🟢 内閣府が9月7日に発表した7月の景気動向指数(速報)で、景気の現状を示す一致指数(コンポジット・インデックス、CI)は前月比1.7ポイント上昇の120.6となった。上昇は2か月連続。景気拡大局面は74か月に達し、これまで戦後最長だった「いざなみ景気」(73か月)を超えた公算が大きい。──ところが同じ時期、企業の倒産は12年ぶりの高水準に膨らんでいる。「戦後最長」の中身を、忖度なしで検証する。
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「戦後最長」──いざなみ景気を抜いた74か月
🟢 一致指数は120.6(2020年=100)。指数を構成する10系列のうち、投資財の出荷や小売業の販売などが押し上げに寄与した。
🟡 内閣府は基調判断を「改善を示している」で据え置いた。拡大局面の起点はコロナ・ショックで景気が底を打った2020年6月で、そこから74か月連続で「拡大」とされている。
🟡 ただし、景気の「山」「谷」を正式に決める景気基準日付の認定は、有識者でつくる「景気動向指数研究会」の議論を経て事後的に行われる。いまの「戦後最長」はあくまで暫定的な評価で、確定までには1年以上かかる。
なぜ「実感なき好景気」なのか
🟢 名目賃金(額面)は前年比プラスが続き、直近では40か月を超えて連続で上昇している。ところが物価の上昇がそれを上回り、物価変動を除いた実質賃金は、おおむねマイナス圏に沈み続けてきた。
🟢 2025年の実質賃金指数は前年比マイナス1.3%で、4年連続のマイナス。額面は増えても、同じ給料で買える量は年々目減りしている。
🔵 つまり今回の景気拡大の正体は、「モノの値段が上がり、企業の売上と利益が膨らんだ」局面であって、「家計が豊かになった」局面ではない。指数は伸びても、財布の中身はむしろ薄くなっている。
いざなぎ・いざなみ・今回──3つの景気拡大の違い
🔵 「戦後最長」と言われても、中身はまるで別物だ。高度経済成長を象徴する「いざなぎ景気」から今回までを並べてみる。
| 景気の名称 | 期間 | 月数 | 特徴と暮らしへの実感 |
| いざなぎ景気 | 1965年11月〜1970年7月 | 57か月 | 高度経済成長の絶頂。実質国内総生産(GDP)が年10%前後で伸び、賃金も物価を上回って上昇。「豊かになった」実感があった。 |
| バブル景気 | 1986年12月〜1991年2月 | 51か月 | 株価・地価が急騰。所得も伸びたが、資産の過熱が後の長期停滞を招いた。 |
| いざなみ景気 | 2002年2月〜2008年2月 | 73か月 | それまでの戦後最長。輸出と企業収益は伸びたが賃金は伸びず、「実感なき景気回復」と呼ばれた。 |
| 今回 | 2020年6月〜継続中 | 74か月※ | 名目賃金は連続上昇も実質はマイナス基調。物価高で家計が圧迫され、中小企業の倒産も増加。実感は乏しい。 |
※7月速報時点での暫定的な月数。正式な認定は事後に行われる。
🔵 いざなぎ景気との決定的な違いは「成長の質」だ。いざなぎ景気は経済のパイそのものが年10%前後で拡大し、賃金が物価を上回って伸びた。だから国民は「豊かになった」と実感できた。対して今回は、いざなみ景気と同じく「輸出と企業収益は伸びるが家計に回らない」タイプ。長さの記録だけが更新され、暮らしの手ごたえはむしろ後退している。
過去最高益の裏で、倒産は12年ぶり高水準
🟢 「戦後最長」を映すのは指数だけではない。2026年上半期(1〜6月)の企業倒産は5,346件(前年同期比7.1%増、負債1,000万円以上)で、5年連続の増加。上半期に5,000件を超えたのは2014年以来、12年ぶりのことだ。
🟢 内訳を見ると深刻さがわかる。物価高が原因の「物価高倒産」は上半期556件で、半期ベースの過去最多を大幅に更新。「人手不足倒産」も過去最多となった。2025年通年の倒産は1万425件と、2年連続で1万件を超えている。
🔵 好景気なら倒産は減るはずだ。ところが現実は逆で、一部の企業が過去最高益を更新する裏で、原材料高と人件費上昇を価格に転嫁できない体力の弱い企業が次々と力尽きている。倒産の8割以上は「販売不振」が主因とされ、景気拡大の恩恵が届いていない層の存在を物語る。
🟡 日本銀行は6月、政策金利を1%(31年ぶりの水準)へ引き上げた。金利上昇は、多額の借入を抱える中小企業の資金繰りをさらに圧迫しかねず、年後半も倒産の増加傾向は続くとの見方が多い。
大企業がけん引、中小と家計に届かない果実
🟢 企業部門は好調で、直近の四半期でも経常利益は円安や旺盛な投資需要を背景に過去最高を更新している。景気をけん引しているのは、半導体や生成人工知能(AI)関連が好調な大企業だ。
🔵 一方で、報じられる高い「賃上げ率」の多くは体力のある大企業・上場企業の話だ。平均値は大企業の高い賃上げに引っ張られやすく、価格競争力に劣る中小企業の厳しさを覆い隠してしまう。中小では賃上げどころか価格転嫁すら十分にできない事業者が少なくない。
🔵 家計に目を移せば、額面が上がっても所得税・住民税・社会保険料が差し引かれ、手元に残る「手取り」は伸びにくい。物価高で支出は増え、手取りは横ばい──実生活が厳しくなるのは当然だ。しかもその物価高は税収を押し上げ、国の税収は過去最高を更新し続けている。国民の痛みが、そのまま国庫の潤いになっている。
まとめ:長いだけの景気に、意味はあるか
🔵 「いざなみ超え・戦後最長」は、統計上はほぼ事実だ。だが景気の長さは、暮らしの豊かさを保証しない。数字が最長記録を更新する裏で、実質賃金は下がり、手取りは増えず、倒産は12年ぶりの高水準に膨らみ、格差は開いている。
🔵 問われるべきは「何か月続いたか」ではなく、「その景気で、いったい誰が豊かになったのか」だ。忖度なしで言えば──今回の景気拡大の果実は、まだ多くの家計にも、多くの中小企業にも届いていない。