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EVの裏側で何が起きているのか―中国・南米リチウム開発で水が枯れ、フラミンゴが消えた

「グリーンエネルギー革命」の光の陰で、南米の大地と先住民の暮らしが静かに壊されつつある。電気自動車(EV)やスマートフォンに欠かせないリチウム。その採掘現場では、地下水が枯れ、フラミンゴが消え、農地が砂漠化していた。
日本のメディアがほとんど報じないこの現実を、欧米・現地の調査報道と学術研究をもとに深掘りする。

■ 目次

  1. リチウムトライアングルとは何か―世界の半分が眠る大地
  2. チリ・アタカマ塩湖:すでに取り返しのつかない破壊が始まっている
  3. アルゼンチン:中国マネーが加速させる開発と人権侵害
  4. ボリビア・ウユニ塩湖:「まだ手つかず」の終わりが近づく
  5. 中国の戦略的支配とグリーンウォッシュの構造
  6. 先住民たちの声:「地球を救うために私たちが犠牲になる」
  7. 国際機関・研究者たちの警告―2025年の最新知見
  8. 日本はこの問題とどう向き合うべきか

1. リチウムトライアングルとは何か―世界の半分が眠る大地

チリ北部・アルゼンチン北西部・ボリビア南西部にまたがる「リチウムトライアングル」には、世界のリチウム推定埋蔵量の約50%にあたる5,700万トンが眠っている(USGS, 2025)。EVバッテリーの需要急増を背景に、この地域への投資は爆発的に拡大し、今や米・中・欧・韓の企業が入り乱れる国際争奪戦の舞台となっている。

📊 南米3か国リチウム生産量(2023年・炭酸リチウム換算)

生産量 シェア 2030年予測
🇨🇱 チリ 21.8万t 79% 33.6万t(35%)
🇦🇷 アルゼンチン 4.1万t 15% 41.3万t(43%)※チリ追い越し
🇧🇷 ブラジル 1.7万t 6% 21.1万t(22%)
合計 27.6万t 世界の約30% 96.1万t(約3倍)

出典:JOGMEC「南米のリチウムプロジェクト開発・生産状況」2024年8月

問題は量だけではない。リチウムトライアングルは標高3,000〜4,000mの高地乾燥帯に位置し、そこに生息する生態系と先住民コミュニティは極めて脆弱だ。国際エネルギー機関(IEA)は2050年までにリチウム需要が2021年比で4倍に急増すると試算しており、この脆弱な地域への負荷は今後さらに加速する。

2. チリ・アタカマ塩湖:すでに取り返しのつかない破壊が始まっている

チリのアタカマ塩湖は世界で最も乾燥した地域のひとつでありながら、世界最大級の高品質リチウム鉱床を擁する。米アルベマール(Albemarle)と智SQMの2社がここで長年操業してきたが、その代償は取り返しのつかない規模になりつつある。

🚨 2025年調査報告:「回復不可能な水の喪失」

2025年、Mongabay(環境専門調査報道)が報じた最新の学術報告書によれば、チリのアタカマ塩湖での採掘手法は「不可逆的・回復不可能な水の喪失」をもたらしていると断言している。現地で操業するSQM社は2022年に1時間あたり約40万リットルの地下水を使用したと報告している。

地域住民の証言は生々しい。現地コミュニティ代表のセルヒオ・クビリョス氏は「かつてトウモロコシ畑があった場所は今は何もない。フラミンゴもほぼ消えた。SQM社は年間6,000万立方メートルの地下水を汲み上げ、地下水位は下がり続けている」と国際社会に訴えた(JOGMEC報告、2019年)。

生態系への具体的被害も科学的に裏付けられている。英国王立協会の査読誌「Proceedings of the Royal Society B」に掲載された研究によれば、リチウム採掘による水資源の枯渇が原因で、アンデスフラミンゴとコバシフラミンゴの2種の個体数が著しく減少していることが確認された。採掘では毎秒1,700リットルの水が消費されており、2013年の現地調査では周辺のイナゴマメの木の約3分の1が枯死していたことも判明している(Euronews, 2022)。

💧 リチウム1トン生産に必要な水の量(比較)

生産方式 水消費量(1トンあたり) 主な産地
塩湖かん水蒸発法(従来型) 約190〜220万リットル チリ・アルゼンチン
硬岩スポジュメン採掘 約50〜80万リットル オーストラリア
DLE技術(直接抽出) 大幅削減可能(実用化途上) 実証段階

出典:国連大学報告書(2025年4月)・各研究論文より

さらに深刻なのは、水資源の実態が科学的に過大評価されている可能性だ。2025年4月、学術誌「Communications Earth & Environment」に掲載された研究は「従来の想定は水の利用可能量を少なくとも10倍は過大評価している」と警告している(Boutt et al., 2025)。このまま採掘を続ければ、生態系の破壊と地域コミュニティの危機は避けられないと研究者たちは訴えている。

3. アルゼンチン:中国マネーが加速させる開発と人権侵害

現在、最も急激に開発が進んでいるのがアルゼンチンだ。税率わずか3%という低水準の採掘税と、ミレイ政権の外資規制緩和(2024年大型投資奨励制度RIGI)を追い風に、特に中国企業の投資が激化している。

中国ガンフェン・リチウム(贛鋒鋰業)はアルゼンチンのサルタ州・フフイ州に計12万2,432ヘクタールもの塩湖を保有。2024年単年でもサルタ州のプロジェクトに34億ドルの投資が予定されており(Undisciplined Environments, 2025)、アルゼンチンのリチウム輸出先の筆頭は中国だ。

中国企業 投資規模・動向 対象地域
ガンフェン・リチウム 9億6,200万ドル投資(Pozuelos・Pastos Grandes)。12万haの塩湖権益保有 アルゼンチン サルタ・フフイ州
ズィジン・マイニング(紫金鉱業) 2024年にリオティントの25億ドル規模リンコンプロジェクトに25%出資取得 アルゼンチン サルタ州
CATL(寧徳時代) ボリビアCBC consortium落札。DLE技術を提供しウユニ・コイパサ塩湖開発参入 ボリビア
BYD(比亜迪) チリのCEOL入札に参加。ブラジルでEV生産工場稼働(2024年) チリ・ブラジル

出典:JOGMEC・Undisciplined Environments(2025年3月)・各社発表より

「Salar del Hombre Muerto(男が死ぬ塩湖)」では、中国系企業が関与する採掘現場の合計地下水消費が日量1,000万リットルを超えており、リチウム1kgの採掘ごとに約110リットルの水が消費され、そのうち90%は蒸発または汚染で失われる(Undisciplined Environments, 2025)。

人権侵害も表面化している。2025年8月に国際人権連盟(FIDH)が発表した報告書は、アルゼンチン・ボリビア・チリ3か国の政府と企業がILO第169号条約に定める先住民への事前協議義務を果たしておらず、環境活動家への暴力的な弾圧も起きていると批判した。

4. ボリビア・ウユニ塩湖:「まだ手つかず」の終わりが近づく

「天空の鏡」として日本でも人気の観光地、ウユニ塩湖。世界最大の塩原(約1万2,000km²)の地下には世界のリチウム推定埋蔵量の17〜50%が眠るとされ、これまで大規模採掘を免れてきた。しかしその「猶予期間」は急速に終わりを迎えつつある。

2023年、ボリビア政府は国営リチウム公社(YLB)が発注したウユニ・コイパサ両塩湖のリチウム採掘事業をCATLを中心とする中国CBCコンソーシアムが落札したと発表した。CATLのDLE技術は従来比で抽出効率を90%まで高めるとされ、環境負荷軽減を謳うが、実態は未検証だ。

📅 ウユニ塩湖開発 主要経緯

出来事
1980年代 ボリビア政府がウユニを世界最大のリチウム鉱床と確認
2006〜2019 モラレス政権が国有開発方針。環境アセスメント開始も政情不安で停滞
2023年1月 中国CATLのCBCコンソーシアムが入札落札。開発に本格着手へ
2024〜現在 先住民協議不足・環境アセスメント不備の批判が噴出。プロジェクト詳細未公開
2025年4月 国連大学が「水資源破壊が進行中」と警告。水不足がキヌアなど主食農業にも影響と報告

研究者のパブロ・ソロン氏(ボリビア)は「水が減れば農地は使えなくなり、人々は離れていく。数年後、これらのコミュニティはゴーストタウンになるかもしれない」と警告している(Mine誌, 2024年9月号)。

5. 中国の戦略的支配とグリーンウォッシュの構造

南米リチウム開発における中国の存在感は圧倒的だ。中国の「第14次5か年計画(2021〜2025年)」はリチウムを戦略資源と明記し、2030年までに年間2,120万台のEV生産を目標としている。その実現のため、BYD・CATL・ガンフェン・ズィジンなど企業群が南米全域に触手を伸ばしている。

中国企業はDLE(直接リチウム抽出)技術を「環境に優しい採掘」として売り込んでいる。確かに従来の蒸発池方式に比べて水消費量は少ない。しかし、非営利団体BePeが2021年に指摘したように、「採掘が生態系に与える影響を明確に示す科学的調査が行われておらず、被害の全容は不明」な状態で採掘が拡大しているのが実情だ。

⚠️ 「グリーン転換」の構造的矛盾

EV・再生可能エネルギーへの転換 ➜ リチウム需要が爆発的に増大 ➜ 南米の最貧困・先住民地域を大規模開発 ➜ 水枯渇・生態系破壊・農業崩壊・文化消失

「地球温暖化対策のための技術開発が、まさにその脆弱な生態系と先住民の権利を損なっている」― Global Witness(2025年9月)

2025年9月のMongabay報告では「EVのバッテリーを持続可能にする技術のために、一方では持続不可能な環境負荷を途上国に転嫁している」という批判が専門家から出ている。欧米の消費者がグリーンエネルギーへの転換を謳いながら、その恩恵と環境コストが地球規模で不公平に配分される構造は、「グリーンコロニアリズム」とも呼ばれ始めている。

6. 先住民たちの声:「地球を救うために私たちが犠牲になる」

アルゼンチン・フフイ州サリナス・グランデス近郊の先住民コミュニティ「サントゥアリオ・デ・トレス・ポソス」の代表、ベロニカ・チャベス氏(48歳)はEuronewsの取材にこう語った。

「リチウム会社たちは地球を救うと言う。地球は救えるかもしれない。しかし彼らが犠牲にするのは私たちだ。地球を救うために私たちの命が差し出されるのは、断じておかしい。」

― ベロニカ・チャベス氏(Euronews, 2022年10月)

隣に住む路上食品売りのバルバラ・キピルドール氏(47歳)は「子どもの子どもたちの未来が心配だ。リチウムなんていらない。ここに来ないでほしい」と訴えた。その訴えは世界に届いていない。

2024年1月にアルゼンチン・フフイ州エル・モレーノで開催された「水サミット」では、中国企業と交渉した現地活動家がこう語った。「中国企業が効率やスケールを語るとき、彼らはパチャママ(大地の母)という私たちの世界観とは根本的に相容れない言語で話している」(Undisciplined Environments, 2025年3月)。

2025年8月のFIDH報告書は、3か国政府がILO第169号条約を批准しているにもかかわらず、アンデス高地の塩湖プロジェクトのいずれも先住民コミュニティの事前同意なしに進められており、環境被害への補償も行われていないと糾弾した。また環境活動家への「暴力的な弾圧と嫌がらせ」が特にアルゼンチンとボリビアで起きていると指摘している。

7. 国際機関・研究者たちの警告―2025年の最新知見

2025年に入り、国際機関や学術界からの警告が相次いでいる。

発表元・時期 主な警告内容
国連大学
2025年4月
リチウム1トン生産に約190万リットルの水が必要。2024年世界生産量で換算すると約4,560億リットルの水消費―サハラ以南アフリカ6,200万人の年間家庭用水に匹敵する規模
Communications Earth & Environment
2025年4月
「従来の想定は水の利用可能量を少なくとも10倍は過大評価している」。現状の水使用量継続で生態系破壊と地域危機は必至
ScienceDirect
2025年10月
2015〜2025年の123本の学術論文を精査し、水使用と先住民の権利のほか「生物多様性・健康・ガバナンス」への影響が深刻と総括
FIDH(国際人権連盟)
2025年8月
3か国で先住民の権利侵害・人権侵害が確認。「公正で平等なエネルギー転換を確保しなければ、さらなる不正義が先住民領土で続く」と警告。2026年に各国報告書を発表予定
Mongabay / Global Witness
2025年9月
チリでの採掘が「不可逆的・回復不可能な水の喪失」をもたらしていると断言。化石燃料からの脱却がそれ自体、新たな環境危機を生み出している

8. 日本はこの問題とどう向き合うべきか

日本はリチウムの国内産出がなく、電池産業・EV産業の原料確保を海外に頼っている。JOGMECはボリビアのリチウム開発への参画を模索しており、パナソニック・トヨタなどの企業もリチウム調達サプライチェーンにこの地域が組み込まれている。つまり日本の「グリーン転換」も、南米の環境破壊と無縁ではない。

日本メディアの報道量は欧米に比べて圧倒的に少ない。2025年4月、毎日新聞が国連大学報告書を引用して報じたのは数少ない例外だ。しかし欧米では環境専門報道機関Mongabay、Euronews、NRDC(米自然資源保護協議会)などが継続的に調査報道を続け、学術論文も累積している。

南鳥島の海底のレアアース泥について

商用化に向け、2025年から3年間かけて1日数千トンのマンガンノジュールを引き揚げる揚鉱実証試験が計画されており、費用は数千万ドル以上と見積もられている。 Nippon.com

実用化の方向性はあり、国家プロジェクトとして着実に前進していますが、本格的な商業生産は2030年代にずれ込む見通しで、コスト競争力の問題は依然として未解決です。

📌 私たちにできること

  • EVや電子機器を購入する際、メーカーのリチウム調達方針(サプライチェーン透明性)を確認する
  • バッテリーリサイクルと循環経済の推進を支持する(使用済みリチウムの再利用が資源採掘量を大幅削減する)
  • 日本政府・企業が関与するリチウム調達に「環境アセスメント」を義務付けるよう声を上げる
  • 便利な生活の裏側に犠牲になっている人々がいることを考えてみよう。

「グリーン」という言葉が免罪符になってはならない。南米の塩湖で今起きていることは、20世紀の石炭・石油採掘が引き起こした環境破壊の構造を繰り返している。日本が真に持続可能な社会を目指すなら、自国のEV普及の恩恵がどこかの大地と誰かの命の犠牲の上に成り立っていないか、問い続けなければならない。

■ 主要参考情報源

JOGMEC「南米のリチウムプロジェクト開発・生産状況」(2024年8月)/国連大学報告書(2025年4月)/Mongabay環境調査報道(2025年4月・9月)/FIDH「リチウムトライアングルにおける人権・環境侵害」(2025年8月)/Undisciplined Environments「南米リチウムトライアングルにおける中国の拡大」(2025年3月)/Euronews「南米リチウム三角地帯で犠牲になるコミュニティ」(2022年10月)/Communications Earth & Environment(Boutt et al., 2025年4月)/ScienceDirect「持続可能性課題レビュー」(2025年10月)

  • この記事を書いた人

はぼぞう

旅と砂漠と写真と女性を愛する60歳ちょっと過ぎたの現役エンジニアで元金融システム屋です。 シンガー 森口博子とアーティスト 中村中が大好きです。

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