F1は単なる「サーキットで車が速く走るスポーツ」ではない。
世界中でフォロワー数が急増し、若者・女性・スポンサーの心を掴み、「次なる巨大スポーツ市場」として脚光を浴びている。
欧米ではこの数年でF1の構造が進化し、ストリーミング番組、都市型サーキット、ラグジュアリーブランドとのタイアップが成功を収めている。
だが日本では、なぜそれほど広がらないのか。文化、メディア、消費者習慣など複数の要因を読み解きながら、F1が世界的に熱狂を呼ぶ本当の理由に迫る。
目次
欧米で起きた“F1革命”
欧米、とりわけ米国において、F1はここ数年で飛躍的なファン増加を見せている。
例えば2025年のグローバルファン調査では、F1のファン数は8.27億人に達し、2018年比で約63%増となっている。
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その背景には、Netflixのドキュメンタリーシリーズ「Formula 1: Drive to Survive」による“ドラマ化”されたF1の姿、アメリカ・マイアミやラスベガスなど都市型サーキットの投入、ストリーミング配信戦略などがある。たとえば米国ではファンの70%超が毎日F1コンテンツに触れており、将来グランプリを観戦する予定と答えた人が73%と、新興ファン層の熱量が高い。
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さらに、F1は単なる競技から「エンターテインメント+ブランド体験」へと変わりつつあり、若年層・女性層のファン比率も上昇している。たとえば英国では女性ファン比率が40%を超えたという報告もある。
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このように、欧米ではF1が「速度と技術の魅力」から「物語と体験の魅力」へステージを転換しており、市場拡大を遂げている。
ビジネス構造とブランドの掛け算
F1人気の成長はただ観戦者が増えただけではない。収益モデルも進化しており、2024年にはF1の収益が36億ドルに達したとの報告がある。
The Australian
この金額には放映権・スポンサー契約・グランプリ開催費用・グッズ販売などが含まれ、特にブランド提携が拡充している。2025年前半だけでも、ルイ・ヴィトン(LVMH)やペプシコ、レゴ、各種ラグジュアリーブランドがF1と深く関わるようになった。
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このように、F1は“スポーツ”を超えて“グローバルライフスタイルブランド”として再定位されており、視聴だけでなく体験・消費・共感を伴うフォーマットへと変貌している。
日本ではなぜ“熱狂”の渦に届かないのか
では、世界でF1が盛り上がる中、なぜ日本ではそれほど大きな旋風とならないのか。複数の構造的な理由が考えられる。
まず、テレビ・配信といったメディア接点が欧米ほどスムーズには整備されていない。視聴体験・アクセスが限定的であったり、深掘りコンテンツが少ないという指摘がある。
次に、消費文化の違いだ。日本ではプロ野球、サッカー、野球選手(例:大谷翔平)という「個人ヒーロー」の物語が強く打ち出されており、その圧力の中でF1の“チーム・車・国際シリーズ”という構図がなかなか日常的なヒーロー像に落とし込まれにくい。
さらに、F1の日本国内の関心は“イベントとしての観戦”や“日本ドライバー/日本チーム”の有無に依存しがちで、欧米のように“ドラマ+ストーリー”でカジュアル層を取り込む構造が成熟していないという分析もある。
加えて、グランプリ開催枠・ライブ配信の時間帯・グッズ展開・ファンコミュニティの形成という点でも、欧米に比べて遅れが出ている。
こうした背景が、日本でF1が世界的な熱狂の波に乗り切れない一因と言える。
熱狂の次なるステージと日本の可能性
だが日本にも可能性はある。F1側も「アジア展開」の重要性を認めており、日本での文化化・ファンの裾野拡大は明確な戦略課題だ。
日本のモータースポーツ市場ではS Formulaやスーパーフォーミュラなどの既存ファンが厚いが、F1にスポーツとしての“物語/ライフスタイル”要素を輸入できれば、新たな熱狂を創出できる。
たとえば日本での視聴率・配信契約・観戦体験・ファンミートアップ・ブランド体験を「欧米モデル」に学びながらローカライズすることが鍵となる。香港やシンガポールの都市型グランプリが成功してきたように、日本でも“レース+エンタメ”の複合体験を作り出す余地がある。
ゆえに、F1は「速さを楽しむスポーツ」から、「文化を楽しむスポーツ」に進化しており、日本もその波に乗る準備を整えつつある。
まとめ:速度の先にある“体験”と“文化”
F1の世界的熱狂は、スピードの魅力が「物語」「体験」「ブランド」と交わったところで生まれている。
メディア革新、ストーリー創出、若年・女性ファンの取り込み、都市型サーキット展開――これらが欧米での盛り上がりを加速させた。
国内の構造的障壁
一方で日本では、メディアアクセス・文化構造・ファン層の違いという“重力”がその波を受け止めにくくしている。
だが、変化の兆しは確かにある。F1をただ「レースを見る」から「体験し、消費し、共感する」ものへと捉え直したとき、日本でも次の熱狂が生まれる可能性は十分にある。
速度だけでは終わらない、F1という舞台の本質――それを知れば、彼らがなぜ世界を熱狂させるのかが見えてくるのだろうか?
次回は、同じように世界で熱狂 日本でそれほどでもない プロレス(WWE (World Wrestling Entertainment))などについても取りあげて深掘りします。