2026年後半、太平洋赤道域で「スーパーエルニーニョ」が発生する可能性が急浮上しています。Forbes誌をはじめ欧米の気象専門メディアが一斉に報じたこの予測は、1982年、1997年、2015年に匹敵する歴史的規模になる恐れがあるとされ、世界の農業・漁業・経済、そして日本の暮らしにも甚大な影響を及ぼす可能性があります。
本記事では、最新の科学データをもとにスーパーエルニーニョの全貌を徹底解説します。
2026年、スーパーエルニーニョ発生の予測
2026年4月、米国海洋大気庁(NOAA)の気候予測センターは重大な発表を行いました。現在続いているラニーニャ現象が2026年5月中に終息し、6月〜8月にかけてエルニーニョへ移行する確率は62%。そしてそのまま少なくとも年末まで持続する見通しです。
さらに注目すべきは「強さ」の予測です。NOAAのENSOチームリーダーであるミシェル・ルルー氏は、2026年10月〜12月の期間に「強いエルニーニョ」(Niño3.4海域の水温偏差+1.5℃以上)になる確率を33%と見積もっています。また、NOAAの4月の見通しでは「非常に強い」=スーパーエルニーニョに発達する確率を25%と発表しました。
欧州の気象予報モデル(ECMWF)では、さらに踏み込んだ予測が出ています。アンサンブルメンバーの約半数が、10月時点でNiño3.4海域の水温偏差が+2.5℃を超えると予測しており、これは「スーパーエルニーニョ」の領域です。気象学者のディラン・フェデリコ氏は「1982年、1997年、2015年に匹敵し、観測史上最強となる可能性がある」と指摘しています。
| 予測機関 | エルニーニョ発生確率 | 強い〜スーパー級の確率 | 予測時期 |
| NOAA(米国) | 62%(6-8月) | 25%(スーパー級) | 2026年4月 |
| ECMWF(欧州) | 高確率 | 半数が+2.5℃超予測 | 2026年4月 |
| AccuWeather | 高確率 | 15%(スーパー級) | 2026年4月 |
| 気象庁(日本) | 夏頃発生の可能性高 | 強さは不確実 | 2026年4月 |
なぜこれほど強力なエルニーニョが予測されるのか。その鍵は「海洋の地下」にあります。現在、赤道太平洋の深さ300メートルまでの海洋熱含量は異常な暖水塊が拡大しており、強力な西風バースト(偏西風の突発的な強まり)が観測されています。これらはいずれも、過去のスーパーエルニーニョを引き起こした条件と一致しています。
エルニーニョ現象とは? わかりやすく解説
エルニーニョ現象は、太平洋赤道域の日付変更線付近から南米沿岸にかけて海面水温が平年より高くなり、その状態が1年程度続く現象です。「エルニーニョ」はスペイン語で「男の子」を意味し、元はペルーの漁師がクリスマス頃に現れる暖かい海流を「神の子(エルニーニョ)」と呼んだことに由来します。
【通常時】 赤道太平洋では「貿易風」と呼ばれる東風が常に吹いており、海面の暖かい海水を西側(インドネシア方面)へ押し流しています。東側(南米沖)では深海から冷たい水が湧き上がり(湧昇)、海面水温は低い状態を保っています。
【エルニーニョ時】 何らかの原因で貿易風が弱まると、西側に押しやられていた暖かい海水が東側に広がります。湧昇も弱まり、南米沖の海面水温が通常より高くなります。この状態が広範囲かつ長期間続くのがエルニーニョ現象です。
【スーパーエルニーニョ時】 水温偏差がNiño3.4海域で+2.0℃以上に達する極端に強いエルニーニョを指します。通常のエルニーニョよりも影響が激しく、長期にわたり地球全体の気象パターンを大きく変えます。1950年以降で+2.0℃を超えたのは1972〜73年、1982〜83年、1997〜98年、2015〜16年、2023〜24年のわずか5回のみです。
| 項目 | エルニーニョ | ラニーニャ |
| 貿易風 | 弱まる | 強まる |
| 東太平洋の海水温 | 平年より高い | 平年より低い |
| 日本の夏 | 冷夏傾向(近年は例外も) | 猛暑傾向 |
| 日本の冬 | 暖冬傾向 | 厳冬傾向 |
| 世界の平均気温 | 上昇(翌年にピーク) | 低下傾向 |
| 発生頻度 | 2〜7年周期 | 2〜7年周期 |
農業・漁業・経済への影響
スーパーエルニーニョは世界の食料供給に深刻な打撃を与えます。2015〜16年のスーパーエルニーニョでは、東南アジアの米の生産量が前年比で約1,500万トン減少しました。インドでは南西モンスーンの弱体化により干ばつリスクが高まり、オーストラリア、インドネシア、フィリピン、中米、北ブラジルでも干ばつが拡大する見込みです。
UBS銀行のチーフエコノミスト、ポール・ドノヴァン氏は2026年3月の報告書で、「肥料価格の高騰よりも、スーパーエルニーニョによる干ばつと水不足の方が農業にとって大きな脅威だ」と警告しています。一方で、米国のコーンベルト地帯では中西部の干ばつリスクが低下し、収穫量の回復につながる可能性もあり、地域によって明暗が分かれます。
エルニーニョの発生は漁業にとって深刻な問題です。東太平洋では湧昇が弱まることで冷水に含まれる栄養分の供給が減少し、プランクトンが激減。これにより南米沖のカタクチイワシ(アンチョビ)漁が壊滅的な打撃を受けます。養殖業においてもENSO関連の水温変化は飼料となる魚種の漁獲量に影響を及ぼし、世界的な水産供給チェーンに波及します。
スーパーエルニーニョの経済コストは桁違いです。Science誌に掲載された研究によると、1982〜83年のスーパーエルニーニョは約4.1兆ドル(約615兆円)、1997〜98年のイベントは約5.7兆ドル(約855兆円)の世界経済損失をもたらしました。これらの損失は発生後5年以上にわたって持続したとされています。
| スーパーエルニーニョ | 推定経済損失 | 主な影響 |
| 1982〜83年 | 約4.1兆ドル | ペルー大洪水、豪州干ばつ |
| 1997〜98年 | 約5.7兆ドル | 世界的異常気象、食料危機 |
| 2015〜16年 | 約3.9兆ドル | 史上最高気温記録、サンゴ白化 |
| 2026〜27年? | 未知数 | 観測史上最強の可能性 |
さらにCNBCの報道では、2026年は中東情勢の不安定化によるエネルギー価格高騰とスーパーエルニーニョの食料リスクが重なる「二重ショック」の懸念が指摘されています。国連世界食糧計画(WFP)は、原油価格が1バレル100ドル超で推移すれば、急性飢餓に直面する人口が4,500万人増加する可能性を警告しています。
いつまで続くのか? ── タイムライン予測
各国の気象機関の予測を総合すると、今回のエルニーニョは以下のタイムラインで推移すると見られています。
重要なのは「タイムラグ」です。エルニーニョの発達と世界の気温ピークにはずれがあり、気候科学者のジーク・ハウスファーザー氏は「2026年のエルニーニョは2027年を観測史上最も暑い年にする可能性が高い」と指摘しています。つまり、エルニーニョが終息してからも、その影響は数年にわたり世界経済と気候に残り続けるのです。
注意:エルニーニョの強さと持続期間は、まだ大きな不確実性を含んでいます。NOAAは「エルニーニョの強さについては非常に不確実」としており、今後数カ月のデータで見通しが大きく変わる可能性があります。
日本への影響を多方面から解説
気象庁は2026年4月10日に「エルニーニョ現象が夏頃に発生する可能性が高まっている」と発表しました。日本への影響は多方面に及びます。
従来、エルニーニョ発生時の日本は「冷夏」になるとされてきました。しかし2026年は事情が異なります。気象庁の暖候期予報では、夏の気温は「全国的に平年より高い」と予測されています。その理由は、地球温暖化の底上げ効果に加え、フィリピン付近の海面水温が高い状態が維持される見込みであること、そして偏西風の蛇行により太平洋高気圧とチベット高気圧が日本上空で重なる「ダブル高気圧」が形成されやすいためです。
エルニーニョ発生時の日本の冬は、西高東低の冬型気圧配置が弱まり、暖冬になる傾向があります。時事通信の報道によると、気象庁は「エルニーニョが発生した状態で冬になると気温が高くなる傾向があり、高温が続く恐れがある」と警告しています。暖冬になると、冬物衣料、暖房器具、ウィンタースポーツ関連産業の売上が低迷し、スキー場の経営にも打撃を与えます。
エルニーニョ時には大西洋でのハリケーンが抑制される一方、西太平洋では台風が活発化する傾向があります。海面水温の上昇により、より強力な台風が発生しやすくなり、フィリピン、中国、日本への上陸・接近リスクが高まります。特に2026年後半以降は要警戒です。
日本の米作にとってエルニーニョは複雑な影響をもたらします。2024年のエルニーニョ終息後、日本ではコメ価格が急騰した経緯があります。エルニーニョ発生時の日照不足や台風被害は国内米の収穫量に影響し得ます。また、東南アジアの減産により輸入食料品の価格上昇も避けられません。
エルニーニョの影響で太平洋の海水温分布が変わると、サンマ、カツオ、マグロなどの回遊ルートが変化します。日本近海の漁獲量の変動や、養殖魚の飼料価格上昇にも注意が必要です。
猛暑が続けば冷房需要が急増し、電力消費量と電気代が上昇します。また、冬の暖冬は暖房需要を減らす可能性がありますが、夏の電力需要増のインパクトの方が大きいと見られています。さらに中東情勢によるLNG価格の変動も加わり、家計のエネルギーコスト負担は増大する見通しです。
第一生命経済研究所の調査では、エルニーニョ発生時の日本の景気後退確率は通常の1.6倍に上昇するとされています。夏物・冬物衣料の販売不振に加え、マリンスポーツやウィンタースポーツなどのレジャー産業も影響を受けます。
| 影響分野 | 予想される影響 | 時期 | 警戒度 |
| 気温(夏) | 全国的に平年より高い猛暑 | 2026年夏 | ★★★★★ |
| 気温(冬) | 暖冬傾向、降雪減少 | 2026/27年冬 | ★★★★ |
| 台風 | 西太平洋で活発化、強力化 | 2026年後半 | ★★★★ |
| 農業・食料価格 | 国内米収穫量変動、輸入食料値上げ | 2026年秋〜 | ★★★★ |
| 漁業 | 回遊魚ルート変化、漁獲量変動 | 2026年後半〜 | ★★★ |
| 電気代 | 猛暑による冷房需要増で上昇 | 2026年夏 | ★★★★★ |
| 景気全般 | 景気後退確率1.6倍に上昇 | 2026〜27年 | ★★★★ |
2026年後半に発生が予測されるスーパーエルニーニョは、1982年や1997年に匹敵する歴史的規模になる可能性があります。過去のスーパーエルニーニョは世界経済に数兆ドル規模の損失をもたらし、その影響は5年以上続きました。
日本にとっては、猛暑による熱中症リスクと電力需要の増大、台風の強力化、食料品価格の上昇、暖冬によるレジャー・小売業への打撃など、生活と経済の両面で影響が予想されます。
今の段階から最新情報を注視し、猛暑対策、食料備蓄、家計のエネルギーコスト見直し、台風への防災準備を進めることが重要です。
出典:NOAA Climate Prediction Center, ECMWF, 気象庁, Yale Climate Connections, Severe Weather Europe, TIME, CNBC, Newsweek, Science誌, Nature Communications ほか(2026年4月時点の情報に基づく)