2026年9月13日時点、イランと米国の戦闘は半年以上を経てなお終息せず、外交面でも新たな火種が噴き出した。9月9日、国際原子力機関(アイエーイーエー)理事会がイランを国連安全保障理事会に付託する決議を採択。これにイランは激しく反発した。決議には日本も共同提案国として名を連ねており、テヘランと東京の伝統的友好関係にも微妙な影を落としている。本稿はアルジャジーラを基軸に、CNN、フォックス・ニュース、BBC、AFP、米国防総省、イラン外務省、日本国外務省などの一次情報を横断的に検証し、日本への影響まで掘り下げる。
国際原子力機関(アイエーイーエー)決議とイランの猛反発
🟢 国際原子力機関(アイエーイーエー)理事会は9月9日、イランを国連安全保障理事会に付託する決議を、賛成23、反対3、棄権8で採択した。反対に回ったのはロシア、中国など。イランが国連安保理に付託されるのは約20年ぶりで、決議は米国、英国、フランス、ドイツの4カ国が主導した。今回の付託は、昨年(2025年)採択された「不遵守」認定決議を、正式に安保理へ報告するための追加決議という位置づけになる。
🟢 これに対し中東の情報サイト「ミドル・イースト・アイ」によると、イランの国連(ウィーン)大使ゴラムホセイン・ダルズィ氏は安保理議長宛ての書簡で「イランの平和的な核計画に対する新たな非難は政治的なものであり、技術的根拠を欠く」と全面的に反論。「イラン・イスラム共和国は、本会合で一部の加盟国が提起した根拠なき非難と歪曲を断固として拒否する」と述べた。
🟡 イラン国連代表部(ウィーン)はSNS声明で、この決議が「不拡散体制そのものの最終的崩壊を助長する」と警告した。声明は、米国とイスラエルが「平和的で査察下にあった核施設」を爆撃し国際法と国連憲章の基本原則に違反したと非難し、現在の事態を招いた「唯一の原因」は両国の「犯罪的行為」にあると主張。小学校で168人の子どもが死亡した事例や結婚式への攻撃など、民間人被害にも言及した。
🔵 決議自体は元々、イランが未申告施設で検出されたウラン痕跡について説明を果たしていない問題に端を発するが、現在では米国・イスラエルによって爆撃された施設への査察アクセスを巡る新たな対立も加わり、核問題の構図は一段と複雑化している。
イランと日本の外交応酬
🟢 日本の外務省発表によれば、茂木敏充外相は9月8日、イランのアラグチ外相と25分間の電話会談を行った。茂木氏はサウジアラビアやオマーンへの自身の訪問に触れつつ、事態の早期沈静化と米イラン協議の再開の重要性を強調。イランに対し「最大限の柔軟性」を示すよう強く要請したほか、民間船舶への攻撃継続に懸念を表明し、最大限の自制を求めた。
🟢 その翌日の9月9日、日本は国際原子力機関(アイエーイーエー)決議の共同提案国13カ国の一つとなった。英国政府が公表した4カ国(クアッド)共同声明でも、アルゼンチン、オーストラリア、ベルギー、カナダなどと並び「日本」が共同提案国として明記されている。電話会談での自制要請と、翌日の圧力側への同調という二つの動きが、わずか1日の間に連続した形だ。
🟡 決議に対しイラン側から日本を名指しした直接的な非難声明は、現時点で確認されていない。ただしイラン国連代表部は決議全般について「政治的圧力の道具として機関が利用されている」と強く批判しており、共同提案国に名を連ねた日本も、その批判の射程に含まれる立場にある。過去にはイランが、日本による国連制裁の再適用を「法的に無効」と断じた前例もあり、今後テヘランが対日姿勢を硬化させる可能性は否定できない。
🔵 日本政府は伝統的に「対話による解決」を掲げ、イランとの独自パイプラインを維持してきた経緯がある。今回、欧米主導の対イラン圧力策に同調した形となったことで、テヘランとの伝統的な友好関係に微妙な影響が及ぶ可能性がある。自制を促す仲介役でありながら圧力側にも回るという、日本外交の難しい綱渡りが浮き彫りになっている。
ホルムズ海峡:タンカー戦争の激化
🟢 アルジャジーラによれば、米国とイランは9月上旬、ホルムズ海峡周辺で報復の応酬を強めた。米軍がイランの石油タンカー3隻を攻撃したのに対し、イラン革命防衛隊は米艦艇に向けて弾道ミサイルを発射し、専門家はこれを「計算されたエスカレーション」と分析している。
🟢 さらに9月11日には、イラン革命防衛隊がホルムズ海峡の入り口付近で米軍運用の無人水上艇(サーフェスドローン)を撃破したと発表した。イラン国会国家安全保障委員会報道官のハッサン・ガシュガヴィ氏はアルジャジーラの取材に対し、「これは米国との存亡をかけた戦争だ」と述べ、米国による海上封鎖は「そもそも成立してはならないものだった」と主張した。
🔵 米国務省・国防総省筋は、ホルムズ海峡を通過する原油の輸送量が増加していると主張するが、正確な数値は依然として不透明であり、イラン側の港湾に対する米軍の海上封鎖も継続中である。双方とも「制海権を握っている」と発表を続けており、現地の実勢と公式発表の間には大きな乖離が見られる。
サウジ石油パイプライン攻撃とフーシ派の紅海制圧
🟢 米ABCニュースによると、サウジアラビアは9月11日、東西を結ぶ主要原油パイプライン「ペトロライン」を予防的措置として停止したと発表した。同国エネルギー省筋は「攻撃発生後、緊急対応チームが直ちにパイプラインの安全確認作業に着手した」と説明している。このパイプラインはホルムズ海峡封鎖の影響を緩和する生命線とされてきた。
🟢 米NBCニュースは、イランが支援するフーシ派が9月中旬までにイエメンの紅海沿岸全域を制圧したと報じた。これによりバブ・エル・マンデブ海峡という世界有数の海運要衝がフーシ派の手中に落ちた形となる。サウジアラビアはこの攻撃について、イラク領内から発射されたドローンによるものと発表し、イラク首相府の要請を受けて当面は報復しない方針を示したが、「主権と安全保障、重要施設を守るためあらゆる措置を講じる権利を留保する」と警告した。
🟡 米国政府高官はABCニュースに対し、トランプ政権はサウジアラビアに情報提供や標的選定支援を行っているものの、現時点でフーシ派への直接攻撃は計画していないと述べた。サウジ皇太子ムハンマド・ビン・サルマン氏は米国の直接軍事介入を要請したとされるが、トランプ大統領は9月12日、皇太子との電話会談後「すべてうまくいく」と記者団に語るにとどめた。
トランプ大統領、トゥルース・ソーシャル投稿の内容
🟢 アルジャジーラの分析によれば、トランプ大統領は2月28日の開戦以降、自身のSNS「トゥルース・ソーシャル」でイランに言及した投稿を少なくとも319回行っており、平均して14時間に1回のペースとなる。開戦発表から停戦、交渉、そして戦闘再開に至るまでの経緯が、大統領自身の言葉でそのまま記録されている状態だ。
🟢 米CNBCによると、トランプ氏は9月7日、10時間以上にわたり人工知能(エーアイ)生成画像を大量投稿し、「株式などで米国のために数千億ドルを稼いだ」とする未検証の主張を繰り返した。投稿にはイランを打ち負かす自身の姿や、ジョージ・ワシントンと共に馬に乗る自身を描いた画像などが含まれていた。
🟢 米CBSニュースが伝えたところでは、トランプ氏は9月2日の投稿で「イラン国民はいつ蜂起して戦うのか」と問いかけ、イラン体制について「経済は完全に崩壊しつつある」と断じた上で、「彼らにとって無価値な合意に署名しようがしまいが、私はどうでもいい」と述べている。
🟢 米ABCニュースによれば、トランプ氏は9月11日、米同時多発テロ25周年に合わせた国防総省での式典演説の中でイラン戦争に言及し、「世界一のテロ支援国家であるイラン・イスラム共和国が、決して核兵器を持つことがないよう任務にあたる兵士たちに敬意を表する」と述べた。同氏はさらに、9月10日には「イラン戦争が自身の任期中に続く可能性はゼロだ」とも発言している。
米イラン両政府の公式見解
🟢 米ABCニュースによると、ピート・ヘグセス米国防長官は9月11日、「米国はホルムズ海峡を掌握しており、この戦いを終わらせる」と発言した。米中央軍(セントラルコム)も同日、海上封鎖の一環として9月12日時点で商船59隻の進路変更、3隻の航行不能化、2隻への臨検を実施したと発表している。
🟡 一方でイラン国営メディアが伝えたところによると、イラン外務省報道官エスマイル・バガイ氏は9月11日、「イランとオマーンの間でホルムズ海峡における商船の安全航路確立に関する交渉結果」を協議するため、月曜日に湾岸諸国との地域会合を開くと発表した。イラン側はこの発表を通じ、外交の主導権を握ろうとする姿勢をにじませている。
🔵 双方の公式発表を突き合わせると、米側は軍事的優位を強調する一方、イラン側は外交攻勢を前面に押し出しており、情報戦の様相を色濃く帯びている点に留意が必要だ。
逼迫するイラン国内経済
🟢 欧州のユーロニュースによると、イランの通貨リアルは自由市場で急落を続けており、対ドル相場は2026年3月の1ドル=約145万リアルから、9月上旬には210万リアルを突破した。9月11日時点では1ドル=234,000トマン(234万リアル)、ユーロは過去最高値の27万3,000トマンまで上昇した。
🟢 トランプ大統領は記者団に対し「彼らの国はもう破壊されている。ご存じの通りインフレ率は300%だ」と述べたと報じられている。一方でイラン国会国家安全保障委員会報道官のガシュガヴィ氏は、「経済については内を見つめ直す必要がある。分配の不公正、一部エリートへの富の集中、広範な汚職や派閥的利益が、米国以上に我々の経済を蝕んでいる」と、体制内部からも構造的な失政を認める発言をしている。
🟢 アルジャジーラによれば、イラン政府は9月上旬、ガソリン価格の再値上げに踏み切った。基礎枠となる月間110リットルまでは現行価格を維持するが、それを超える分は1リットル5万リアルから10万リアルへと倍増する。テヘラン市内のガソリンスタンドには長蛇の列ができているとSNS上で報告されており、2019年の反政府デモの引き金となった燃料値上げの記憶が、当局に慎重な対応を強いている。
🟡 米経済誌フォーチュンは、開戦以降イラン国内の物価が40%上昇し、当局が公務員給与の支払いにさえ苦慮していると報じた。工場やエネルギー施設、橋梁、鉄道が破壊され失業者が増加する中、イラン経済の脆弱性こそが「体制にとって最大の弱点」になっているとの見方を伝えている。
イランと湾岸諸国:サラーラ会談へ
🟢 英フィナンシャル・タイムズ紙(複数メディアが引用)によると、イランとオマーンの仲介の下、湾岸協力会議(ジーシーシー)加盟6カ国の外相とイラン外相による会合が、9月14日にオマーン南部の都市サラーラで開催される予定だ。開戦後、湾岸協力会議とイラン高官がひとつの場に集うのはこれが初めてとなる。
🟢 米インド系メディアの報道では、イランのアラグチ外相は9月12日夜、ブリックス首脳会議出席のためインド・ニューデリー滞在中にオマーンのバドル・アルブサイディ外相と電話協議を行い、ホルムズ海峡の管理を巡るテヘラン・マスカット間の合意案について協議を重ねた。会合にはイラン、イラクを含む湾岸沿岸8カ国の外相が参加する見通しとされる。
🟡 ただし地域内の足並みは揃っていない。バーレーンはイランとの外交関係が正式に回復されるまで会合をボイコットすると表明しており、サウジアラビアやアラブ首長国連邦の参加も現時点では流動的だ。フーシ派とサウジ主導部隊との衝突激化が、会合の行方に影を落としているとの指摘もある。
和平交渉の行方
🔵 今年6月に米イラン間で交わされた覚書(メモランダム)に基づく停戦の枠組みは、事実上崩壊した状態が続いている。イラン側は覚書に定められた60日間の交渉期限について「米国側が既に合意を破った以上、意味を失った」(イラン外務省報道官バガイ氏)との立場を崩していない。
🟢 一方でイラン大統領マスード・ペゼシュキアン氏は、ブリックス首脳会議の場でインドのメディアの取材に応じ、「米国がイランに対する海上封鎖を解除すれば、ホルムズ海峡は再開される」と明言した。イランとオマーンはサラーラでの会談と並行し、両国領海を分担する形での航路合意にも近づいているとされる。
🔵 米国側が求める「核」に関する一点が依然として最大の障壁であり続けており、トランプ大統領自身も「イランは私が必要と考えるような合意はしないだろう」と繰り返し発言している。軍事衝突と外交交渉が同時進行する現状は、当面続く公算が大きい。
日本への影響
🟢 米シンクタンク戦略国際問題研究所(シーエスアイエス)の分析によれば、日本政府は開戦直後の3月16日から国内需要45日分に相当する原油8,000万バレルの放出を開始した。日本の原油備蓄は合計4億7,000万バレル、国内需要254日分に達し、世界でも有数の備蓄量を誇るが、液化天然ガス(エルエヌジー)の在庫は約3週間分にとどまり、価格上昇圧力を完全に避けることは難しいと指摘されている。
🟢 ジャパンタイムズによれば、日本関連の液化天然ガス(エルエヌジー)船および日系運航船は、緊張の再燃にもかかわらずホルムズ海峡の通過を一部再開しており、直近では数日間で日本関連船22隻が湾岸を離れたことが確認されている。ただし、日本郵船や商船三井といった大手海運各社は、危険情勢が高まる局面では自社船の航行を一時停止する対応を繰り返してきた。
🔵 フーシ派による紅海の実効支配が強まれば、ホルムズ海峡だけでなくスエズ運河・紅海ルートも同時にリスクにさらされることになり、日本のエネルギー調達および海上輸送コストへの二重の圧迫となりかねない。今後の物価やガソリン価格への波及にも注視が必要だ。
まとめと今後の焦点
🔵 現状を俯瞰すると、①国際原子力機関(アイエーイーエー)決議を巡る国際社会とイランの対立、②日本を含む共同提案国とテヘランの外交応酬、③ホルムズ海峡での軍事的消耗戦、④フーシ派による紅海制圧という新たな火種、⑤逼迫するイラン国内経済、⑥湾岸諸国とイランの異例の外交接触という、複数の動きが同時進行している。9月14日のサラーラ会談が実現するかどうかが、当面の最大の焦点となる。
| 日付 | 出来事 |
| 9月8日 | 茂木外相とアラグチ外相が電話会談、日本がイランに自制を要請 |
| 9月9日 | 国際原子力機関(アイエーイーエー)理事会、イランの国連安保理付託を決議(日本も共同提案国)/イランが猛反発 |
| 9月11日 | イラン革命防衛隊が米軍無人艇を撃破/サウジが東西パイプライン停止/フーシ派が紅海沿岸を制圧 |
| 9月12日 | トランプ氏、サウジ皇太子と電話会談/アラグチ外相とオマーン外相が電話協議 |
| 9月14日(予定) | オマーン・サラーラでイラン=湾岸協力会議(ジーシーシー)外相会談 |
※参考:アルジャジーラ、CNN、フォックス・ニュース、BBC、AFP、ABCニュース、NBCニュース、ミドル・イースト・アイ、ユーロニュース、フォーチュン、ジャパンタイムズ、日本国外務省、国際原子力機関(アイエーイーエー)、英国政府、英フィナンシャル・タイムズ紙、各種一次情報を基に構成。情報は2026年9月13日時点のもの。