その風景に、ニューヨーカーたちはついにキレ始めている。
彼らはSNSでこう叫ぶ。「ニューヨークは世界一の都市じゃない。今はただの巨大な汚れたトイレだ」と
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雪解けで露わになった“汚物都市”NY
2026年1月末の大雪のあと、ニューヨーク市の311には犬のフンに関する苦情が殺到した。記録的な大雪の間、飼い主たちが雪の上に放置したフンが、雪解けとともに一斉に姿を現したのだ。ブロンクスの一角は「茶色い地雷原」としてSNSで拡散され、ワシントン・ハイツやブルックリンのサンセットパークでは通りごとに数十件単位で苦情が入ったという。
市の清掃担当者は、雪片づけを優先したことで通常のゴミ収集が丸一日以上遅れたと認めている。その結果、雪山のように積み上がったゴミ袋があちこちで崩れ、そこに隠れていた犬や人間の排泄物が、溶けた雪水と混じり合って歩道に広がった。ニューヨークのテレビ局は、溶けた雪の中から紙コップやマスクだけでなく、トイレットペーパー付きの排泄物まで流れ出す映像を放送し、市民の怒りに火を付けた。
街を歩いていたブルックリン在住の30代男性は、ローカル紙の取材にこうこぼしている。「ここは世界の首都じゃなくて、“野外トイレ”だよ。子どもを歩かせるのもためらう。」雪解けは、文字通りニューヨークの“内臓”をさらけ出してしまった。

マムダニ市長の誕生と、期待から不信へ
そんな中で舵取りを任されているのが、新市長ゾーラン・マムダニだ。前任のエリック・アダムズ政権からバトンを引き継いだ彼は、「警察一辺倒から社会サービス重視へ」「富裕層増税で財政再建を」という旗を掲げて登場した。選挙時には、警察予算の見直しや住宅、教育への投資を訴え、“新しいニューヨーク”を約束していた。
しかし就任から100日が過ぎる頃、市民の感情は期待から疑念へと変わりつつある。彼の最初の予算案では、学校や社会サービスへの支出を維持する一方、NYPDの予算を約2200万ドル削減し、新たに予定されていた5000人規模の警察官採用を取り消す案が含まれていた。治安よりも社会プログラムを優先させる考え方だが、すでに街の“生活の質”が崩れかけているニューヨーカーには、これが火に油を注ぐように聞こえた。
ブロンクスの飲食店経営者は、「店の前でケンカや薬物使用があっても、警察が来るまでに時間がかかる。そこからさらに警察官を減らす? 冗談じゃない」と怒りを隠さない。別の住民は「彼は理想主義の市長かもしれないが、この街は理想論では掃除できない」と嘆いている。
財政赤字と“削られる公共サービス”
マムダニ市長が抱えている最大の爆弾は、ニューヨーク市の財政赤字だ。前政権時代から続く移民対応費用やコロナ禍のツケで、市の予算には数十億ドル規模の穴が空いている。市はすでに図書館や学校、清掃、文化プログラムに対して複数回の予算削減を行っており、市民からは「削ってほしいのは汚物であって、公共サービスではない」という皮肉が飛んでいる。
マムダニ市長は、格差是正を掲げながらも実際には「痛みを伴う予算」を提示せざるを得ず、不動産税の引き上げや、市職員の採用抑制に踏み込んだ。その一部としてNYPDの人員計画が見直され、結果的に警察官数が数十年ぶりの低水準へ向かいかねない状況にある。財政危機と治安不安が同時進行しているのだ。
クイーンズの大学職員はこう語る。「市は“お金がない”と言うけれど、私たち市民からすれば、毎年増税されて、サービスだけが減っていく。雪解け後の汚れた街を見ると、“どこに税金が消えているんだ?”としか思えない。」
ホームレスキャンプの一掃と、州政府とのギクシャクした関係
街の景色を大きく変えているもう一つの要素が、ホームレスキャンプ問題だ。マムダニ市長は就任直後、前政権が行っていた警察主導の強制的なキャンプ撤去を一時停止した。しかし、厳冬期に路上生活者の死亡が相次いだことから、方針を転換し、今度は福祉局主導で「より人道的な形」として撤去を再開すると発表した。
具体的には、撤去予定地には1週間前から毎日アウトリーチ担当が入り、シェルターや支援サービスへの移行を説得する。その後、最終日に清掃と撤去を行うという段取りだ。とはいえ、ホームレス支援団体からは「名前だけ変えた従来の追い立てに過ぎない」「信頼関係を壊し、むしろ路上生活者を危険に晒す」と批判の声も強い。
そして、この一連の政策を横目で見ているのがニューヨーク州政府だ。州知事はすでに市の財政危機に対応するため、十数億ドル規模の支援を行ったものの、「これ以上、市の政策の尻ぬぐいをする余裕はない」と冷ややかなコメントを残している。マムダニ市長は、富裕層への増税や州レベルでの財政再配分を求めているが、州議会との交渉は難航しており、NYCと州政府の関係はどんどんギクシャクしている。
路上のリアル──市民が見ている“崩壊する生活の質”
統計上、殺人や重篤な暴力犯罪はパンデミック直後に比べて減少している。しかし、ニューヨーカーが実際に肌で感じているのは、別種の「治安悪化」だ。地下鉄では、薬物使用者が座席を占拠し、大声で叫ぶ動画が日常のようにSNSに上がる。歩道にはホームレスのテントやゴミ袋が並び、夜になるとネズミが駆け回る。
マンハッタンで通勤する女性は、「朝の地下鉄は、もはや“公共交通機関”ではなく、“サバイバルゲームのステージ”だ」と語る。クイーンズの住民は、「ゴミ収集日前日は、歩道に積まれたゴミ袋を避けるために車道の真ん中を歩いている。足元ではネズミが走り回っている」とこぼす。
これらはすべて、殺人件数や逮捕件数のグラフには載らない「生活の質」の崩壊であり、ニューヨークという都市ブランドを静かに侵食している。
“壊れつつある都市”ニューヨークはどこへ向かうのか
雪解けで露わになった汚物とゴミ、削られる公共サービス、財政赤字、警察官削減案、ホームレスキャンプ撤去の迷走、そして州政府との微妙な距離感。これらが重なりあい、ニューヨークは今、「世界の憧れの都市」から「なんとか日常をつなぎ止めている限界都市」へと変わりつつある。
もちろん、責任のすべてがマムダニ市長一人にあるわけではない。前政権から引き継いだ構造的な財政問題も、コロナ禍と移民急増の衝撃も、そして一人ひとりの市民のモラルの問題もある。それでも、雪解けの歩道に並ぶ汚物は、いまのニューヨークの精神状態そのものを象徴しているように見える。
ニューヨーカーが市長に求めているのは、抽象的なスローガンではない。明日、自分の子どもを安心して歩かせられる街かどうか。通勤で使う地下鉄が、恐怖ではなく日常として機能するかどうか。その一点だ。
マムダニ市政がこの現実から目をそらし続ければ、「汚物都市NY」というレッテルは、単なるネットスラングではなく、ニューヨークの新しい“公式ニックネーム”になりかねない。世界の首都が、汚物とゴミと諦めに飲み込まれてしまうのか。それとも、ここから本気の再生へ向かうのか。ニューヨークは今、歴史の分岐点に立たされている。