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オカルトな世界

【実話怪談】捨てても、捨てても ~昭和五十五年 池袋の黒髪・前編~

2026年8月19日

今から、四十年ほど前のお話です。

大学生だった自分は、東京・池袋に住んでおりました。

今週も、怖いというか、不思議な話を共有します。

できれば、明るい時間に。最後まで読んでいただけたら幸いです。

白すぎる八畳一間

1980年(昭和55年)自分は、都内の大学に通っていました。

上京して数ヶ月、親戚の家での居候暮らしから、ようやくの脱出でした。

場所は、東京・池袋 雑貨屋の倉庫の二階に、その部屋はありました。

トイレ付き、風呂なし、八畳一間。この時代のアパートに風呂などないのが当たり前で、幸い、歩いて数分のところに銭湯がありましたから、不便を感じることはありませんでした。

大家さんは、近所の雑貨屋さん。倉庫の二階を四部屋に区切った、簡素なつくりで、住んでいる学生は自分だけでした。

家賃はひと月 六万五千円。池袋の駅まで歩いて十分ですから、まぁ、高いと言えば高かったのかもしれません。

布団と文机、小さなテレビ。荷物はそれだけ。あとになって、バイト代で買った冷蔵庫が加わりました。

内見のときは、変な感じはしなかった。

ただ一つ、気になったことがあるとすれば――

建物はこれほど古いのに、その部屋の壁だけが、真っ白だったのです。

まるで、つい昨日、塗り替えたばかりのように

何かを、塗り込めたばかりのように

北側の壁際に

荷物も少なく、がらんとした八畳間。

引っ越してきた初日、その北寄りの壁際に、髪の毛が落ちているのを見つけました。

「不動産屋と来たときは、気がつかなかったけどなぁ」

気持ちが悪いと思いつつ、新聞紙で拾い集めて捨てました。

こうして、八畳間での新しい生活がはじまりました。

大学の授業、深夜のバイト(新宿のバー)、そしてまた大学の授業。その繰り返しの毎日。部屋には、ほぼ寝に帰るだけ。休日は本を読んだり、東京探検とお上りさんをしたりして過ごしていました。

あるとき、また北側の隅に、髪の毛が落ちているのを見つけました。

長い黒髪。おそらく女性のものが、十何本か

「あれ? 掃除したんだけどな」

そう思いながら、新聞紙にくるんで捨てる。

翌日

同じ場所に、同じように、髪の毛が落ちている。

「あれ? 掃除したんだけどな」

そう思いながら、また新聞紙にくるんで捨てる。

翌日

同じ場所に、同じように

――何日か過ごしたあと、さすがに、おかしいと気がつきました。

髪の毛の法則

「この髪の毛、どこからやってくるんだ」

観察を続けるうちに、自分は一つの「法則」に気がついてしまいました。

髪の毛を捨てなければ、翌日も、量は変わらない。

髪の毛を捨てると、翌日、必ず同じ場所に落ちている。

そして、その量は、いつも決まって同じ

まるで、誰かが数えているように

まるで、こちらが一本捨てるたびに、一本、返してよこすように

不思議なことは、これまでにもいくつか体験してきました。けれど、女性の長い黒髪というのが、どうにも気味が悪い。

そこで、家がお寺で、僧侶でもある友人に相談してみました。

「おう、わかった。面白そうだから、部屋で確認しよう」

友人のYは、数珠と線香を持って、アパートにやってきました。

まず、その日に落ちていた髪の毛を、いつものように新聞紙にくるんで捨てる。

これで、明日の朝まで見張っていれば、髪の毛がどこから来るのか、わかるはずだ。

Yと自分は、徹夜で、北側の壁際を見張ることにしました。

午前三時、照明が消える

週末の夜。友人Yと自分は、酒を持ち込み、馬鹿話をしながら、部屋の片隅を見張っていました。

真っ白な壁。その下の、何も落ちていない畳

見ているだけなのに、なぜか、目を離すのが怖い。

時計の針が、深夜三時を回りました。

「何も起きないなぁ」

Yがそうつぶやいた、その瞬間――

照明が、消えた

「うわぁ」

声を上げるY

真っ暗な部屋の中で、自分は北側の壁だけを見ていました。見ようとしていました。けれど、そこには、ただ闇があるだけで。

数秒後

何事もなかったように、照明がつき、部屋が明るくなる。

「おい……見ろよ」

Yの声が、低くなっていました。

「髪の毛が、落ちている」

さっきまで、何もなかったはずの、真っ白い壁の下。

そこに、長い黒髪が、いつものぶんだけ、落ちていました。

誰も、そこへは近づいていない。ドアも窓も開いていない。ほんの、数秒の暗闇

「まじかよ……」

けれど、Yは冷静でした。さすが、坊主の息子

線香台に数本の線香を立て、火を点し、小声でお経を読み上げていく。

一通り唱え終えると、Yはこう言いました。

「これで大丈夫だと思うけど……理由は、俺にもわからん。霊能力者じゃないからな」

明け方、Yは帰っていきました。

自分は、落ちた髪の毛をそのままにして、しばらく、ぼんやりとそれを見つめていました。

真っ白い壁を、見つめていました。

これで、終わったはずでした。

そして――

徹夜がこたえたのか、その日はゆっくり眠り、夜になると、いつものようにバイトへ出かけていきました。

てっきり、これで問題は片づいたと思っていたのです。

けれど――

この後、事態は、さらに大きくなっていきます。

あの真っ白な壁が、なぜ真っ白だったのか。

十何本の髪の毛が、なぜ、あの場所を選んで落ち続けたのか。

その本当の意味を、自分はまだ、何も知らなかったのです。

――後編に続く

【実話怪談】増える髪の毛 ~壁に映る女・後編(完結)~

これまでのお話 今から四十年ほど前、池袋のアパートに住み始めた私は、部屋の片隅に髪の毛が落ちているのを発見した。 掃除しても、翌日には、同じ場所に同じだけ髪の毛が落ちている。 僧侶の息子である友人Y氏 ...

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  • この記事を書いた人

はぼぞう

旅と砂漠と写真と女性を愛する60歳ちょっと過ぎたの「元金融系システム屋」です。 現在は、社内SEのアルバイト件システム構築やってます。 シンガー 森口博子とアーティスト 中村中の大ファン

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