「ユダヤの新年(ロシュ・ハシャナ)の時期は株が崩れやすい」
SNSには毎年のようにそんな言説が流れる。
今年(2025年)は9月22日・日没から24日・夜明けまでがロシュ・ハシャナで、米ウォール街由来の「Sell Rosh Hashanah, Buy Yom Kippur(ロシュで売ってヨム・キプルで買う)」という格言も再び注目を集めている。
しかし、統計的に一貫した暴落パターンは確認されていない。むしろ、出来高の偏りや“偶然の一致”が誇張されてきた面がある。
以下、海外の一次情報と研究をもとに、誤解されがちな「新年=下落説」を点検し、祝日の基礎知識もまとめた。
目次
ロシュ・ハシャナとは
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ロシュ・ハシャナ(Rosh Hashanah)とはユダヤ暦の新年で、ユダヤ教における重要な祝日です。自省や償罪の期間(十日間の忌日/悔い改めの期間)の始まりでもあります。
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この期間は、宗教的習慣や慣習的に、物事を整理する、清算するという動きが出やすい時期で、道徳・精神面でも節目にあたります。
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今年のロシュ・ハシャナはいつ?
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日付:2025年は9月22日(月)日没〜9月24日(水)夜明け(ユダヤ暦は日没開始)。ユダヤ年5786の幕開けに当たる。
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位置づけ:ユダヤの新年であり、“十日間の畏れ(Ten Days of Awe)”の起点。期間の最後が贖罪日(ヨム・キプル)。多くの共同体で2日間の厳粛な祝いと祈りを行い、仕事を休む。
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習俗:**ショファル(羊角笛)**を吹き、リンゴを蜂蜜に浸して食べるなど「甘い一年」を願う象徴的な食文化がある。
ウォール街の格言「Sell Rosh, Buy Yom」は効くのか
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メディア検証
MarketWatchは、ロシュ・ハシャナ〜ヨム・キプルの期間のS&P500平均は小幅マイナス(例:−0.5%前後)の年もあるが、年ごとのバラつきが大きく再現性は弱いと評価
「季節性の一種」以上の根拠は乏しいとしている。 -
学術研究
Loughran & Schultz(2004)は *ユダヤ人口の多い都市に本社を置く企業ほど、ヨム・キプル当日の出来高が落ちる”というローカルな取引行動を確認。ただし超過収益の安定した獲得にはつながらない
Rosh/Yom 前後の一貫した価格歪みは限定的という結論だ。 -
実務的含意:祝日の行動様式→出来高の偏りは起こり得るが、“暴落を狙った売買”の優位は統計的に弱い。金利・決算・地政学などファンダメンタルズの方が価格形成への寄与は大きい。
「ロシュ・ハシャナ=暴落」の代表例は本当にある?
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2008年9月29日(ダウ▲777)
米下院がTARPを否決した当日で、ちょうどロシュ・ハシャナ入りの夕刻(2008年は9/29日没開始)と重なった。
政策イベントが下げの直接要因で、祝日そのものが原因という証拠はない。 -
1929年の大暴落
主たる急落日(10/24・10/28・10/29)はロシュ・ハシャナ期ではない
秋に大きな下げが多いのは事実だが、祝日との一致は体系的ではない。 -
“シェミタ(7年周期)”説
宗教的サイクルと市場急落を結びつける主張は繰り返されるが、多くのシェミタ年で顕著な下落がないなど、後付けの指摘に留まるとする反証が複数ある。
それでも値動きが荒れやすい“秋”をどう読むか(2025年版の実務)
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カレンダー効果は“脇役”
FOMC・インフレ指標・企業決算といった一次要因を優先。祝日トレードは**流動性の薄さ(出来高低下)**に注意して活用する程度が現実的。 -
イベント因子を見落とさない
2008年のように政策ショックが来れば、祝日の有無に関係なく相場は動く。見出しに引きずられず、原因と相関を区別する。 -
ボラティリティ対策
ヘッジ(オプション/先物)と現金比率の調整を事前に。祝日前後の板の薄さは、スリッページ拡大の温床になり得る。
まとめ
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事実:2025年のロシュ・ハシャナは9/22日没〜9/24夜明け。市場の“恒常的な暴落”を示す決定的な統計はない。
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観測:出来高が落ちる企業群(ユダヤ人口の多い都市本社など)はあるが、再現性ある裁定機会は限定的。
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提案:祝日=短期の流動性偏りとして扱い、政策・マクロ・決算という一次要因に基づいてポジション設計を。
参考(一次・信頼ソース)
祝日の日付・基礎情報
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Chabad.org(2025年のロシュ・ハシャナ日程)
https://www.chabad.org/holidays/default_cdo/year/2025/jewish/holidays-2025.htm -
Chabad.org(2025年ロシュ・ハシャナ総合ガイド)
https://www.chabad.org/library/article_cdo/aid/735522/jewish/Rosh-Hashanah-Reference-Guide-2025.htm -
Hebcal(2025年ロシュ・ハシャナ:ユダヤ暦5786)
https://www.hebcal.com/holidays/rosh-hashana-2025 -
USC Office of Religious & Spiritual Life(ユダヤ教の祝日カレンダー 2025)
https://orsl.usc.edu/life/jewish-holy-days-calendar/ -
USC ORSL(学期ごとの一覧:Fall 2025)
https://orsl.usc.edu/life/calendar/
相場格言「Sell Rosh, Buy Yom」の検証(主要メディア)
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MarketWatch(特集解説:この戦略は本当に機能するのか)
https://www.marketwatch.com/story/why-the-dubious-sell-rosh-hashanah-buy-yom-kippur-investing-strategy-looks-even-more-complicated-this-october-fc980078 -
MarketWatch(ライブ更新内カード:戦略の難しさ)
https://www.marketwatch.com/livecoverage/stock-market-today-dow-futures-retreat-amid-middle-east-tensions/card/why-the-dubious-sell-rosh-hashanah-buy-yom-kippur-investing-strategy-looks-even-more-complicated-this-october-zp4GIbScpfIv3fCFBwH8
学術・実証研究(取引量の低下など)
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Loughran & Schultz (2004), Journal of Financial and Quantitative Analysis(概要ページ)
https://www.cambridge.org/core/journals/journal-of-financial-and-quantitative-analysis/article/weather-stock-returns-and-the-impact-of-localized-trading-behavior/6C76D48C94E6A0D48FC605FFBE23614C -
Loughran & Schultz (2004)(出版社版PDF)
https://www.cambridge.org/core/services/aop-cambridge-core/content/view/6C76D48C94E6A0D48FC605FFBE23614C/S0022109000003100a.pdf/div-class-title-weather-stock-returns-and-the-impact-of-localized-trading-behavior-div.pdf -
Frieder & Subrahmanyam (2004)「Nonsecular Regularities in Returns and Volume」(JSTOR要旨)
https://www.jstor.org/stable/4480585 -
Frieder & Subrahmanyam (2004)(SSRNページ)
https://papers.ssrn.com/sol3/papers.cfm?abstract_id=574724
事例確認用(2008年急落・1929年大暴落)
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米下院:TARP否決の公式ロールコール(2008/09/29)
https://clerk.house.gov/evs/2008/roll674.xml -
Hebcal:ロシュ・ハシャナ 2008(5769年、9/29日没開始)
https://www.hebcal.com/holidays/rosh-hashana-2008 -
Federal Reserve History:1929年の株式市場暴落(主要急落日は10/24・28・29)
https://www.federalreservehistory.org/essays/stock-market-crash-of-1929