国連総会 第81回一般討論演説
トランプ氏「殲滅」発言、ペゼシュキアン氏が壇上で反論 ― 戦時下の隔日対決を読む
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🔵 2026年9月22日から23日にかけて、ニューヨークの国連本部で開かれた国連総会の一般討論演説は、開戦から7か月近くが経過したイラン・アメリカ戦争の当事国トップ同士が、壇上でほぼ隔日にわたって直接応酬する異例の展開となった。22日にトランプ米大統領が「イランを殲滅するか、合意させるか」という二者択一を突きつけ、その翌23日にはイランのペゼシュキアン大統領が同じ演台からトランプ氏を名指しで反論した。本稿では、両首脳の演説内容、会場の空気、そして欧米メディアがそれぞれをどう報じたかを、日本のメディアを介さず整理する。
トランプ大統領「合意させるか、殲滅するか」
🟢 22日の演説でトランプ氏は、自身の外交姿勢を「2年間、問題を先送りにせず行動してきた」と総括したうえで、イラン政策について次のように述べた。「大きな決断をしなければならない。イランがこれまで以上に偉大な国として再建することを許す合意を結ぶのか。それとも、二度と人々や国々を殺傷し破壊する機会を与えぬよう、迅速にイスラム共和国を殲滅するのか」。国とともに地獄に突き落とすという趣旨の表現も用いており、複数の主要メディアがこの一節を演説の核心として報じた。
🟢 トランプ氏は一方で、中間選挙(11月3日)後にイランとの合意が成立するとの見通しも語った。「私は立候補していないのに、彼らは中間選挙での私の成績を見極めようとしている」と述べ、イラン側が交渉引き延ばしを図っているとの見方を示した。実際、演説当日にはアメリカとイラン両当局者による3時間に及ぶ非公式協議が行われたことも明らかになっており、強硬な言葉とは裏腹に水面下での接触が続いている実態も浮かび上がった。
🟢 トランプ氏はイランを「テロの黒幕」と名指しし、各国に対して経済的にイランを孤立させ、交渉のテーブルに着かせるよう共同歩調を呼びかけた。「この体制が乱暴に振る舞うのは、強く自信があるからではない。弱く追い詰められているからだ」と主張し、「51年続いたイランのテロという脅威から解放された世界を、我々は間もなく目にするだろう」と結んだ。
ペゼシュキアン大統領の反論 ― 遺影を掲げた演説
🟢 翌23日、ペゼシュキアン大統領は「昨日、アメリカ大統領は我々をテロリストと呼んだ。我々こそがテロの犠牲者だ」と切り出し、演説の冒頭からトランプ氏への直接的な反論に踏み込んだ。イラン国内では穏健派とされる同氏だが、この日は一転して語気を強め、「我々は頭を下げず、屈することもない」とトランプ氏を名指ししたうえで、「我々は力の言語を受け入れることなく、対話・外交・交渉の用意がある」と述べた。
🟢 演説の中でペゼシュキアン氏は、昨年2月の米・イスラエル合同攻撃で殺害された最高指導者ハメネイ師の写真を掲げ、「法的根拠も理由もなく暗殺された」と訴えた。さらに学校やスポーツ施設への攻撃で死亡したとする子どもたちの写真と墓の写真も示し、「彼らは無実だった。何の罪も犯していなかった」と語気を強めた。核開発を巡っては「我々は核兵器を持たない。しかし平和目的の新たな原子力技術に制限は認めない」とも明言した。
🟡 ペゼシュキアン氏はまた「我々こそが不安定の原因だと言うのか。我々はただ独立して生きることを望んでいるだけだ」と述べ、混乱の責任はアメリカとイスラエルにあるとする立場を鮮明にした。演説当日の朝には、イラン軍がトランプ氏の「殲滅」発言について「戦略的な行き詰まりの表れ」と切り捨てる一方、自国の攻撃能力をさらに強化する用意があるとも表明していた。
会場の空気 ― 不在の名指し相手、退席する代表団
🟢 ペゼシュキアン氏が名指しで反論したトランプ氏本人は、この日会場にいなかった。トランプ氏は中国の習近平国家主席の訪米を控え、前夜のうちにワシントンへ戻っていたためで、名指しの応酬は"不在の相手"に向けて行われる形となった。演説にはイランのアラグチ外相も同席し、重厚な警備下でのニューヨーク入りとなったことも各メディアが伝えている。
🟡 会場では、ペゼシュキアン氏の演説中にアメリカ代表団が退席する場面があったと報じられており、演説内容の応酬にとどまらず、着席・退席という物理的な動きそのものが対立の可視化として注目された。一方で、ペゼシュキアン氏自身が「昨日トランプ氏の演説を聞いたあとに、当初用意していた原稿とは違う内容に変更した」と明かしており、両首脳の言葉が事前の想定を超えて即興的にぶつかり合った演説であったこともうかがえる。
同じ演台で語られた「もう一つの戦争」
🟢 ペゼシュキアン氏と同じ2日目には、ウクライナのゼレンスキー大統領も演説し、ロシアのプーチン大統領を名指しして「感染源(ペイシェント・ゼロ)」と呼び、「彼に与えられる自由が大きいほど、世界はすべての人にとってより危険になる」と警鐘を鳴らした。ゼレンスキー氏はこの日、ロシア軍によるキーウへの攻撃で少なくとも2人が死亡したことにも言及し、ロシアへの圧力強化を各国に訴えている。イラン・アメリカ戦争とロシア・ウクライナ戦争という、性質の異なる二つの戦争の当事者が同じ演台から連日訴えを行ったことは、今回の国連総会を象徴する場面の一つとなった。
🔵 なお、国連のグテーレス事務総長は開戦直後の2月末以降、一貫してアメリカ・イスラエルとイラン双方に攻撃停止と対話再開を繰り返し呼びかけてきた経緯があり、「紅海(ホルムズ海峡)が締め上げられれば、世界で最も貧しく脆弱な人々が息をできなくなる」と述べるなど、経済への波及にも警鐘を鳴らしてきた。今回の総会でのイラン問題への直接的な発言内容は限定的だったが、こうした経緯を踏まえて両首脳の演説を聞いていたことは想像に難くない。
演説要旨の比較
| 項目 | トランプ大統領(9/22) | ペゼシュキアン大統領(9/23) |
| 中心的な主張 | 合意か「殲滅」かの二択を提示 | 自国はテロの被害者であり、屈しない |
| 象徴的な演出 | 「殲滅」「地獄に突き落とす」という強い言葉 | 暗殺された最高指導者と犠牲になった子どもの写真を掲示 |
| 核問題への言及 | 核武装は絶対に容認しないと再強調 | 核兵器は保有しないが平和利用の技術は制限を認めない |
| 交渉への姿勢 | 中間選挙後の合意成立に自信 | 力による交渉は拒否、対等な対話には応じる用意 |
欧米メディアはどう報じたか
🔵 同じ二つの演説でも、各メディアの力点は大きく異なっていた。アメリカの主要放送局系サイトであるNBCやCBSは、トランプ氏の「殲滅」発言を見出しに据えつつ、同時期に実施された世論調査で有権者の56%が同氏の職務遂行を「支持しない」と答えた事実を併記し、内政的な逆風の中での強硬発言という文脈を強調した。経済ニュース専門のアクシオスは、関税や対イラン戦争によって同盟国との関係が「歴史的に緊張している」現状に焦点を当て、演説を対立国だけでなく同盟国向けのメッセージとしても読み解いた。
🔵 一方、ペゼシュキアン氏の演説については、経済専門メディアのCNBCや公共ラジオのNPR、国連公式媒体の国連ニュースが、写真掲示という演出面と「テロリストという言葉はテロリスト自身が使う言葉だ」という反論のロジックを詳細に取り上げた。ワシントン・ポストは、ペゼシュキアン氏が「トランプ氏の演説を聞いて用意していた原稿を変更した」という即興性に着目し、演説が単なる声明ではなく「応酬」として機能した点を伝えている。公共放送のPBSは2日間の演説を通し番組として構成し、事実確認記事を別途配信するなど、検証報道に重心を置いた。
🔵 総合ニュースのCNNやアルジャジーラは、イランだけでなくウクライナのゼレンスキー氏の演説も含めた「総会2日目」全体の動きとして報じ、複数の戦争当事国が同じ舞台に立つ国連総会という場そのものの異例さを強調する構成をとっていた。総じて、アメリカ寄りの媒体は国内政治への影響、経済メディアは市場や同盟関係、国連系・公共メディアは演説の演出と論理構成、総合ニュースは複数の戦争を横断する俯瞰的な視点、という役割分担が見て取れる。
| メディア | 報道の力点 |
| NBC/CBS | 「殲滅」発言と支持率低下という内政文脈 |
| アクシオス | 同盟国との緊張という経済・外交面の余波 |
| CNBC/NPR/国連ニュース | 写真掲示の演出とペゼシュキアン氏の反論ロジック |
| ワシントン・ポスト | 前日の演説を受けた原稿変更という即興性 |
| CNN/アルジャジーラ | 複数の戦争当事国が同時に演説する総会全体の俯瞰 |
まとめ ― 中間選挙という"時計"の下での対峙
🔵 今回の演説応酬から浮かび上がるのは、トランプ氏が「中間選挙後の合意」という自らの政治日程に交渉のタイミングを結びつけている点と、ペゼシュキアン氏が国内向けにも「屈しない姿勢」を示す必要に迫られている点である。演説当日にアメリカ・イラン双方の当局者が非公式に接触していたという事実は、公の場での強い言葉と水面下の交渉が並走している実態を示しており、対立が固定化したままなのか、中間選挙後に局面が動くのか、今後の国連総会の残り日程や両国の非公式協議の行方が焦点となる。