2026年2月28日の米・イスラエルによるイラン攻撃開始以来、ホルムズ海峡はほぼ封鎖状態に陥った。しかし5月14日、イラン革命防衛隊(IRGC)は「管理プロトコル」のもとで中国船籍を含む多数の船舶の通過を認めたと発表。トランプ大統領と習近平国家主席の会談でも海峡開放が主要議題に浮上した。
日本のタンカーが通れた理由とは何か——本稿でその構造を解説する。
封鎖から「選択的開放」へ:何が変わったのか
ホルムズ海峡は世界の海上石油貿易量の約20%、LNG貿易量の一部が通過する超重要チョークポイントだ。戦争勃発前、この海峡は国籍を問わず全船舶が自由に航行できた。しかし2026年2月28日以降、IRGCが「敵対国の船舶の通航禁止」を宣言し、事実上の封鎖状態が続いた。
転機となったのはイランが採用した「選択的通航管理」戦略だ。IRGCは米国・イスラエルと関係する船舶を締め出しつつ、中国・インド・パキスタン・日本など「中立・友好国」向けには個別交渉を通じた通航を認め始めた。これは単なる人道的措置ではなく、米国の同盟網を分断し、国際的孤立を避けるための外交戦略である。
PGSA(ペルシャ湾海峡局)とは何か
2026年5月5日、イランは「Persian Gulf Strait Authority(PGSA)」を正式設立した。同局はホルムズ海峡における船舶の通航許可・規制を一元管理する新設機関であり、事実上イランが海峡の「管制塔」となる仕組みだ。
通航を希望する船舶は、「Vessel Information Declaration(船舶情報申告書)」と呼ばれる40項目超のフォームに記入し、PGSAの公式メールアドレス(info@PGSA.ir)へ送付する必要がある。申告内容には船舶の所有者情報、乗組員の国籍、積み荷の詳細、航路計画などが含まれる。
項目内容
| 設立日 | 2026年5月5日 |
| 根拠 | イラン最高指導者モジュタバ・ハメネイの指示 |
| 申請方法 | Vessel Information Declaration をメールで提出 |
| 通航料 | 原油換算で1バレルあたり約1ドル相当と報道(未確認) |
| 制裁リスク | 米OFACが5月1日付で制裁適用の可能性を警告 |
| 国際法との関係 | UNCLOSの「無害通航権」に抵触するとの指摘あり(イランはUNCLOS未批准) |
アルジャジーラの報道によれば、イラン当局者は「これは一時的な戦時措置ではなく、海峡管理の恒久的な変更だ」と強調している。つまりPGSAは戦後も存続させる意図がある、ということだ。
中国船舶が通れた理由:Trump × Xi 会談の舞台裏
5月14日、トランプ大統領と習近平国家主席はホルムズ海峡問題を中心に会談。ホワイトハウスは「両首脳はホルムズ海峡がエネルギーの自由な流通を支えるために開放されていなければならないという点で合意した」と発表した。同日、イランのファルス通信は「中国船舶の通航を認める合意がある」と報道。イランの国営放送IRIBも水曜夜から約30隻が通過したことを伝えた。
実際、船舶追跡データによれば水曜日(5月13日)に中国タンカー1隻が海峡を通過している(Reuters確認)。これは単なる偶然ではない。中国はイランにとって最大の原油輸出先であり、かつ米国との間に独自の外交チャンネルを持つ。イランが中国船を通過させることで、「敵対国以外は通れる」という実績を作り、米国主導の封鎖ナラティブに対抗する構図だ。
⚠️ 注意:トランプ大統領は「習近平氏が軍事装備をイランに提供しないと明言した」と述べたが、中国外務省の公式声明にはホルムズ海峡やイランへの言及はなかった。両国間の「合意」の詳細は不透明なままだ。
日本タンカーはなぜ通れたのか:出光丸の事例
日本のタンカーが初めてホルムズ海峡を通過したのは2026年4月2日だった。商船三井とオマーン企業が共同保有するパナマ船籍のLNG船「SOHAR LNG」がその第1号だ。続いて4月29日、出光興産子会社が運航するパナマ船籍のVLCC(超大型原油タンカー)「出光丸」がサウジ産原油200万バレルを積んで海峡を通過した。
日本政府は戦争開始後、あらゆる機会を使ってイランに働きかけを続けていた。高市外相(当時)は「すべての国の船舶の自由で安全な航行の早期確保が重要」との立場から交渉を行ってきたと説明している。出光丸は革命防衛隊が指定する「安全航路」を通航し、米国の対イラン封鎖ラインも通り抜けた。政府関係者は「通航料は支払っていない」と述べた。
国・地域通航状況備考
| 中国 | ✅ 許可(特別合意) | 最大の原油輸入国。Trump × Xi 会談でも確認 |
| インド | ✅ 複数通過 | 中立路線を維持する友好国 |
| パキスタン | ✅ 許可 | 米・イランの仲介役でもある |
| 日本 | ✅ 個別交渉で通過実績 | 出光丸・商船三井LNG船。通航料支払いなしと政府発表 |
| フランス | ⚠️ 一部通過・攻撃被弾 | CMA CGM系列船が被弾。状況は流動的 |
| 米国・イスラエル関連船 | ❌ 全面禁止・攻撃対象 | 2026年3月27日以降、明示的に禁止 |
日本にとっての意味:エネルギー安全保障の脆弱性
日本は戦争開始前、原油輸入量の約90%を中東から調達し、そのほとんどがホルムズ海峡を経由していた。戦争開始以来、ペルシャ湾内に45隻以上の日本関係船舶が足止めされており、エネルギー不足への懸念が急激に高まった。
出光丸の通過は一定の安心材料だが、課題は残る。今後、新たに日本からタンカーをホルムズ海峡に送ることが安全かどうかは依然不透明だ。またPGSAを通じた通航料支払いは米国の制裁対象となるリスクがあり、日本企業はジレンマを抱えている。米OFACは2026年5月1日、通航料支払いを制裁対象とする警告を発している。
📌 構造的問題:イランが「敵対国・友好国」を選別する「toll booth(料金所)」体制を恒久化しようとしている以上、日本のエネルギー安全保障は「イランとの外交関係の質」に根本的に左右される構造となった。米国の同盟国でありながらイランに頭を下げなければならない——これが日本外交の新たな矛盾だ。
今後の焦点:和平交渉と海峡管理の行方
イランのアラグチ外相は「軍事的解決策はない」と強調し、外交的出口を模索している。米国の「Project Freedom」作戦は5月6日にパキスタンの仲介要請により一時停止されたが、米国の対イラン海上封鎖は継続中だ。
今後の焦点は三点だ。第一に、米・イランの核・停戦交渉の行方。第二に、PGSAによる通航管理体制が戦後も維持されるかどうか。第三に、中国が「仲介者」として台頭し、ホルムズ海峡における存在感をどこまで高めるかだ。アナリストは「たとえ戦争が終結しても、イランが海峡に対する何らかの管理権限を正常化させることに成功すれば、世界の海運・エネルギー市場は恒久的に変容する」と警告している。
情報源:Al Jazeera(2026年5月14日ライブブログ)、CNN、Wikipedia 2026 Strait of Hormuz crisis、ニューズウィーク日本版、NRI(野村総合研究所)、Lloyd's List、Gulf News、Marine Insight