2025年9月16日、長期にわたる空爆と砲撃の後、イスラエルはついにガザ市に対する「地上侵攻(ground offensive)」を公式に開始しました。
「Gaza is burning(ガザが燃えている)」という言葉で表されたこの攻撃は、ハマスの軍事力を徹底的に排除し、人質を解放するという目的が掲げられています。しかし都市部での戦闘は、多くの市民を危険にさらし、人道的な危機を急速に深めつつあります。
本記事では、なぜイスラエルが今このタイミングで地上攻撃に踏み切ったのか、その狙いと背景、そして紛争の根本にある歴史と国際問題を、欧米メディアの報道をもとに整理します。
目次
最最新情報のまとめ(2025年9月16日時点)
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地上攻撃の開始
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イスラエル防衛軍(IDF)は、ガザ市(Gaza City)への「長い間予告されていた」地上攻撃(ground assault/ground operation)の主体を本格化させたと発表
Reuters+3Reuters+3Reuters+3 -
「Gaza is burning(ガザは燃えている)」という言葉で、イスラエル国防大臣イスラエル・カッツ(Israel Katz)がこの攻勢を強調
Reuters+2ニューヨーク・ポスト+2
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軍事規模・構成・目的
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IDF はガザ市におよそ 3,000 人のハマス戦闘員 がまだ残っているとみており、それらと戦うために部隊を投入
Reuters+2Reuters+2 -
目標は、ハマスのテロ/軍事インフラを破壊すること、人質の解放、およびガザ市の制圧・指導部・トンネル網など戦略的拠点の除去
Reuters+2ニューヨーク・ポスト+2
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被害・逃避・人道危機の深刻化
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空爆・砲撃・海、陸、空からの攻撃が強まっており、住民の避難が急増。特にガザ市住民に対して、南や西への避難勧告が出されている。
Reuters+3Reuters+3ガーディアン+3 -
健康省等によれば、直近 24 時間で 59 人の死亡、386 人の負傷などが報告されており、累計のパレスチナ人死者数は約 65,000 人に達している。
ガーディアン+2Reuters+2 -
食糧不足・医療体制の崩壊・避難所の過密など、人道支援の面での危機が深刻。
AP News+2ガーディアン+2
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国際社会の反応と非難
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国連人権最高責任者 Volker Türk は、地上攻撃の開始に対して「虐殺行為・人道法違反・戦争犯罪の疑い」を含む懸念を表明し、即刻攻撃を停止するよう呼びかけ
Reuters -
国連の独立調査委員会(Commission of Inquiry)は、イスラエルがジェノサイド(集団虐殺)の疑いがある行為を行っていると結論付ける報告書を発表
AP News+2ガーディアン+2 -
イスラエル側はこの報告を否定。「偏見に満ちたもの」と呼び、軍事行動は正当防衛と人質解放を目的とするものだと主張
Reuters+1
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その他の注目点
背景:イスラエル‐パレスチナ問題の概要
以下、コンパクトに主要な論点・歴史的背景を整理します。
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領土と帰属の問題
20世紀初頭からユダヤ人の移民が増え、イギリス委任統治領時代のパレスチナにおけるユダヤ人とアラブ人の緊張が高まる。1947年の国連分割案、1948年のイスラエル建国戦争により、多くのパレスチナ人が難民となる。
Council on Foreign Relations+1 -
ハマス vs イスラエルの紛争の起点
ハマスはパレスチナのイスラーム主義組織で、特にガザ地区を支配。イスラエルとは繰り返し衝突を起こしてきた。2023年10月にハマスが大規模な攻撃(「10月7日攻撃」)を行ったのが、現紛争の直接的な起点。Council on Foreign Relations+2チャタムハウス+2 -
人質問題と反応
ハマスによるイスラエル人の誘拐・人質拘束が、イスラエル政府にとって強い動機の一つ。これが、軍事的な報復や攻勢を正当化する口実として用いられてきた。地上攻撃の一因としてもこの「人質解放」が常に挙げられている。News.com.au+2AP News+2 -
国際的な批判と人道・難民問題
ガザ地区は非常に人口密度が高く、住民の大部分が避難できる安全な場所を持たず、インフラ・医療体制も限られている。戦闘が都市部に拡大すれば民間人被害が増える。国連・人権団体が警鐘を鳴らしており、国際法における市民の保護義務が問題となっている。
AP News+3AP News+3ガーディアン+3
なぜイスラエルは地上攻撃を始めたのか?(理由と動機)
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ハマスの「軍事的インフラ」の排除
ハマスは地下のトンネル網、武器庫、指導者の拠点をガザ市内に持っており、これらを制圧・破壊することが、空爆・砲撃だけでは限界があると考えられている。地上侵攻によってより直接的に、かつ目に見える形でこれを攻める狙い。
AP News+2Reuters+2 -
人質の解放圧
多数のイスラエル人がハマスにより人質として拘束されており、解放が国民・政府にとって重大な問題。地上攻撃は、人質の所在を突き止めて救出する可能性を高めるためとされている。
News.com.au+2AP News+2 -
戦争の転換点を作るための「支配権確保」
ガザ市は紛争全体において戦略的にも象徴的にも重要。ここを掌握することでハマスの支配力と影響力を削ぎ、戦況を有利に変えることを狙う。
ポリティコ+2ガーディアン+2 -
国際的・国内的プレッシャー
空爆だけでは限界があり、人道危機や国際的非難が増している中で、より決定的な行動を取ることで議論を主導したいという動機。また、与党首相ネタニヤフが汚職裁判中であり、国内政治的にも軍事行動が支持を得る可能性を重視しているとの報道。
ガーディアン+1
リスク・国際的反響
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国連や人権団体は、今回の作戦を「ジェノサイド(集団虐殺)」の可能性を含むものとして調査を要求。国際法上、市民の保護義務を巡る論争。
AP News+2ガーディアン+2 -
多数の民間人被害・避難民発生。食糧や医療アクセスの寸断、病院の機能マヒ。人道危機の拡大。
AP News+1 -
国際社会、特にヨーロッパ諸国や一部アジア・アフリカ諸国からは、攻撃の拡大と非戦闘員への影響に対して強い懸念。和平交渉の窓口が極めて狭くなっているとの見方。
ガーディアン+2AP News+2
今後の展開予測
1. 短期的(数週間以内)
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戦闘の激化
ガザ市中心部の市街戦が本格化し、空爆・砲撃に加えて 地上部隊がハマスの拠点・トンネル網を制圧 する動きが続く可能性が高いです。
→ その過程で 民間人被害が急増 し、国際的非難がさらに強まると予想されます。 -
人質問題の行方
イスラエルは「人質解放」を大義名分にしていますが、軍事作戦での人質救出は非常に困難。むしろ人質の安全リスクが高まり、外交交渉による解決を迫られる可能性があります。
2. 中期的(数か月以内)
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ガザ市掌握の難航
イスラエル軍は一時的に市街を制圧しても、ハマスや他の武装組織が ゲリラ戦や残存抵抗 を続ける公算が大きいです。
→ 「制圧宣言」は出せても、治安維持に膨大なコストがかかり、長期駐留はイスラエル世論にとっても負担。 -
国際圧力の強まり
国連や欧州諸国を中心に「即時停戦」への圧力が強まる見通し。アメリカはイスラエルの同盟国ですが、人道危機が拡大すれば 支援の条件付き・圧力の増加 に転じる可能性があります。 -
周辺国への波及リスク
レバノンのヒズボラやイラン系武装勢力が戦闘を拡大させるリスク。過去の戦争と同じく、紛争が 地域全体の火種 となる可能性も。
3. 長期的(半年~数年スパン)
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恒久的和平の困難
イスラエルとパレスチナはこれまで何度も停戦合意を結んできましたが、持続性に欠けてきました。今回の大規模攻撃後も 「壊れやすい停戦」 となる可能性が高いです。 -
国際的孤立と二極化
イスラエルは軍事的には優位ですが、民間人死者の増加が続けば「ジェノサイド」の非難が強まり、国際裁判・制裁議論も進む可能性があります。逆に、アメリカや一部西側諸国はイスラエル寄りの姿勢を維持し、国際世論が二極化するでしょう。 -
パレスチナ側の政治変化
ハマスの軍事力が弱体化しても、その後に 誰がガザを統治するのか という問題が残ります。ファタハ主導のパレスチナ自治政府(西岸)に権限が移るか、あるいは混乱が続くかは不透明です。
まとめ(予測の方向性)
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短期: 市街戦の激化と民間人被害の増大
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中期: 国際的停戦圧力とガザ掌握の難航
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長期: 停戦は成立しても恒久的解決は遠く、むしろ地域紛争の再燃リスクが高い