※本ページはプロモーションが含まれています

日本のニュースに出てこないニュース

元グーグルCEOがブーイングされた日──米国の若者がAI礼賛を拒む理由

2026年6月19日

U.S. REPORT / 2026.06.18

「みんな使っている。でも、誰も歓迎していない」――。米国の大学生はAI(エーアイ)を日常の道具として手放せなくなりながら、同時にそれを警戒し、嫌い、あきらめている。卒業式の壇上でAIを礼賛したスピーカーに学生たちがブーイングを浴びせる光景は、決して特殊な出来事ではない。本稿では、各種調査と現地報道をもとに「使うのに、嫌う」という矛盾の正体を、忖度なしで読み解く。

本記事の情報レベル表記

確定事実 調査機関の公表データ・一次報道で確認済み
報道ベース 報道・個別事例に基づく(係争中含む)
編集部分析 habozou.com の見解

「使うのに、嫌う」――矛盾する米大学生のAI観

結論から言えば、「米国の大学生はAIを頻繁に使うが、同時に強く警戒・嫌悪している」という現象は実在する確定事実として、複数の大規模調査がこの「両義性(アンビバレンス)」を裏づけている。

ルミナ財団とギャラップ(Gallup)の「2026年 高等教育の現状」調査では、米国の大学生の約57%が週1回以上、約20%が毎日、課題でAIを使っている。一方、カリフォルニア州立大学(CSU)系で9万4000人以上が回答した調査では、ChatGPT利用者は学生のほぼ9割に達するが、その約8割が「創造性・プライバシー・環境・雇用への悪影響」を心配していた。調査を設計したサンディエゴ州立大学の研究者は「『好き』か『嫌い』かの二択ではない。複雑で両義的な感情がうごめいている」と指摘する。

主要調査が示す「利用」と「不安」のギャップ:

指標 数値 出典
課題でAIを週1回以上使う大学生 約57% Lumina/Gallup 2026
毎日使う大学生 約20% Lumina/Gallup 2026
ChatGPTを使う学生(サンディエゴ圏) 約90% CSU調査(9.4万人)
創造性・雇用などへの悪影響を心配 約80% CSU調査(9.4万人)
AIを理由に専攻を変更した学生 16% Gallup(Inside Higher Ed)

興味深いのは、AIに詳しい若い世代ほど懐疑的だという点だ。クイニピアック大学(Quinnipiac University)の2026年4月調査では、18〜34歳の58%が「学生は学ぶことを避けるためにAIを使う」と答え、65歳以上(35%)を大きく上回った。AIをよく知る当事者世代が、最も冷めた目で見ている――。これが現状である。

卒業式で噴き出した「ブーイング」現象

報道ベース 2026年の卒業シーズン、米国の各地でAI礼賛スピーチが学生のブーイングにさらされた。最も注目を集めたのが、アリゾナ大学(University of Arizona)の卒業式に登壇した元グーグルCEOのエリック・シュミット(Eric Schmidt)氏だ。AIの台頭を「コンピューターがもたらした技術的変革」になぞらえた瞬間、観客席の一角から野次とブーイングが起き、雇用への影響に話が及ぶと、それはさらに強まった。

シュミット氏は会場の空気を察し、壇上から学生に語りかけた。「あなたたちが何を感じているか分かる。聞こえている。そこには恐れがある」。彼はその恐れを「合理的だ」と認めつつ、なお「問いは、AIが世界を形づくるかどうかではない。あなたがAIを形づくる側になれるかどうかだ」と説いたが、聴衆の納得は得られなかった。

同様の場面は他校でも起きている。セントラルフロリダ大学(UCF)では、不動産企業の幹部がAIを「次の産業革命」と表現した直後、会場がブーイングに包まれた。複数の米メディアは、これらを「シリコンバレーと、社会に出ようとする若者との認識の断絶」を象徴する出来事として報じた。なお、シュミット氏の登壇には、元パートナーが起こした係争中の訴訟をめぐる学生団体の抗議も重なっていた(同氏は疑惑を否定し、争いは仲裁手続きへ移行している)。

編集部分析 ブーイングの矛先は「AIという技術」ではなく、「AIを作った当事者が、若者に向かって"適応しろ、さもなくば"と説教する構図」に向いている。自分たちの初職を奪いかねない仕組みを売り込む側が、未来は君たち次第だと語る――その欺瞞性に対する拒否反応と読むのが妥当だ。

なぜ「AIがもたらす影響」を嫌うのか――4つの根

問いを精密にすれば、米国の若者が嫌っているのは「AIそのもの」ではなく「AIがもたらす影響」だ。その影響への危機感・嫌悪・あきらめ・絶望は、おおむね次の4つの根から伸びている。

感情の根 中身と裏づけデータ
① 危機感(雇用喪失) ロイター/イプソス調査で53%が「自分か家族がAIで職を失う」と懸念。米労働者の約60%が「AIは生む職より奪う職が多い」と予想(Resume Now)。先月の人員削減の約40%にAIが関与(チャレンジャー社)。
② 嫌悪(思考の外注) 約52,000人対象の調査で56%が「自分で考える力を失うこと(認知的依存)」を懸念。学業では「コグニティブ・アウトソーシング(思考の外注)」の常態化が問題視されている。
③ あきらめ(不信) ピュー(Pew)調査で67%が「政府はAIを規制できない」、59%が「企業は責任ある開発ができない」と回答。守ってくれる主体への期待が薄い。
④ 絶望(未来観) 米成人の50%が「AIの拡大に期待より不安」、期待が上回るのはわずか10%(Pew、2021年の不安37%から悪化)。40%が「AIは社会に悪影響」と回答。

とりわけ重いのが①だ。学生たちは「ここ数年で最もタイトな新卒市場」へ放り出されつつある。米国の四年制大学では、AIに最も近いはずのコンピューターサイエンス専攻の登録者が2025〜26年に8.1%減少した。技術を学ぶこと自体が「AIに代替される側」への片道切符に見え始めている――この逆説こそ、ブーイングの底流にある。

AI依存症(AIアディクション)――静かに広がる新しい依存

「嫌い」と並んで深刻なのが、その裏返しである「やめられない」という依存だ。米国成人の52%がAIチャットボット(対話型AI)を使った経験を持ち、34%が毎日使うとされる。当初は調べもの・効率化が中心だった用途は、いまや感情的サポートや"話し相手"が主軸へと移りつつある。

2024〜26年の査読付き研究を横断すると、ヘビーユーザーのおよそ6人に1人(約17%)に問題的な依存の兆候が見られる。研究者はその仕組みを「AIジーニー現象(魔人現象)」と呼ぶ。擬人化(アンソロポモーフィズム)+おべっか(シコファンシー)+摩擦ゼロ――いつでも肯定し、否定せず、手間なく応える設計こそが依存を生む、という説明だ。依存は主に3つの型に分類されている。

依存の型 割合 内容
逃避的ロールプレイ型 37% 現実から逃れる役割演技に没入
疑似社会的コンパニオン型 26% AIを"友人・恋人"のように頼る
認識の沼(ラビットホール)型 4% 思考の沼に深くはまり込む

深刻な依存は全体では稀だが、影響は無視できない。OpenAIは、週間アクティブユーザーの約0.15%にChatGPTへの過度な情緒的愛着の兆候があると報告した。これは数十万人規模に相当する。さらに2025年11月にはAP通信が、ChatGPTが自殺や妄想を助長したとして7件の訴訟が起こされたと報じている。象徴的なのが、フロリダ州の14歳の少年がCharacter.AIのチャットボットへの約10カ月の依存の末に2024年に自ら命を絶ったとされる事案で、対話型AIが思春期の脳に与える「疑似的な人間関係」のリスクが専門家から強く警告されている。

※本節は精神的健康に関わる繊細な話題を含みます。もし当事者として強い不安や孤立を感じている場合は、信頼できる人や専門の相談窓口に連絡してください。

「AI教」――シリコンバレーが説く"信仰"への反発

米国でAI礼賛が反発を買う背景には、それが単なる技術論を超え、しばしば"信仰"の様相を帯びている点がある。研究者やジャーナリストは、シリコンバレーのAI観を「テクノ宗教」「AI教」と評してきた。

その傍証は枚挙にいとまがない。元グーグル技術者が「AIを神(ゴッドヘッド)として崇拝する」教会(Way of the Future)をIRS(米内国歳入庁)に正式登録した一件。著名投資家マーク・アンドリーセン(Marc Andreessen)の「テクノ楽観主義宣言」が「我々は信じる(We believe)」を連呼する信仰告白の体裁を取っていること。OpenAIのサム・アルトマン(Sam Altman)CEOが「最も成功する創業者は、宗教に近い何かを作る使命を帯びている」と語ったこと――。シンギュラリティ(技術的特異点)信仰や長期主義(ロングターミズム)と結びついた、半ば終末論的な世界観がそこにはある。

編集部分析 卒業式のブーイングは、この"布教"への明確な拒絶だ。「AIは不可避だから受け入れよ」という教義は、信じる者には福音でも、職と未来を脅かされる側には「逃げ場のない宿命の押し売り」に聞こえる。若者が嫌っているのは知能を持つ機械ではなく、それを神格化し、異論を"非合理な恐れ"として処理してしまう語り口そのものである。

編集後記:恐れは「非合理」ではない

米国の若者のAI観は、「無知ゆえの拒絶」ではない。むしろ最もよく使い、最もよく知る世代が、最も冷静に距離を取っている。彼らは便利さを否定していない。否定しているのは、その便益の代償を一方的に自分たちへ転嫁する構図であり、守ってくれるはずの政府・企業への信頼が崩れた状況であり、依存を設計に組み込んだプロダクトの誠実さである。

日本ではAIをめぐる議論が「便利/危険」の二択や、海外の華やかな礼賛の輸入に傾きがちだ。だが米国の現場で起きているのは、もっと成熟した両義性――使いこなしながら、欺瞞を見抜き、声を上げる態度である。壇上に飛んだブーイングは、絶望ではなく、まだ未来を自分たちの手に取り戻そうとする者の声だと、本紙は読む。

主な参照:Lumina Foundation/Gallup「2026 State of Higher Education」、Pew Research Center、Quinnipiac University Poll、Reuters/Ipsos、Mercer Global Talent Trends 2026、NBC News、Fox Business、CHI 2026(AI依存研究)、OpenAI/MIT、AP通信、National Academy of Medicine、MIT Press Reader ほか。数値は各調査の公表時点のもの。

  • この記事を書いた人

はぼぞう

旅と砂漠と写真と女性を愛する60歳ちょっと過ぎたの現役エンジニアで元金融システム屋です。 シンガー 森口博子とアーティスト 中村中が大好きです。

-日本のニュースに出てこないニュース
-, , , , ,

Copyright© インドからミルクティー , 2026 All Rights Reserved Powered by AFFINGER5.