
生活保護法第1条は「すべて国民は……この法律による保護を受けることができる」と規定し、対象を「国民」に明示的に限定している。にもかかわらず、外国人への支給が続いているのは、1954年(昭和29年)に旧厚生省社会局長が都道府県知事に宛てた一通の行政通知(社発第382号)に基づくものにすぎない。これは国会が審議・議決した法律ではなく、行政内部の通達である。
【主張②】受給外国人数が格段に増加している
在留外国人の増加に伴い、生活保護を受給する外国人世帯数も増え続けている。北村議員は「数が格段に増加している」と指摘し、財政負担の将来的な拡大を懸念した。
【主張③】今こそ妥当性を再検討すべき時期
"「法律があえて日本国民に限定しているものを、これを拡大して税金を投入しているという事実」——前例に従うのではなく「国として漫然と前例に従うものではなく、その妥当性について考え直すべき時期に来ている」"と政府に再考を迫った。
政府側の応答
政府(厚生労働省側)の答弁は、基本的に従来の立場を繰り返すものであった。
| 政府の説明 | 内容 |
|---|---|
| 行政措置としての支給 | 昭和29年通知に基づき、永住者・定住者など活動に制限のない在留資格を持つ外国人に、人道上の観点から生活保護法に準じた保護を行っている |
| 現行運用の維持 | 2014年最高裁判決も行政措置としての支給を否定しておらず、現行の運用を続けることが適切 |
| 法改正・見直しには慎重 | 制度の抜本的な見直しや法的根拠の明文化については、積極的な答弁は行われなかった |
② 外国人への生活保護支給——法律的見解と過去の裁判判例
生活保護法の条文と現行運用の「ねじれ」
生活保護法の条文は明快だ。
「この法律は、日本国憲法第25条に規定する理念に基き、国が生活に困窮するすべての国民に対し、その困窮の程度に応じ、必要な保護を行い……」
「国民」という語は、立法上明確に日本国籍保有者を指す。ところが実際には、永住者・定住者・日本人の配偶者等・永住者の配偶者等の在留資格を持つ外国人に対し、法に「準じた」保護が行われている。この運用の根拠は、1954年の旧厚生省社会局長通知(昭和29年5月8日 社発第382号)のみである。
重要判例①:最高裁 平成26年(2014年)7月18日判決
事案の概要
中国国籍で永住資格を持つ女性(1932年日本生まれ)が大分市に生活保護を申請したところ却下され、処分取消を求めて提訴。一審は外国人の請求を認めず、二審(福岡高裁)は認めたが、大分市が最高裁に上告した。
最高裁の判断(第2小法廷・千葉勝美裁判長)
「外国人は、行政庁の通達等に基づく行政措置により事実上の保護の対象となり得るにとどまり、生活保護法に基づく保護の対象となるものではなく、同法に基づく受給権を有しないものというべきである」
判決の意味するところ
- 外国人は生活保護法上の「受給権」を持たない(権利としては認めない)
- ただし、行政措置として保護することは否定していない
- 「外国人への生活保護は違法」という判決ではない点に注意が必要
重要判例②:千葉地裁 令和6年(2024年)12月16日判決
初のケース——行政措置の適否が争われた事案
ガーナ国籍の男性が、病気による就労不可を理由に生活保護を申請したが千葉市に却下され、取消を求めて提訴。千葉地裁は「外国人に生活保護法に基づく受給権はない」として請求を棄却。さらに、行政措置としての保護を求める請求も却下した。
※この判決は、行政措置の適否について司法判断を求めた初のケースとして注目された。90年以降の運用では、在留資格が身分系(永住者・定住者等)でない外国人は対象外とされており、同男性はこれに該当しなかった。
法的構造の整理
| 項目 | 日本国民 | 永住者等の外国人 | その他の外国人 |
|---|---|---|---|
| 法的根拠 | 生活保護法(法律) | 行政通知(通達)のみ | 対象外 |
| 受給権 | あり(権利) | なし(恩恵的措置) | なし |
| 不服申立て | 可 | 行政訴訟上の「処分」に当たらない(最高裁) | 不可 |
| 支給基準 | 生活保護法の基準 | 同法に「準じた」基準 | — |
③ 外国人への支給が続く理由——政府・賛成側の論拠
政府が70年以上にわたって外国人への支給を続けてきた背景には、複数の論拠がある。
【論拠①】人道主義・生存権の保障
憲法25条が定める「生存権」は、すべての人の人間としての尊厳に基づくとの解釈があり、国籍を問わず最低限の生活を保障することが人道上求められるという考え方。日弁連や支援団体が強く主張する立場でもある。
【論拠②】国際条約上の義務(社会権規約・難民条約)
日本は1979年に「国際人権規約(社会権規約)」、1981年に「難民条約」を批准。社会権規約9条・11条は「すべての者」の社会保障・相当な生活水準を認め、難民条約23条は締約国に難民への公的扶助における内国民待遇を義務付けている。これが外国人(特に難民・定住者)への支給継続の国際法的根拠とされる。
【論拠③】納税・社会保険料の負担実態
永住者・定住者の多くは日本人と同様に所得税・住民税・社会保険料を支払っており、「受益なき負担」を強いることの不公平性が指摘される。
【論拠④】受給者の実態——在日高齢者問題
外国籍受給者の約半数を占める韓国・朝鮮籍の高齢者は、戦前から戦後にかけて渡日・日本生まれの在日コリアンが大半とされる。これらの人々は歴史的経緯により年金制度から長く排除されてきた結果、無年金状態に置かれている。単純に「外国人優遇」とは言えない複雑な歴史的背景がある。
【論拠⑤】数値上の規模は限定的
厚労省の統計によれば、生活保護受給者全体(約200万人)に占める外国籍者の割合は約3.25%(約6万5000人、2023年度)。この10年間は3%台前半で推移しており、制度を「圧迫」しているわけではないとする見方も根強い。
④ 法的根拠の問題を明確化しない政府の問題点
北村議員の質疑が浮き彫りにしたのは、政府が70年以上にわたり「曖昧なまま」放置してきた構造的問題である。
問題①:「通達行政」の限界
1954年の旧厚生省通知は、法律の委任を受けて制定されたものではない。つまり国民の代表である国会の審議・承認を経ていない行政の「自己判断」である。最高裁も2014年判決において「同通知は法律の委任を受けて定められたものではないから、同通知によって行われる生活保護の給付や返還に関する措置はあくまでも行政措置として行われるものにすぎない」と明示している。
年間で推計1,000億円規模とも言われる税金の支出が、国会が定めた法律ではなく、行政内部の通達に基づいて行われている——これは法治国家の根幹に関わる問題である。
問題②:不服申立制度の欠如
行政措置として支給されているため、支給を却下された外国人には、日本人と異なり法的な不服申立手段が実質的に存在しない。一方で、いったん受給が始まれば指導義務や返還義務(生活保護法63条・78条)が適用される。「権利なき義務」という矛盾した構造が生まれている。
問題③:在留外国人増加による将来リスク
北村議員が「数が格段に増加している」と指摘したように、在留外国人総数は2025年末時点で約400万人を超え過去最多を更新し続けている。現行の在留資格要件を前提にすると、生活保護対象となり得る永住者・定住者等も増加の一途をたどる。通達だけを根拠とした「曖昧な運用」のまま規模が拡大し続けることへの懸念は正当だ。
問題④:国会での議論の回避
2024年3月の参院予算委員会でも日本維新の会・柳ケ瀬裕文議員が同様の問題提起を行ったが、福岡資麿厚生労働相(当時)は「現行の運用を維持する」と答えるにとどまった。「妥当性の再検討」を求める声は与野党から繰り返し上がっているにもかかわらず、政府は立法的解決を先送りし続けている。
問題の核心:二つの解決策があるはずだが、どちらも取られていない
選択肢A(法制化)
外国人への支給を法律に明文化する。国際条約との整合性・人道的観点を担保しつつ、「通達行政」の問題を解消する。
選択肢B(廃止・縮小)
法の趣旨に立ち返り、外国人への適用を廃止または在留資格・要件を厳格化する法改正を行う。
政府はAもBも選ばず、「通達に基づく慣行」を漫然と続けてきた。民主主義国家において、これほどの規模の公金支出が立法府の審議なしに続いていることは、本来許容されるべきではない。北村議員の指摘はこの点を正確に突いている。
まとめ——問われるのは「法治」の原則
外国人への生活保護支給は、単純に「賛成か反対か」という問題ではない。問題の本質は「法的根拠のない70年間の慣行」を国会がいつまで放置し続けるか、という立法不作為の問題だ。
在留外国人数が過去最多を更新する中、「人道的観点で支給する」のであれば法律に明記し不服申立ての権利も保障すべきであり、「国民限定の制度を堅持する」のであれば現行の通達運用を廃止すべきだ。どちらの方向に進むにせよ、国会の場でのオープンな議論こそが民主主義国家として求められる姿である。
北村晴男議員の質疑は、法治主義の観点から70年来の「なし崩し」に正面から切り込んだものであり、党派を超えて国会が真剣に取り組むべき課題を改めて可視化した。