ゴールドマン・サックスが最新の投資家向け調査ノートで衝撃的な予測を示した。
欧州のジェット燃料在庫は6月中に国際エネルギー機関(IEA)が深刻不足と定める「23日分」を下回る見通しだという。
ホルムズ海峡の封鎖が続く中、アジア・アフリカ・中南米の途上国はさらに早い時期に打撃を受ける。日本ではナフサ不足の報道が後退し、政府の発表も沈静化しているが、その背後に迫りくる「空の危機」——世界的なジェット燃料枯渇——についてほとんど語られていない。本稿では欧米・アルジャジーラほか国際メディアの最新報道を集約し、危機の全体像を解説する。
📋 目次
- ゴールドマン・サックスの警告──6月に臨界点突破か
- ホルムズ海峡封鎖がジェット燃料に与えた打撃
- 欧州の現状──IEA「残り6週間」発言の衝撃
- 世界の航空会社はすでに動いている
- アジア・日本への波及リスク
- 日本政府とメディアの「沈黙」
- まとめ──空の輸送が止まれば何が起きるか
1|ゴールドマン・サックスの警告──6月に臨界点突破か
米大手投資銀行ゴールドマン・サックスは2026年5月初旬、機関投資家向けリサーチノートの中で、欧州の商業ジェット燃料在庫が6月中のいずれかの時点にIEAの「深刻不足のしきい値」である23日分を下回ると予測した。Fortuneや英国メディアが相次いでこの内容を報じている。
23日分という数字は単なる「あと23日で底をつく」という意味ではない。IEAが「この水準を下回れば市場機能に深刻な歪みが生じる」と定めた警戒ラインだ。燃料補給が続く限り即座に枯渇するわけではないが、供給余力が失われ配給・割り当て(ラショニング)が現実の政策選択肢として浮上する。
| 時期 | 在庫水準(予測) | リスクレベル |
| 2026年6月 | 23日分を下回る | 警戒 |
| 2026年7月 | 20日分以下の可能性 | 深刻 |
| 2026年8月 | 15日分以下の懸念 | 危機 |
同レポートは「特にリスクにさらされているのは英国」と指摘。英国はジェット燃料の純輸入量がヨーロッパ最大でありながら、戦略的備蓄をまったく持っていない。「商業在庫が唯一のバッファー」という構造的脆弱性が、配給措置の可能性を高めている。
2|ホルムズ海峡封鎖がジェット燃料に与えた打撃
2026年2月末に勃発したイラン・米国/イスラエル連合の武力衝突を受け、ホルムズ海峡は事実上封鎖された。この海峡は世界の石油貿易の約20%が通過する咽喉部だが、ジェット燃料への影響はそれ以上だ。
📌 ホルムズ海峡封鎖の数字で見る影響
- ホルムズ海峡を経由する世界のジェット燃料の約20〜30%が遮断(Tourism Economics)
- 欧州向けジェット燃料輸入量の約40%が海峡経由(Argus Media)
- 欧州の基準地点アムステルダム-ロッテルダム-アントワープ(ARA)の在庫が開戦以来50%減
- 欧州のジェット燃料価格は1バレル当たり187ドル(2025年同期比ほぼ2倍、IATA)
- 原油(ブレント)は一時1バレル114ドル超を記録
ジェット燃料はケロシン(灯油)を精製した石油製品で、ガソリン・軽油と同じ製油所で製造される。しかし通常、製油所はジェット燃料よりもガソリンや軽油を多く生産するように設計されている。欧州の製油所は今、急ピッチでジェット燃料の製造比率を上げているが、「供給の崩壊には抗えない」とエネルギーアナリストたちは語る。
3|欧州の現状──IEA「残り6週間」発言の衝撃
IEA(国際エネルギー機関)のファティ・ビロル事務局長は2026年4月中旬、APとの独占インタビューで「欧州にはおそらく6週間分のジェット燃料しか残っていない可能性がある」と述べ、世界経済が「史上最大のエネルギー危機」に直面していると警告した。
💬 各機関の警告(2026年4〜5月)
IEA事務局長 ファティ・ビロル氏:「欧州はおよそ6週間分しか残っていない可能性がある」「アジア・アフリカ・中南米の途上国はより早く影響を受ける」
欧州空港評議会(ACI Europe):「ホルムズ海峡が再開しなければEUは組織的なジェット燃料不足に陥る」(4月9日付EU宛書簡)
IATA事務局長 ウィリー・ウォルシュ氏:「IEAの評価は冷厳だ。5月末からアジア向けに欠航が始まりうる。これはすでにアジアの一部で起きている」
Argus Media(欧州ジェット燃料価格担当アマール・カーン氏):「欧州のジェット燃料輸入の約40%がホルムズ海峡経由だが、開戦以来1滴も通過していない」
「現時点(4月21日時点)で欧州に実際の不足はない」とEU運輸委員は述べたが、これは「崖の手前にいるが、まだ落ちていない」と表現するのが正確だ。ゴールドマン・サックスの予測通り6月に23日水準を割り込めば、欧州全体で配給措置の議論が一気に加速する。
4|世界の航空会社はすでに動いている
燃料コスト急騰と在庫逼迫を受け、世界の航空会社は次々と手を打っている。「不足はない」と言いながら、実際のビジネス判断では減便・値上げが相次いでいる。
| 航空会社 | 対応内容 |
| ルフトハンザ(独) | 10月まで短距離便を2万便削減。系列地域航空のシティラインを運航停止 |
| KLM(蘭) | スキポール空港発着便を来月160便削減。「燃料コストが採算を割る便は飛ばせない」 |
| easyJet(英) | 2026年度上半期の税引前損失が5.4〜5.6億ポンドに拡大見通し |
| ユナイテッド(米) | 今夏の運航計画を約5%削減。燃料価格高止まりなら年間110億ドルのコスト増と試算 |
| ブリティッシュ・エアウェイズ(英) | 燃料コスト上昇分を航空券価格に転嫁すると明言 |
| キャセイパシフィック(香港) | 全路線で燃油サーチャージを約34%引き上げ |
| トルコ航空(土) | 23都市への路線運航を停止 |
IATAの予測では、ホルムズ海峡が即日再開されたとしても「正常な供給に戻るまでに数ヶ月を要する」という。サプライチェーンのボトルネックは解消に時間がかかり、「航空会社と旅客が恩恵を受けるのは早くとも夏の深い時期以降」(エネルギーコンサルタント会社Kpler)だ。
5|アジア・日本への波及リスク
「欧州の問題」と見ていてはいけない。CNNやCNBCの報道によれば、アジアも確実に影響圏に入りつつある。
韓国は世界最大のジェット燃料輸出国だが、アジア各国の精製所が使う原油の多くは中東産だ。ホルムズ経由の原油調達が滞れば、アジア自身の精製量も落ちる。IATAのウォルシュ事務局長はすでに「アジアの一部ではジェット燃料不足による欠航が始まっている」と認めた。
⚠️ 日本が直面するリスク連鎖
- ジェット燃料価格の急騰→ 国際線・国内線の燃油サーチャージ引き上げ
- 航空便の削減・欠航→ 輸入品・食料品・医薬品の航空輸送量が減少
- 精密部品・鮮魚・生花などの時間厳守貨物への直撃
- 訪日外国人(インバウンド)の急減→ 観光業への打撃
- 日本人の海外出張・留学・旅行への影響
ゴールドマン・サックスのレポートはリスクが特に高い国として南アフリカ、インド、インドネシア、タイ、台湾、マレーシアを名指しした。日本は石油の大部分を中東に依存しており、ホルムズ海峡の封鎖がいかに深刻な問題かについて、政府は国民に十分に説明しているとは言えない状況だ。
6|日本政府とメディアの「沈黙」
日本の報道を振り返ると、ここ数週間でナフサ不足に関する言及は激減し、政府からの発表も目立たなくなってきた。ガソリン補助金で小売価格を170円台に抑え込む「見かけ上の平穏」が作られている一方、その背後で世界規模のジェット燃料危機が静かに深刻化している。
時事通信などが報じた通り、全日本トラック協会には「石油販売会社から軽油の供給が来週からできません」「1リットル60円値上げ」という声が相次いでいる。物流の現場はすでに悲鳴を上げているのに、ジェット燃料の不足という次の局面がほとんど語られていない。
🔎 日本に先行する構造的な脆弱性
- 国内製油所の統廃合が進み、精製能力の余力が縮小(ENEOS和歌山2023年閉鎖など)
- コロナ禍からの需要回復でジェット燃料需要は急増一方、国内供給インフラは追いつかず
- 内航タンカー・タンクローリー・空港給油作業員の慢性的不足(国交省官民タスクフォース2024年設置)
- 地方空港(新千歳・帯広・広島等)では2024年からすでに航空燃料の供給逼迫が表面化
日本の問題は「いつかホルムズが再開すれば解決する」ではない。外的ショックが加わる以前から、国内の航空燃料サプライチェーンそのものに構造的な脆弱性があった。今回の危機はその弱点を一気にさらけ出す可能性がある。
7|まとめ──空の輸送が止まれば何が起きるか
ジェット燃料が不足すれば、まず航空便が削減される。次に旅客運賃が大幅に上昇し、貨物航空便が減少する。貨物航空便は総貨物輸送量の約35%を担っているとされる。医薬品、精密部品、鮮魚・生鮮食料品、緊急物資——これらの多くが航空輸送に依存している。
ゴールドマン・サックスの試算では、世界の石油在庫は5月末時点で需要の98日分にまで低下する可能性がある。欧州のジェット燃料危機は「遠い外国の話」ではなく、ナフサ・LNG・ジェット燃料という三重の供給リスクの一角を担う、日本も直接関係する問題だ。
📢 本稿のポイント
- ゴールドマン・サックスは欧州ジェット燃料在庫が6月にIEAの警戒ライン(23日分)を割り込むと予測
- ARA(欧州基準貯蔵地点)の在庫は開戦以来すでに50%減
- ルフトハンザ2万便、KLM160便など大手が相次ぎ減便
- IATAは「アジアの一部でも欠航が始まっている」と認めた
- 日本は国内の構造的脆弱性と外的ショックが重なるリスクがある
- 政府・テレビメディアの「静寂」の裏で、世界は航空危機の瀬戸際にある
■ 主要参照:Fortune (2026/05/06)、CNBC (2026/05/06)、PBS NewsHour (AP配信)、Euronews (2026/04/17)、CNN Business (2026/04/20)、Bloomberg日本語版 (2026/04/18)、時事通信、国土交通省官民タスクフォース資料、Goldman Sachs Research Note (2026/05)