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世間で起きているあれやこれや

【2026年7月】円安が止まらない本当の理由|米専門家が指摘する高市政権の3つの誤算

1ドル=163円台。40年ぶりの安値圏で、日本円は主要通貨のなかで最も売られている通貨のひとつになった。11兆円を超える為替介入も、日銀の利上げも、円安を止められていない。本稿では日本の経済評論家ではなく、米国の投資・経済・為替・政治の専門家がこの円安をどう見ているのかを整理する。

【信頼度ラベル】🟢複数ソースで確認できた事実/🟡単一ソースまたは当局・企業の主張/🔵編集部による分析・推定

まず現在地を確認する ― 163円は「1986年以来」の水準

🟢 2026年7月22日、ドル円相場は163円台をつけた。過去1カ月で約1%、過去12カ月では約11%の円安が進み、7月21日には一時162.84円と、変動相場制のもとで1986年12月以来という水準に沈んでいる。

🟢 同時に、日本国債の利回りも急上昇している。7月9日、10年物国債利回りは2.900%と1996年9月以来の高水準に達した。9営業日連続の上昇は19年ぶりの長さである。7月21日時点では2.73%まで戻したが、依然として「30年ぶり圏」にとどまっている。

🔵 通貨が売られ、同時に国債も売られている。これは「金利が上がれば通貨は買われる」という教科書的な関係が壊れていることを意味する。市場が売っているのは円という通貨ではなく、日本という国の財政そのものだ、という見方が海外勢のあいだで強まっている。

政治要因 ― 高市政権が市場に何を伝えてしまったか

🟢 高市早苗首相は2025年10月に就任し、2026年2月8日の総選挙で強い信任を得た。掲げるのは「責任ある積極財政」であり、大規模な財政出動と成長分野への投資が政策の中心にある。

🟢 市場が特に問題視しているのは、政権が日銀の利上げに一貫して慎重な姿勢を示してきた点だ。ロイターによれば、7月21日にまとまった高市政権初の経済財政運営の指針(骨太方針にあたる文書)は、原案の段階で金融政策に「民間需要を支える」という表現を含んでいた。長期金利が上昇するにつれてこの文言は削除され、その後も日銀の独立性をめぐる記述が複数回書き換えられている。最終文書は、日銀が政策判断を政府の経済強化の取り組みと整合させることが「極めて重要」だとする表現を残した。

🟡 元日銀審議委員の安達誠司氏はロイターに対し、政権はより多くの国債を発行するために日銀に低金利を維持してほしいと考えている、との見方を示している。さらに同氏は、10年国債利回りが3%を超えれば日本の財政持続可能性に疑問符がつく、とも指摘した。インフレ率2%、実質成長率が良くて1%という前提のもとでは、金利3%は「利払いが成長を食い潰す」水準にあたるからだ。

🟢 加えて、首相自身の発言が円売りを誘発した場面もあった。2026年2月2日、高市首相が通貨安は輸出産業にとって大きな好機になり得ると述べたことを受け、円は一時155.51円まで下落した。政府が円買い介入に踏み切るとの観測が後退したためである。

🔵 市場が読み取った政権のメッセージ

「財政は拡張する」「金利は上げさせない」「円安は悪くない」。この三点セットが揃った瞬間、通貨は売られる。海外投資家にとって、これは政策の失敗ではなく、政策の意図そのものに見えている。

米国の為替専門家 ― ゴールドマンは「止まる理由が見当たらない」

🟢 米ゴールドマン・サックスは2026年7月6日、ドル円の12カ月見通しを155円から165円へ大幅に引き上げた。ブルームバーグが集計する予測のなかで、最も円安寄りの部類に入る水準である。3カ月見通しは160円から162円へ、6カ月見通しは158円から163円へと、期間全体で一律に切り上げられた。単発の修正ではなく、見方そのものの転換である。

🟢 同社ストラテジストのカレン・ライヒゴット・フィッシュマン氏が挙げた理由は三つ。日本の財政圧力、米長期金利の高止まり、そして日銀の利上げペースの遅さだ。同氏は、ゴールドマンの評価モデル上、円はすでに極端に割安であるにもかかわらず、それでも下落圧力が続くと分析している。

🟢 さらに踏み込んで、同社は米景気の予想外の悪化か、日銀による大幅に積極的な金融引き締めへの転換のいずれかがなければ、ドル円の上昇トレンドが止まる理由は見当たらないとしている。当局による介入についても、効果は一時的にとどまるとの見立てだ。

🟢 市場のポジションもこれを裏づけている。為替オプション市場では、2027年6月までにドル円が165円に到達する確率が7割強と織り込まれている。ヘッジファンドの円売り持ち高は、先月時点で2017年以来の高水準に達した。ゴールドマンは円をキャリートレード(低金利通貨で資金を調達し高金利資産に投資する取引)の調達通貨として選好する、とも明言している。

米国の投資専門家 ― 「前例のない流出」を起こしているのは日本の家計

🟢 バンク・オブ・アメリカ証券でG10通貨の金利・為替戦略を統括するアダーシュ・シンハ氏は、日本の個人投資家による海外資産購入の規模を「前例がない」と表現している。同氏は、少額投資非課税制度(NISA)が海外株の買いを加速させ、それが市場の想定よりはるかに長く円安を継続させてきた要因だと指摘する。

🟡 政府は「貯蓄から投資へ」を掲げて非課税枠を拡大したが、家計が選んだのは国内株ではなく米国株だった。全世界株や米国株のインデックス投信を通じた資金は、年間8兆〜9兆円規模の資本流出として国際収支の金融収支に記録される。これは為替市場では純粋な「円売り・ドル買い」として現れる。

🔵 皮肉な構図がここにある。円安が進むほど、円建てで見た米国株の評価額は膨らむ。すると個人はさらに米国株を買い、その分だけ円が売られる。制度が意図せず自己増殖する円安装置になっている。政治的な決断で止められる性質のものではない。

🟢 米ラザード・アセット・マネジメントの2026年7月の分析は、別の角度から円の脆弱性を数値化している。2024年以降の相場環境では、日本の10年物インフレ期待(ブレークイーブン・インフレ率)が0.1ポイント上昇すると、円は約1.2%下落する関係が観測されており、その感応度は2024年以前より約35%大きい。賃上げの定着と政権の財政拡張が期待インフレを押し上げ、それが日銀の対応の遅れとして解釈されるためだ。

米国の経済専門家 ― 金利差は「縮まらない」という前提

🟢 円安の最大の燃料は日米金利差である。日銀は2026年6月16日、政策金利を0.25ポイント引き上げて1.0%とした。1995年以来の高さであり、決定は7対1だった。それでも円は反応せず、むしろその後163円まで下落している。

🟢 一方の米国は、ケビン・ウォーシュ氏が連邦準備制度理事会(FRB)議長に就任して以降、明確にタカ派に傾いている。6月の連邦公開市場委員会(FOMC)で示された2026年末の政策金利見通しの中央値は、3月時点の3.4%から3.8%へ引き上げられ、18人の参加者のうち9人が年内の利上げを想定した。米10年債利回りは7月中旬時点で4.5%台にある。

項目 米国 日本
政策金利 約3.75% 1.00% 約2.75ポイント
10年国債利回り 約4.55% 約2.73% 約1.8ポイント
今後の方向 据え置き〜利上げ 緩やかな利上げ 縮小しにくい

🔵 日銀が0.25ポイント刻みで年に2回利上げしても、金利差は年0.5ポイントしか縮まらない。米国が据え置くだけでこのペースなら、差が意味のある水準まで縮むのは早くて2028年前後になる。市場はその時間軸を見て、いま円を売っている。

政権は何をしたのか ― 11.73兆円を投じて、それでも163円

「政府は何もしていない」というのは正確ではない。むしろ、歴史的な規模で動いている。問題は、それが効いていないことだ。

時期 政権・当局が打った手 結果
2026年4月 片山さつき財務相がワシントンでベッセント米財務長官と協議。必要なら「大胆な」対応で一致 一時的な円買い戻しにとどまる
4月30日〜5月27日 160円突破を受け、予告なしの円買い介入。2カ月で11兆7300億円(約730億ドル) その後163円台まで再下落
6月16日 日銀が政策金利を1.0%へ引き上げ(1995年以来の高水準) 円はわずかに上昇後、再び下落
6月〜7月 口先介入を意図的に減らす「沈黙戦略」へ転換。介入水準も明示しない方針 投機筋の円売りは止まらず
7月17日 片山財務相が数週間ぶりに「断固たる措置」と最も強い表現を使用 相場はほぼ動かず

🟢 財務省が160円という水準を公式の防衛ラインと認めないのは意図的だ。閾値を認めた瞬間、それは市場が自信を持って試せる目標になる。片山財務相は日米当局が緊密に連絡を取り合っていると繰り返し述べつつ、「必要ならいつでも適切に対応する」という定型句を崩していない。

🔵 だが11.73兆円を使って水準を戻せなかったという事実は、市場に強烈な学習効果を与えてしまった。介入は「押し目買いのチャンス」として消費されている。ゴールドマンが介入の効果を一時的と断じるのは、この実証結果があるからだ。

政治以外の要因 ― 円安は7つの流れの合流点にある

要因 内容 性質
日米金利差 政策金利で約2.75ポイント。ドルを持つだけで利息がつく 循環的・最大要因
中東情勢と原油 イラン情勢とホルムズ海峡の緊張で原油が高止まり。輸入代金の支払いが増え、実需の円売りが発生 外生的ショック
家計マネーの流出 NISA経由の海外株投資が年8兆〜9兆円規模の資本流出に 構造的・恒常的
キャリートレード 円で借りて高金利通貨に投資する取引が復活。円売り持ち高は2017年以来の高水準 投機的
デジタル赤字 クラウド、広告、サブスクリプションの利用料が毎月ドルで海外へ流出 構造的・拡大中
企業の海外利益 現地で稼いだ利益を円に戻さず、そのまま現地に再投資する動きが定着 構造的
資源・食料の輸入依存 エネルギー自給率も食料自給率も低く、円安がそのまま生活コストに直結する 構造的・是正困難

🔵 7つのうち4つが「構造的」に分類される。政権が交代しても、日銀総裁が代わっても、来月には消えない要因だ。金利差だけを見て「米国が利下げすれば円高に戻る」と考えるのは、この4つを見落としている。

円安で得をするのは誰か、損をするのは誰か

得をする側 なぜ得をするのか
輸出製造業(自動車・機械・電子部品) ドル建て売上を円に換算するだけで利益が膨らむ。為替差益が営業努力を上回る
海外売上比率の高いグローバル企業 円換算での売上・利益がかさ上げされ、株価も上がりやすい
インバウンド関連(観光・ホテル・免税小売) 外国人にとって日本の物価が実質的に大幅値引き状態になる
外貨建て資産の保有者 米国株・外貨預金・外貨建て保険の円換算評価額が上昇する
年金積立金管理運用独立行政法人などの機関投資家 運用資産の約半分が外貨建てのため、評価益が拡大する
政府 物価上昇で消費税収が自動的に増え、企業収益増で法人税収も増える。外貨準備の評価益も出る
海外ヘッジファンド・投機筋 円売り持ちと金利差の両方から収益を得る。介入は絶好の買い場になる
損をする側 どう効いてくるのか
円建て給与で暮らす人(大多数) 給与は円で据え置かれ、食料・燃料の価格だけが上がる。実質的な国際購買力の低下
年金生活者 支給額の伸びは物価の伸びより抑えられる仕組みで、確実に目減りする
輸入・内需型の中小企業 仕入れ値が上がっても価格転嫁できず利益が消える。2026年上半期の円安関連倒産は45件で前年同期比32.3%増
飲食・食品・小売 小麦・食用油・飼料・水産物の輸入コストが直撃する
エネルギー多消費産業・運輸 原油高と円安のダブルパンチ。補助金が切れた瞬間に一気に表面化する
地方の生活者 自動車が必需品で、燃料費の上昇を回避する手段がない
海外留学・海外赴任・輸入学術資源に依存する分野 学費・生活費・機器・論文購読料がすべて円換算で跳ね上がる
将来世代 金利上昇で国債の利払い費が膨らみ、その負担は次の世代に繰り延べられる

🔵 得をする側の中心には、輸出大企業・投資家・そして政府がいる。損をする側の中心には、円で給料をもらい円で生活する人がいる。円安は税金ではないが、税金とほぼ同じ機能を持つ。しかも国会の議決を経ずに徴収される点で、税より始末が悪い。政権が円安を強く止めにいかない理由は、この構図を見れば理解しやすい。

「まだ物価は上がっていない」という危険な錯覚

🟢 意外に思えるかもしれないが、日本の消費者物価は現在それほど高くない。6月の全国コア消費者物価指数(フレッシュフードを除く)は前年同月比1.6%上昇と予想され、5月の1.4%から加速したものの、日銀の2%目標を5カ月連続で下回る見込みだ。

🔵 これは円安が生活に効いていないという意味ではない。ガソリンの暫定税率廃止、電気・ガス料金への補助、食料品対策といった政府の措置が、統計上の数字を人為的に押し下げているからだ。そしてその財源は国債である。つまり、物価を抑えるために国債を増発し、その国債増発が財政不安を通じて円安を招き、円安がまた輸入物価を押し上げる。回転すればするほど傷が深くなる循環に入っている。

🔵 補助金は永続しない。打ち切られた瞬間、これまで抑え込まれてきた輸入コストの上昇分が一度に表面化する。「まだ大丈夫」と見える現在の物価統計は、時限爆弾の秒針が止まっているように見えるだけである。

これ以上円安が進むと、生活はどうなるのか

🔵 以下は編集部による水準別のシナリオ整理である。断定的な予測ではなく、過去の局面と輸入依存度から導いた影響の方向性として読んでいただきたい。

水準 生活への影響 政策・市場の反応
165円
(ゴールドマンの1年後予想)
輸入食品・日用品の再値上げが秋以降に本格化。海外旅行と輸入車が実質的に手の届かない領域へ 追加介入と補助金延長の圧力が高まる
170円 電気・ガス・ガソリンの補助が財政的に維持困難に。食料品の値上げが年に複数回の常態へ。実質賃金は再びマイナス圏に沈む可能性 日銀が政治的意向を押し切って利上げペースを速める局面に入る
180円以上 輸入依存の生活必需品が広範に高騰。中小の輸入業者・飲食の倒産が加速。円建て資産だけを持つ層と外貨資産を持つ層の格差が決定的に開く 通貨危機に近い扱いとなり、緊急利上げ・大規模協調介入・資本規制の議論まで視野に入る

🔵 最も警戒すべきは水準そのものではなく、下落の速度だ。ラザードが指摘するように、当局は水準よりもスピードを問題視する。緩やかな下落は口先介入で済まされるが、無秩序な下落は介入を呼ぶ。逆に言えば、緩やかに170円へ向かうシナリオでは、国民は「誰も止めてくれないまま」購買力を失っていくことになる。

円安が止まるとしたら、条件は何か

条件 実現可能性の評価
米国景気の予想外の悪化と利下げ 🔵 ウォーシュ議長のタカ派姿勢と根強いインフレを踏まえると、当面は見込みにくい
日銀の大幅かつ連続的な利上げ 🔵 政権の財政運営と正面から衝突する。国債利払い費が急増するため政治的な抵抗が大きい
財政規律への信認回復 🔵 積極財政を看板に掲げて選挙に勝った政権が、その看板を下ろすのは容易ではない
中東情勢の安定と原油価格の下落 🔵 日本の政策では動かせない。他力本願の領域
日米協調による大規模介入 🟡 片山財務相とベッセント財務長官の協議は続いている。ただし効果は時間稼ぎにとどまるとの見方が主流

結論 ― これは相場の問題ではなく、統治の問題である

🔵 米国の専門家の分析を並べて浮かび上がるのは、単純な結論だ。市場は高市政権の政策を誤解しているのではなく、正確に理解している。財政を拡張し、金利上昇を嫌い、円安を輸出の追い風と位置づける。その組み合わせが選ばれている以上、通貨が売られるのは市場の裏切りではなく、市場の合理的な反応である。

🔵 11.73兆円の介入は、方向を変える力ではなく、時間を買う力しか持たなかった。買った時間で構造を変えるのが本来の使い方だが、政権が示した経済財政運営の指針は、むしろ同じ方向へさらに踏み込む内容だった。市場がそれを読んだ結果が、40年ぶりの安値と30年ぶりの長期金利である。

🔵 円安は誰かが決めた政策ではない。だが、誰も止めないという選択の積み重ねが生んだ結果である。そのコストを最も重く負うのは、円で給料をもらい、円で買い物をし、外貨資産を持たない大多数の人々だ。この非対称性こそが、いま最も語られるべき論点である。

【出典】ゴールドマン・サックス(2026年7月6日付レポート、カレン・ライヒゴット・フィッシュマン氏)、ブルームバーグ、ロイター、シー・エヌ・ビー・シー、ラザード・アセット・マネジメント(2026年7月)、バンク・オブ・アメリカ証券、ジャパンタイムズ、トレーディング・エコノミクス、日本銀行、財務省。数値は2026年7月22日時点。

  • この記事を書いた人

はぼぞう

旅と砂漠と写真と女性を愛する60歳ちょっと過ぎたの「元金融系システム屋」です。 現在は、社内SEのアルバイト件システム構築やってます。 シンガー 森口博子とアーティスト 中村中の大ファン

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