※本ページはプロモーションが含まれています

日本のニュースに出てこないニュース

鶏もも肉154円の真因 ── 「需要シフト」では説明できない円安と買い負け

鶏もも肉の店頭価格が100gあたり154円と、調査開始以来の過去最高値を更新しました。農林水産大臣は「割安な鶏肉への需要シフト」を主因に挙げましたが、本当にそれだけでしょうか。値上がりの正体は、円安(えんやす)と飼料(しりょう)の輸入依存、そして世界市場での「買い負け」という、より根の深い構造問題です。本記事では国内外の一次情報をもとに、鶏肉高騰の真因と、その先にある食料安全保障(しょくりょうあんぜんほしょう)リスクを掘り下げます。

まず事実確認 ── 鶏もも肉100g「154円」の中身

農林水産省が公表した2026年5月の食品価格動向調査によると、鶏もも肉の店頭平均価格は100gあたり154円。これは2003年8月の調査開始以降で最も高い水準です。前月(4月)の151円から3円上昇し、前年同月(144円)と比べると10円の値上がりとなっています。

調査は全国470店舗(各都道府県10店舗の量販店)を対象に、特売を除く税込価格を単純平均したものです。鶏肉だけでなく、鶏卵も1パック309円と高止まりが続いています。

品目 5月価格 前月比 平年比
鶏もも肉 154円/100g 102% 114%
鶏卵 309円/1パック 100% 121%
輸入牛肉ロース 420円/100g 99% 124%
豚肉ロース 285円/100g 101% 108%

出典:農林水産省「食品価格動向調査」2026年5月分。平年比は過去5年同月平均との比較。

かつて鶏もも肉は2003〜2007年ごろまで100gあたり110円台で推移していました。流れが変わったのは、外国為替市場で1ドル=150円台まで円安が進んだ2022年後半。ここから140円台へと急上昇し、そして今回の154円に至ります。「安い肉」の代表だった鶏肉から、割安感が確実に薄れつつあります。

高騰を生む4つの構造要因

鶏肉価格の上昇は単一の原因ではなく、複数の構造要因が重なって生じています。整理すると、次の4点に集約されます。

要因 内容
① 円安 養鶏のエサとなる濃厚飼料(のうこうしりょう)はほぼ100%が輸入。円安が進むほど調達コストが直撃する。
② 飼料コスト高 生産コストの5〜6割を飼料代が占める。トウモロコシ・大豆など国際穀物相場の高止まりが上乗せされる。
③ 買い負け 主産地ブラジル産をめぐり、中東・韓国・中国などが調達を増やし、日本が数量・価格で競り負けるケースが増加。
④ 鳥インフルエンザ 高病原性鳥インフルエンザ(エイチピーエーアイ/HPAI)による殺処分で国内外の供給量が断続的に減少。

注目すべきは、①〜③がいずれも「日本が世界の食料を買う力」に関わる問題だという点です。これは消費者の好みではなく、国の経済構造に由来する問題です。

「買い負け」の実態 ── 世界が鶏肉を奪い合う

日本の鶏肉自給率は重量ベースで約65%とされますが、その国産鶏もエサのほとんどを輸入に頼っているため、実質的な自立度はさらに低くなります。輸入鶏肉の主産地はブラジルで、外食産業などで使う輸入冷凍もも肉の国内卸値は、ブラジル産が1kgあたり680円前後、タイ産が780円近辺(2026年5月時点)。1年前より5〜6割高く、5年前の2倍を超える最高値圏で推移しています。

なぜここまで上がるのか。背景にあるのが、世界規模での需要拡大です。鶏肉は世界で最も安価な食肉とされ、牛肉・豚肉から「より安い肉」へ消費者が乗り換える動きが各国で進んでいます。米農務省(USDA)は2026年の世界の鶏肉生産が過去最高の約1億960万トン(前年比+2%)に達すると予測。民間調査でも世界生産は約2.5%増と、3年連続の拡大が見込まれています。

この旺盛な需要の争奪戦で、日本は不利な立場に置かれています。サウジアラビアなど中東勢や韓国がブラジル産の調達を積極化させると、ブラジル依存度の高い日本がそのあおりを受け、輸入量が前年同月比で2割近く減る月も出ています。さらに、インド・インドネシア・米国・EU(欧州連合)・タイ・中国などが、数量制限(クオータ)や関税、食料安全保障策によって自国向け供給を優先する傾向を強めています。世界の食料が「囲い込み」へ向かう中で、買う側に回る日本の交渉力が試されているのです。

長年のデフレで「安さ」が前提になった日本市場は、価格よりも「量の確保」を優先する巨大市場と競うと、どうしても後手に回ります。世界の鶏肉貿易はブラジルが約38%、米国が約27%を占める寡占(かせん)構造で、ブラジル一国の供給判断が日本の食卓を左右します。これが「買い負け」の正体です。

農相の「需要シフト」説明は的を射ているか

鈴木憲和農林水産大臣は2026年6月2日の閣議後会見で、鶏肉の過去最高値について「割安な鶏肉に需要がシフトしている」ことを背景の一つに挙げ、業界関係者と緊密に情報交換しながら安定供給に努める考えを示しました。物価高で牛肉・豚肉から鶏肉へ消費が移っているという、需要側(消費者側)の説明です。

この説明は、事実の一面を捉えてはいます。実際、より安い鶏むね肉への乗り換えが進むなど、需要シフトは確かに起きています。しかし、これを主因のように語ることには、編集部として疑問を呈したいと考えます。

理由は単純です。仮に国内の需要が横ばいだったとしても、円安・飼料の輸入依存・買い負けという供給側の圧力が続く限り、価格は上がり続ける構造になっているからです。需要シフトを前面に出す説明は、ともすれば「消費者が鶏肉を選ぶから高くなった」という、責任の所在を家計側にずらす印象を与えかねません。本質は、エサの100%近くを輸入に頼り、その購買力が円安で目減りしているという、政策・経済の側の問題です。

論点の整理:需要シフトは「結果」であって「原因」ではありません。牛・豚が高いから鶏に移る ── その牛・豚もまた、輸入飼料と円安で高騰しています。つまり需要シフト自体が、輸入依存と円安という同じ根から生じた症状なのです。

円安に政府は動くのか

価格高騰の根に円安がある以上、為替と通商をめぐる政策対応が問われます。しかし現時点で、鶏肉価格そのものに対する直接的な価格対策(補助や輸入関税の調整など)は具体的に示されていません。農相が言及したのは「業界との情報交換」と「安定供給への努力」にとどまります。

中長期の枠組みとしては、2025年4月に閣議決定された「食料・農業・農村基本計画」で食料安全保障が前面に据えられ、2030年にカロリーベース食料自給率45%を目指す目標が掲げられています。ただし、飼料の国産化や転作支援といった具体策の実装は限定的で、政策効果が数値に表れるには10年単位の時間がかかるとされます。為替の急変動に対しても、輸入物価の上昇を即座に和らげる手立ては乏しいのが実情です。

鶏肉だけではない ── 食料・肥料と「飢餓」リスク

最も警戒すべきは、「買い負け」が鶏肉に限った話ではないという点です。日本のカロリーベース食料自給率は2024年度で38%。小麦は17%、大豆は7%、油脂類は3%と、主要品目の多くが構造的な低水準にあります。化学肥料の原料は約9割が輸入で、養鶏の飼料に至ってはほぼ全量を海外に依存しています。

項目 自給率・輸入依存度
食料全体(カロリーベース) 自給38%
小麦 自給約17%
大豆 自給約7%
油脂類 自給約3%
化学肥料の原料 輸入約90%
養鶏の濃厚飼料 輸入ほぼ100%

出典:農林水産省、各種農業統計(2024〜2026年)。数値は時点により変動。

専門機関の分析では、現在の国際環境において食料安全保障を支える最大の要素は「国の経済力」だと指摘されています。世界の農業と貿易システムが機能している限り、十分な経済力があれば食料は買える ── 逆に言えば、経済力(=買う力)が落ちれば買えなくなる、ということです。

ここに、日本の弱点が露呈します。円安と低成長で円の購買力が目減りし、一方で世界の食料需要は人口増とともに拡大を続ける。この二つが交差する地点で起きるのが「買い負け」です。鶏肉で今まさに起きている現象は、小麦・大豆・肥料といった他の品目にも広がりうる前兆と見るべきでしょう。食料を「カネで買えなくなる」事態が現実味を帯びれば、それは数字の上の自給率の問題を超えて、国民の食卓と栄養 ── 最悪の場合は飢餓 ── に直結します。鶏もも肉154円は、その入り口を示すシグナルなのです。

まとめ ── 「需要のせい」で終わらせない

鶏もも肉100g154円という過去最高値は、消費者の好みが変わった結果ではありません。円安、飼料の輸入依存、世界市場での買い負け ── これらが折り重なった、構造的な値上がりです。農相の「需要シフト」という説明は誤りとは言えませんが、本質である供給・経済構造の問題から目をそらさせる危うさをはらんでいます。

そして、この問題は鶏肉だけにとどまりません。世界が食料を囲い込み、日本の購買力が細っていく中で、「買い負け」は食料・肥料の広い範囲へ波及しかねません。安さに慣れた私たちの食卓が、世界の現実に追いつかれつつある ── 鶏肉の値札は、そのことを静かに告げています。一次産業の足腰を立て直す中長期政策と、為替・通商の現実的な対応。その両輪が問われています。

主な参照元:農林水産省「食品価格動向調査」(2026年5月分)/NHK・各紙報道(鈴木農相会見、2026年6月2日)/日本経済新聞(輸入鶏肉卸値・買い負け関連、2026年5月)/米農務省(USDA)家畜・家禽世界需給見通し/民間農業調査機関の2026年見通し/各種食料安全保障・食料自給率統計。数値は調査時点のもので、最新値は各一次情報をご確認ください。

  • この記事を書いた人

はぼぞう

旅と砂漠と写真と女性を愛する60歳ちょっと過ぎたの現役エンジニアで元金融システム屋です。 シンガー 森口博子とアーティスト 中村中が大好きです。

-日本のニュースに出てこないニュース
-, , ,

Copyright© インドからミルクティー , 2026 All Rights Reserved Powered by AFFINGER5.