「移民受け入れをゼロベースで見直す」——総裁選でそう訴え支持を集めた高市早苗首相が、政権獲得後に外国人受け入れ拡大を粛々と進めている。だが驚くことはない。自民党にとって公約とは「当選するための道具」に過ぎない。
この構造的欺瞞を、過去の実例とともに徹底的に検証する。
■ 「ゼロベース」の正体——言葉の罠に嵌まった国民
2025年秋の自民党総裁選で、高市氏は「毎年、文化等が違う人たちを国内に入れる政策はいったん見直さなければいけない」と発言。外国人受け入れ政策を「ゼロベースで見直す」姿勢を強調し、移民に批判的な保守層の圧倒的な支持を獲得した。
しかし、よく発言を読み解くと、「ゼロベース」の主語はいわゆる「外国人問題への対処方針」であり、受け入れ拡大政策そのものを否定するものではなかった。さらに同じ総裁選の討論会では「合法的に滞在する人の受け入れ枠の設定は考えていない」と発言。5候補の中で最も外国人受け入れに寛容なスタンスを示していたのだ。
国民が「ゼロベース=受け入れ抑制」と解釈した言葉は、実際には何も約束していなかった。これが「言葉の罠」の本質だ。
■ 政権獲得後に露わになった「移民推進」の実態
高市首相が政権に就いた後、実際に何が起きたか。
| 時期 | 高市政権の「移民拡大」施策 |
| 2025年11月 | 外国人材共生支援全国協会(NAGOMi)大会へ祝電送付 |
| 2026年1月23日 | 「特定技能」「育成就労」対象分野を閣議決定で拡大(リネンサプライ・物流倉庫・資源循環を追加) |
| 2026年1月20日 | 自民党外国人政策本部が方針発表。「外国人の増加規制」は一切示されず「適正かつ円滑な受入れ」が「不可欠」と明記 |
| 受け入れ枠 | 特定技能・育成就労の上限123万人(2028年度末まで)を設定。ただし2029年度以降は「白紙」。5年ごとに拡大設定する仕組みを昨年3月に閣議決定済 |
2012年度末に約200万人だった在留外国人は、2025年度末に約396万人と、13年間で倍増している。「ゼロベース見直し」を訴えた首相の下で、このトレンドは止まっていない。
■ 添付資料が示す「自民党の本音」——2013〜2014年の日経報道
添付された日本経済新聞の記事は、この問題の根が深いことを示している。
📰 2013年6月「成長戦略など政調会長に一任 自民」
「骨太の方針」の取り扱いを高市早苗政調会長(当時)に一任。外国人労働者活用は「成長戦略」として当初から組み込まれていた。
📰 2014年4月「自民、外国人労働者活用で政府に提言」
「自民の日本経済再生本部(本部長・高市早苗政調会長)がまとめた」提言が、技能実習制度の拡大(受け入れ枠を現行の約2倍)を政府に求めた。2020年東京五輪に向けたインフラ需要を名目に外国人労働者の大量導入を推進。
高市氏は2014年の時点で、技能実習枠の倍増を自ら主導した当事者だ。「ゼロベースで見直す」と言い放った人物が、10年以上にわたって外国人受け入れ拡大を積極的に推進してきた政治家に他ならない。
■ 自民党「公約破り」の歴史年表——これが繰り返しのパターンだ
今回の移民問題は孤立した事例ではない。自民党は選挙のたびに国民への約束を反故にしてきた。主要な公約破りを時系列で整理する。
| 時期 | 選挙時の「約束」 | 政権獲得後の「現実」 |
| 1979年 | 大平内閣、「一般消費税は導入しない」方針で選挙 | 選挙中に消費税導入案を閣議決定。党は大敗し廃案に |
| 1986年 | 中曽根首相「売上税は導入しない」と明言して選挙大勝 | 翌年、売上税法案を国会提出。反発で廃案となり「公約破り」が定着 |
| 2012年 | 安倍総裁「デフレ脱却・景気回復を最優先する」 | 2014年4月に消費税を5%→8%へ増税。景気は失速し実質賃金は低下 |
| 2014年 | 安倍首相「リーマン級・大震災級でない限り2017年4月に消費税10%」と公約 | 2016年、「新しい判断」と称して自ら公約破棄を認め2年半延期 |
| 2010年代〜 | 「移民政策はとらない」「外国人受け入れは労働力補完」と繰り返し説明 | 2012年度末〜2025年度末で在留外国人が200万人→396万人へ倍増。事実上の移民政策を継続 |
| 2025年 | 高市首相「外国人受け入れをゼロベースで見直す」と訴え総裁選・総選挙を勝利 | 政権後に特定技能・育成就労の対象拡大を閣議決定。総量規制は棚上げ |
■ なぜ繰り返されるのか——構造的欺瞞のメカニズム
自民党の公約破りが繰り返される背景には、構造的な理由がある。
① 選挙公約と政策決定が別ルートで動く
実際の政策は経済界・官僚・業界団体との調整で決まる。「外国人を増やしたい企業側の論理」と「移民を嫌う国民感情」は相反するが、選挙では国民感情に寄り添い、政権後は企業論理に従う。この二重構造が常態化している。
② 曖昧な言語で「約束した事実」を消す
「ゼロベースで見直す」は約束ではない。「検討する」「目指す」「考えていく」——これらの言葉は後に「状況が変わった」「より総合的に判断した」で回収される。
③ メディアが追及しない
大手メディアは「前政権との比較」「経済効果の解説」に終始し、「公約との乖離」を継続的に報道しない。国民が忘れるまで待つ——これが自民党の標準的なプレイブックだ。
■ 国民が今すべきこと——「次の選挙」だけが武器ではない
公約破りに対して国民ができることは、選挙だけではない。
まず、「言葉ではなく数字と法案」で政治家を評価することだ。在留外国人数の推移、閣議決定の内容、受け入れ枠の数字——これらは公開情報として誰でも確認できる。「何を言ったか」ではなく「何をしたか」を記録し続けることが重要だ。
次に、総量規制の明文化を要求することだ。「外国人が何人まで」という数値目標を政府に設定させ、それを上回った場合の責任を問う仕組みが必要だ。「検討する」では不十分。「何年までに何人以下にする」という具体的な公約を求めるべきだ。
そして何より、この構造を次世代に伝えることだ。「自民党は過去にも同じことをした」という歴史的文脈を、一人でも多くの国民が知る必要がある。知らなければ、また同じ罠に嵌まる。
【編集部まとめ】
高市首相の「移民ゼロベース見直し」発言と、政権後の「外国人受け入れ拡大」政策の乖離は、自民党が半世紀以上にわたって繰り返してきた構造的欺瞞の最新版に過ぎない。消費税、原発、移民——いずれも選挙時の言葉と政権後の現実は正反対だった。「また裏切られた」と嘆くより、この繰り返しのパターンを認識し、具体的な数値で政治家を縛る仕組みを国民が要求し続けることが、唯一の対抗手段だ。